空き家の実家「貸す」「売る」どちらがいい?判断基準をプロが徹底解説!
親が老人ホームに入所した後の誰も使わない実家は、売ったほうがいいのでしょうか。
それとも貸したほうがいいのでしょうか。
みなさんが不動産の売買仲介会社、賃貸仲介会社、アパートメーカーなどに話を聞きに行っても、最適な回答を得ることは難しいかもしれません。
売買仲介会社は売買査定をしてくれますが、賃貸や建て替えの話は積極的にしてくれません。アパートメーカーに相談したらアパート建築の話が中心です。
自社の利益に誘導しますから当然と言えば当然です。
「いくらで売れそうか」「いくらで貸せそうか」は確認できても、あなたの家にとってどの選択が最適なのか比較検討をしてくれる不動産会社がいないので、結局どうしたらいいのか分からずじまいです。
そこで本記事では、空き家になる実家を売却や賃貸する前に考えるべきことや、比較検討するポイントをお伝えします。
本記事のポイントは以下の通りです。
・空き家になる実家を売るか貸すか迷ったら「対象不動産の情報」「親の健康状態や気持ち」「子や家族の考え」をまず確かめる。
・実家と家族の現況を踏まえて、実家を売る場合・貸す場合の具体的な収益シミュレーションをすると、後悔のない判断ができる。
・売却タイミングや賃貸するかどうか次第で、売却手取り額が最大数百万円変わることもある。
実家に関する相談増加の背景
社会問題化している、増え続ける空き家。これに伴い、空き家に関する相談も増えています。
その背景として核家族化と2025年問題という社会的要因が挙げられます。
核家族化で家が余る
親や子世代ごとに家を持ち別々に暮らしているため、親が老人ホーム等に入所すると使う人がいなくなり「家余り」が起きています。
2025年には4人に1人が後期高齢者へ
およそ806万人いると言われている団塊世代が2025年には皆75歳以上になり、後期高齢者数は2,200万人を超えると言われています。
厚労省の発表では「75歳近くになると健康に不安を抱える方が増える」という健康寿命データがあります。これにより、老人ホーム等への入居が増え、誰も使わない実家も増えるでしょう。
※厚生労働省ホームページより
平均寿命:男性80.98歳、女性87.14歳(青線)
健康寿命:男性72.14歳、女性74.79歳(赤線)
平均寿命と健康寿命の差がおよそ10年あります。
つまり、健康ではない状態が10年続くということです。
この10年間の間に子は、固定資産税や実家の管理(雑草、換気など)、火災保険料などの費用や手間を負担し続けることになるため、貸したほうがいいのか、いっそのこと売却してしまったほうがいいのかと考え始めるのです。
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実家をどうするか悩んだら行うこと
「親がいつでも戻れる場所にしておきたい」
「売却するときは手残りを多くしたい」
「賃貸収入を得て親の生活費の足しにしたい」
空き家となる実家をどのようにするのか、親や子の思いは家族によってさまざまです。
少ない情報で判断してしまうと、家族の希望を叶えられなかったり、損してしまったりすることもあります。
皆さんは後悔しないよう、まずは次の情報を集めてください。
不動産と家族の現状を把握する
1.実家の不動産情報
売買や賃貸などの査定に利用します。
1-1 登記簿謄本
1-2 土地や建物の図面(測量図、竣工図)
1-3 土地や建物にある住宅設備
1-4 判明している不動産の問題点(設備故障、隣地と境界点で揉めているなど)
2.親の状態
実家活用や税金特例の判断に利用します。
2-1 介護認定の有無 意思判断能力の減衰有無も併せて確認
2-2 健康状態 快復の見込みがあり家に戻れるかどうか
2-3 自宅に関する考え 終の棲家、管理処分判断を子に託すなど
3.子や家族の考え
親の考えも踏まえ、最終意思決定に必要です。
3-1 実家を利用(住む等)したい、相続のとき貰いたい、残したいか
3-2 親の介護や生活費の工面方法
3-3 何を尊重するのか 親の気持ち、売却手残りなど
空き家の収益力をシミュレーション
そして不動産情報から、不動産会社等に依頼し次の数値を確認します。
(賃料収入から管理費などの経費を差し引いていくら手残りがあるか)
b) 空き家の売買査定(売却すると、手取りがいくらになるか)
c) 空き家を賃貸アパート等に建て替えた場合の有効活用方法のシミュレーション
これらの情報を参考に、以下の項目も加味しながら、後悔しないための判断材料を作り込んでいきます。
・売却タイミングなどによる税特例の適用可否
