遺言が思わぬ相続トラブルに発展!?円満遺言の3つのポイント
皆さんは遺言書を書いたことがありますか?
必要だとわかっていても「まだ早いから」と先送りにしてしまったり、どんな財産があるのか把握できていなかったりして、なかなか筆が進まない方も多いでしょう。
また、遺言書をただ書けばいいかというとそうではありません。
なぜならば、相続財産の分割が平等ではない場合、トラブルの原因になり得てしまうからです。
では、トラブルを回避して全員が納得できる相続をするにはどうすればよいのでしょうか。
今回の記事のポイントは以下の通りです。
■「争族」を回避するには、遺言書を残しておくことがとても有効な手段であることは間違いないが、内容によっては大きなトラブルを招くことがある。
■事例:遺言書を残していたのに兄妹間で大揉め。その原因は2つの欠点にあった。
■遺言書がもとで争族にならないよう、事前に相続人や専門家に話をしたりするなど、自分の想いを確実に叶えられるように工夫すべき。
なぜ遺言書が必要なのか
相続が起きた時、遺言書の有無によって、遺産分割に大きな違いがでます。例えば、遺言書もなく、分割協議で揉め、相続税申告時に未分割となると、本来なら適用できる特例(小規模宅地の特例など)が適用できない、不動産の売却や賃貸もできない・・・など、資産へのマイナス影響がでてくる可能性があります。
遺言書があれば、相続人全員の意思が一致しなくても、遺産分割が確定します。
②遺言書がある場合・・協議なく分割決定できる
「争族」を回避するには、遺言書を残しておくことがとても有効な手段であることは間違いないでしょう。
しかし遺言書の書き方、残し方を一歩間違えると、逆に大きなトラブルを招く危険性も潜んでいます。
では、遺言書がトラブルにつながってしまった事例をみていきましょう。
遺言書がトラブルのもとになった事例
今回の事例の登場人物は、長男Aさん、次男(弟)Bさん、長女(妹)Cさん。3人のお母様が亡くなった時の話です。
お母さんの保有していた財産は、自宅(土地200坪と古い建物)と現金などの流動資産でした。
お母さんは次のような内容の遺言書を残していました。
「私○○は、所有する全ての財産を長男Aに相続させる。」
お母さんの遺言書に書かれていたのは、たったこの一言だけだったのです。
長女のCさんはこの分割に納得がいかず、弁護士を通じて、Aさんに遺留分を請求(遺留分侵害額請求権といいます)してきました。兄妹間での争いを避けたいと思ったAさんはCさんの請求通りの遺留分を金銭で支払うことにしました。
一旦収まったと思いましたが、その後も、CさんからAさんに対して「本来、私は母親の財産の1/3を相続する権利がある」と、何度も何度も手紙が送られてきたといいます。
そしてそれ以来、Cさんは兄弟の前に全く顔を出さなくなったのです。
遺言があったのになぜトラブルが起きてしまったのか
まず一つは遺留分に対する配慮が欠けていたことです。
遺留分とは、「民法で定めている一定の相続人が最低限相続できる財産のこと」をいいます。
今回のケースでいうと、長女のCさんはお母さんの財産のうち1/6(法定相続分1/3×1/2)の遺留分があります。もし、お母さんが遺言書に遺留分について長女Cさんへ引き継ぐ財産を書いておけば、また違った結果になっていたかもしれません。
※遺留分の価格を決定するには、「相続財産評価(税金を計算する根拠となる価格)」とするのか「時価(実際に売れる価格)」とするのかという問題があります。
一般的には相続財産評価<時価という価格の関係がありますので、特に不動産は評価額だけではなく時価も把握しておくことがとても大切です。
そしてもう一つのトラブルの原因は、遺言書には財産についての記載しかなかったことです。遺言書の中で、お母さんはなぜAさんに全ての財産を相続させたいのかが全く伝えきれていませんでした。
今までお母さんと長男Aさんはずっと同居しており、次男のBさんは、その近所に住んでいました。長女のCさんは結婚して、実家から遠く離れたところに住んでおり実家に帰ってくることもほとんどありませんでした。
晩年、足腰が弱って一人ではほぼ何もできない状態のお母さんを献身的に面倒見ていたのは長男のAさんと奥さん。次男のBさんはそんな姿を間近で見ていたので、お母さんの財産がAさんへ相続されることには納得していました。ところがCさんはお母さんの晩年の姿を一度も目にしたことがなかったのです。
そして、いざ遺言書を開けてみたら、Cさんは自分への遺産なし、納得できる理由も書いていませんでした。
もし、この遺言書に一言でも「晩年、全く動けなくなった私を、いつも近くにいて献身的に面倒を見てくれた長男のAと嫁に感謝しています。だから全て相続させてあげたいと思います。」と書いてあったら・・・。
Cさんは弁護士を立ててまで、遺留分の請求などしなかったのかもしれません。
建築計画よりも大切なこと・・・
お母さんの相続の時から10年が経ち長男Aさんの最愛の奥様も亡くなってしまいました。お子さんがいなったので身内は弟妹だけになりましたが、遺産分割で揉めて以来、妹のCさんとは全く音信不通。そして次第にAさんも自分の老後や相続のことを考えるようになり、そんな時に当社のセミナーに参加され出会うこととなったのです。
