令和5年路線価発表!結果から見る、いま顧客に必要な提案とは!?
令和5年度の相続税路線価(2023年1月1日時点)(以下、「路線価」という)が7月3日に発表されました。
この路線価は土地の相続税評価額(以下、「評価額」という)を計算する際に用いられるだけではなく、不動産マーケットの動向の振り返りや予測を立てる指標の一つです。
不動産相続対策を始めるお客様のためにも、専門家として押さえておきましょう。
さて、昨年の路線価は、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の影響からの回復の兆しが見え、全国平均が2年ぶりに上昇する結果となりました。
現在は緊急事態宣言もなくなり、その影響がどう表れているか注目です。
それではさっそく見てまいりましょう。
本記事のポイントはこちら。
・路線価の最高値は38年連続で『銀座5丁目鳩居堂前』。3年ぶりにプラスに転じ、商業地の回復が鮮明に。
・路線価の上下によって相続対策に大きく影響するため、相続税額の増加、納税用資金への影響、遺産分割への影響、時価と評価額の乖離を定期的に見直すことが必要。
・マンションの評価方法是正に注意。評価は時価の6割となり令和6年1月1日から適用される可能性がある。
令和5年度の相続税路線価の発表
全国の平均変動率は前年比1.5%プラスで、昨年に続き2年連続の上昇です。
コロナ禍で停滞していた商業地や観光地の回復が鮮明に出たといえるでしょう。
都道府県別ランキング(上昇率・下落率)
上昇したのは25都道府県で、コロナ禍前の21都道府県を上回りました。
下落したのは20県で、下落幅は福井県以外でいずれも縮まっています。
※国税庁HP「令和5年分都道府県庁所在都市の最高路線価」参照
上昇・下落ランキング共に、前年とほぼ同様の顔ぶれです。
上昇率1位の北海道は、プロ野球の日本ハムファイターズの新球場が開業した北広島市や、札幌市の新幹線開業等の再開発事業に伴う周辺の住宅地需要も好調となったため、6.8%上昇(前年比+2.8%)しています。
福岡県も天神周辺のマンション需要が堅調で4.5%、宮城県は仙台市南部を中心に住宅地の上昇が顕著で4.4%上昇しています。
都道府県庁所在地別ランキング(上昇率・下落率)
都道府県庁所在地の最高路線価では、上昇した都市が前年の15都市から29都市に大幅増加しています。
※国税庁HP「令和5年分都道府県庁所在都市の最高路線価」参照
全国で路線価が最も高かったのは、今回も銀座5丁目「鳩居堂前」の土地で1.1%上昇(4,272万円/㎡)、3年ぶりにプラスに転じて38年連続の1位となりました。
2位は大阪市の「御堂筋」で1,920万円/㎡、3位は横浜市の「横浜駅西口バスターミナル前通り」1,680万円/㎡で、こちらも昨年と順位の変動はありませんでした。
お客様の提案に必要なこと
冒頭にも述べた通り、路線価は土地の相続税評価額に直結します。
対策を講じるうえで押さえておきたいポイントは、下記の4点です。
①相続税額
②納税用資金
③遺産分割
④時価と評価額の乖離
相続税額
コロナ禍以前(概ね5年以上前)に相続対策をしたお客様には、今すぐ相続税の再試算をご提案しましょう。
具体的な事例として、私のお客様で東京都中野区の土地をお持ちの方がいらっしゃいましたが、相続対策をした5年前と比較して路線価が2割も上がっており、相続税率も最高税率55%であったため、急遽、追加の相続対策を実行しました。
納税用資金
数年前に相続税を試算し、その相当額を用意しているお客様は要注意です。
上記の事案のような評価額の上昇による税負担増に対応しておかないといけません。
不動産を売却した代金で納める→評価額と時価が連動して上がっている時点であれば問題ありませんが、時価が下がり始めている時点では要注意です。
売却査定で年1度くらい見直すことをオススメします。
現預金で納税→不足が生じるようであれば、現金資金を追加するか、売却換金化する財産を工面しておくことが必要でしょう。
遺産分割
路線価は1年前のデータを基に作られる数値ですから、時価と乖離することがしばしばあります。
例えば、リーマンショックのように『評価額は高いままだが時価は低くなる』といったケースです。
このように時価と評価のバランスを意識して遺産分割(遺言なども含む)をしていたとしても、そのバランスが崩れると、遺言や遺産分割をし直す可能性もでてくるでしょう。
相続人間の争いを避けるためにも、できるだけ定期的に財産評価の見直しをおこない、遺言書を書き直すなどの対策が必要ではないでしょうか。
時価と評価額の乖離
遺産分割のとき、評価額を基にするケースもあれば、時価を基に分けることもあります。
評価額と時価の関係は、80:100であることが多いのですが、不動産の種類によっては全く異なることがあります。
30坪の宅地 | 評価額80:時価100(一般的に流通する宅地) |
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300坪の宅地 | 評価額50:時価100(地積規模の大きな宅地の評価を採用) |
区分マンション | 評価額30:時価100 |
一棟アパート | 評価額60:時価100 |
上記は、時価を100として見たときの評価額との差です。
評価額は路線価の影響を受け、時価はマーケットの影響を受けます。
ここで注意して頂きたいのが、区分マンション(タワーマンション)の評価額です。
税制改正大綱に「マンションの相続税評価を見直す」と明記されているのです。
記憶に新しいのは、札幌南税務署管轄を発端とした”路線価否定判決“で、マンションの評価額と市場価格との著しい乖離も問題視された事案がありました。
※最高裁判決で納税者が敗訴!“やり過ぎ相続税対策”の問題点と、今後気を付けるべきポイント
国税庁の資料から(資料は下記図の後のリンクより)、一戸建ての評価額と時価の乖離率は平均1.67倍となっており、時価の6割程度で評価されていることになります。
しかし、マンションは乖離率が平均2.34倍と高く、さらに42%ものマンションが2.5倍以上の乖離率となっているのが現状です。
そのため、有識者会議にて、概ね乖離率が高いマンションは、時価の60%評価となる見通しのようです。
※国税庁「第3回有識者会議令和5年6月22日)」資料参照
「マンション投資による相続税対策にメスがはいる」と騒がれていて、確かにこれまで時価の7~8割下げて評価できたことが、6割で評価しなさいとなるわけです。
しかし、別の見方をすると「6割で評価してよいと国税庁のお墨付きをもらえたことになる」ともいえるかもしれませんね。
遺産相続コンシェルジュより
本記事のポイントはこちら。
・路線価の最高値は38年連続で『銀座5丁目鳩居堂前』。3年ぶりにプラスに転じ、商業地の回復が鮮明に。
・路線価の上下によって相続対策に大きく影響するため、相続税額の増加、納税用資金への影響、遺産分割への影響、時価と評価額の乖離を定期的に見直すことが必要。
・マンションの評価方法是正に注意。評価は時価の6割となり令和6年1月1日から適用される可能性がある。
また、2023年6月の訪日外国人の人数が、コロナ禍前3年5か月ぶりに200万人を突破したニュースが出てきていますので、来年度の路線価は更に向上し、今後ますますインバウンド需要は加速する可能性があります。
インバウンドの影響を受けて時価が上がる地域と、下がる地域が鮮明になり、不動産の市況はこれから厳しくなると予想されていますから、ますます時価と相続税評価額の差がつきます。
お客様の相続対策が路線価の影響を受けても許容範囲で収まるように、年1度は時価や相続税評価額を見直して修正を加えることが必要でしょう。
(記:友重孝一朗)