・生前売却、賃貸して相続後に売却など、手取り額のシミュレーション
大事なことは具体的に数値に落とし込んでいくことです。
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事例
親や家族の考えを把握したうえで、お金の面でどのように検討していくべきか、参考となる事例でお伝えします。
相談内容
解決方法
ご面談の内容から、まずは不動産情報の収集や家族の他の状況などを確認していきます。
家族の意思と状況を確認し合ったうえで、不動産を売ったらどうなるか・貸したらどうなるかを検証します。
月額15万円/年間賃料収入180万円
【売買査定結果】
空き家のままで売却すると3,000万円/賃貸し借家人がいる状態で売却すると1,500万円
※賃借人がいるとは賃貸不動産として評価されることから、売買価格が下がることがあります。
※賃貸と売買に焦点をあて、有効活用は割愛します。
実家の売買での税特例には以下のようなものがあります。
・居住用財産の3,000万円特別控除
・相続空き家の3,000万円特別控除
※各種特例には適用要件があり満たす必要があります。詳しくは税務署や税理士へお問い合わせください。
▽相続空き家の3,000万円控除についてはこちらで解説しています▽
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実家を売却するか、賃貸するか、賃貸して相続後に売却するかなどによって、使える特例が異なります。
各3,000万円特別控除によって譲渡所得税の軽減を受けられるかで、手取り額が大きく変わります。譲渡期限や過去に賃貸したことがあるか否かなどを把握したうえで判断材料とする必要があります。
次に売買/賃貸の査定や賃貸収支シミュレーションをしてみます。
この表の右列「概算手取り」を見てみると、当該事例のお客様は、売買や賃貸をするか、しないか、いつ実行するのかで手取り額が大きく変わることがわかりました。
10年間賃貸していたとしても、手取り額での視点では賃貸しない方が良いこともわかりますね。
このように具体的に数値化することで、
『税特例を受けられなくても維持する』という、手取り額が減っても実家を残す判断
『税特例を受けたいから、3年後に売却する』という、実家を処分する前提の判断
など、『いつまでなら貸せる』『いつまで空き家としておくことができる』ということが分かります。
長男さんと長女さんは、お母様の「快復したら自宅に戻りたいという想いを尊重しつつ、老人ホーム等に入所してから3年間は家を売却せず維持する、と期限を決めてお母様のご様子を見ることにしたようです。
その判断ができたのは、長男さん曰く『実際に数値としてみると、売却のタイミングや賃貸すべきかどうかの判断基準の一つとすることができた。』からだそうです。
当該事例でお伝えした検証点の他にも、下記のような視点を加えていくことでご家族によってより良い資産承継の対策ができます。
・相続税評価額を下げる。(賃貸して評価減⇒相続税負担が減る)
・貸し方を工夫する。(売却するときに収益不動産ではなく空き家として売却する)
賃借人あり収益不動産1,500万円⇒空き家にする⇒賃借人なし3,000万円とする)
・遺産分割/節税対策する(例:兄弟2人が揉めないように、実家売却して、区分マンション2戸購入し、1戸ずつ分ける)
・数年間何もしない場合は、意思判断能力の喪失が懸念されます。喪失すると賃貸や売買などの契約行為が一切できなくなるのでリスク対策が必要です。
▽家族信託についてはこちらで詳しく解説しています▽
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まとめ
・空き家になる実家を売るか貸すか迷ったら「対象不動産の情報」「親の健康状態や気持ち」「子や家族の考え」をまず確かめる。
・実家と家族の現況を踏まえて、実家を売る場合・貸す場合の具体的な収益シミュレーションをすると、後悔のない判断ができる。
・売却タイミングや賃貸するかどうか次第で、売却手取り額が最大数百万円変わることもある。
実家を“貸す売る建て替える”を考えるには、まずは不動産の状況や家族の考えを整理したうえで、『実際に貸したら、売却したら、建て替えたらどうなるのか』を各種税金特例や遺産分割のことまで検証に加えて進めていきましょう。
そうすることで、親子が納得して、揉めることもなく、そして、知っておけばよかったという後悔をすることがありません。
プロサーチ株式会社 代表取締役 松尾 企晴(まつお きはる)
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。