Aさんの自宅建物もすっかり老朽化し、今後の生活と相続を考え自宅を何とかしなければと考えていました。様々な事情や過去の出来事、将来の希望などをじっくり聴いた時、私どもはピンときたものがありました。
Aさんは会話の中で何度も「地域貢献」や「友人を大切に」「一人だから安心して暮らしたい」と語っていました。様々な有効活用提案を行い、そして、Aさんに有料老人ホーム建設とその1部屋に住み替え、安心した暮らしと仲間と楽しく過ごす提案をしました。Aさんはしばらく考え、収入的にも暮らし的にも安心できるプランに希望を見つけたようでした。
有料老人ホーム事業の計画が進むにつれ、打合せする機会も増えました。ある日Aさんはお母さんの相続の時のこと、弟妹に対する思いなど、いろんな話をしてくれました。そして、もし自分に何かあった時は、弟のBさんに財産を引き継いで欲しいとの思いを打ち明けてくれました。実はお母さんが亡くなった後、Bさん一家とはずっと家族ぐるみの付き合いをし、特に子供がいなかったAさんにとって甥っ子は息子のような存在だったとのことです。
私たちは、どうすれば将来相続がスムーズに進められるか考えました。
弊社 「Aさん、今回の計画に合わせて、一緒に遺言書を書きましょう。もし、Aさんに相続が発生すると相続人は弟Bさんと妹Cさんになります。何もしなければきっと遺産分割協議で揉めるでしょう。そして弟さんにも嫌な思いをさせることになるかもしれません。それから老人ホームのオーナーを誰が承継する決めておかないと、運営する会社も家賃の振込や運営上困ってしまいます。入居者さんにも迷惑がかかる事もあるかも知れませんから。」
Aさん 「確かにそうですね。わかりました。ではどのタイミングで遺言書を作成するのが良いのでしょうか?」
弊社 「老人ホーム建設着工か完成後はいかがですか?手続きは私と法律の専門家でお手伝いさせて頂きます。」
Aさん 「ありがとうございます。弟家族に嫌な思いをさせたくないですからね。ぜひお願いします。その際に何か注意事項はありますか?」
弊社 「そうですね。お母さんの相続の時は遺留分でずいぶんご苦労されたようですが、今回の法定相続人は、弟Bさんと妹Cさんですから、遺留分が発生しません。だから、Aさんが遺言書に書いた内容は、誰にも邪魔をされずに実行できますので大丈夫でしょう。」
Aさん 「私が遺言をしっかり書いておけば、安心ということですね。」
それから一年後、Aさんは無事立派な有料老人ホームのオーナー兼入居者となりました。自分部屋だけは少し特別仕様になっていて、快適に毎日を過ごしています。
Aさんに久しぶりに会いにいくと
「プロサーチさん、あの時はありがとう。これで自分の身にいつ何が起っても、安心だよ」と趣味の釣りの話も交えて元気に話をしてくれました。まだまだ当分相続の心配はなさそうです。
海外では当たり前の遺言
海外で不動産を購入した投資家の方からこんな話を聞きました。不動産売買契約締結と同時に、遺言書へのサインを求められたとのことです。一瞬「えっ」と思っいましたが、説明を聞くと、海外では相続人の特定が極めて難しく、特に外国人の場合下手をすると相続人の特定まで数年かかることもあるそうです。そのため、購入した時点で万一に備えて、その不動産は誰が相続するのか事前に決めておくのが一般的なことだそうです。
「不動産を買ったら、建物を建てたら、同時に遺言書を作る」
日本でも、このぐらい相続を意識した考え方(遺言など)が浸透してくると、もっともっと相続でのトラブルは減るのかもしれません。
遺言書を書くときの注意ポイント
今回の事例でもあったように、遺言書では法定相続分とは異なる分割方法の指定をすることができますが、もし相続人の誰かの遺留分まで侵害するような遺言をすると、遺産分割時のトラブルのもとにもなりかねません。
そこで、遺言書を書くときのポイントを3つ
② 特定者に多く遺す場合、遺留分対策(遺留分相当額の工面等)を講じておくこと
③ 相続人への感謝の気持ちや自分の思い、分割内容の理由等を書き残すこと(付言事項)
遺言書を残すことが必ずしも円満な解決になるとは限りませんが、自分の思いを次の世代へ「伝え、残す」という意味ではとても有効な手段の一つであるのは間違いないでしょう。
ただし、書き方によってはトラブルに発生することも大いにあり得ること認識し、また遺言の種類もいくつかあるので必ず専門家と一緒に作ることをお勧めいたします。
特に不動産が多い人は、事前の評価や時価の把握から必要なので不動産に強い専門家と法律、税務に強い専門家の連携が重要です。
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相続税増税による現在の相続対策ブームの中では、相続税の節税テクニックばかりに注目した相続対策も増えてきています。
それでは、「節税」をすることだけが相続対策なのでしょうか?私達プロサーチでは、ただ単純に資産や財産を引き継ぐこと・相続税を減らすことだけが「相続」ではなく、家族間の「想い」や「考え」を次世代に繋いでいくことも含めて本当の「相続」と考えています。
そのためには、まずは自分自身の「相続」の問題がどこにあるのかを正確に把握し、相続人も含めた関係者全員で相続対策に取り組むことがとても大切になってきます。
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