不動産を円満に遺産分割するために、相続の専門家が大切にするべき2つのポイント
「不動産の遺産分割ってどのように考えたらいいですか?」
不動産を所有するお客様から、このように聞かれたことはありませんか?
不動産の分割は、相続の場面では必ずと言っていいほど直面する課題です。
例えば不動産をスパッと羊羹のように切って相続人に分けることができればいいのですが、そうはいきません。
一番シンプルなのは、『不動産を売却してお金で分ける』もしくは、『すべて共有にする』です。
実家があるときに、「住み続けたい相続人」と「実家は欲しくないが、平等に分けたい相続人」とで考え方が違うときは、代償金などで遺産分割を考えなければならないなど、シンプルではなくなります。
不動産の遺産分割は、『このように分けなさい』という決まりごとがあるわけではないので、相続人の希望をまとめて遺産分割案を作るのも本当に大変です。
本記事では、既に相続が発生している不動産の遺産分割のときにお客様に提供したい判断材料や、最近の遺産分割事例をご紹介いたします。
不動産をお持ちのお客様がいらっしゃる専門家の皆様は、ぜひご覧ください。
本記事のポイントはこちら。
・個別ヒアリングによって相続人の考えを聴き、遺産についての基本的な方針を固めていくことが大切。
・相続において完全に平等に分けられることは稀。相続人間の『妥協点』を見つけることが、専門家の重要な役割。
・専門用語に依らずにお客様との共通言語を見つけることで、相続対策をスムーズに進めることができる。
不動産の遺産分割とは
相続財産に不動産があるときは、分けにくい、他の資産と比べて金額が大きくなりがちなど、問題が発生しやすくなります。
しっかりと考えていかないと、相続人の間で遺産を巡って揉めることになりかねません。
不動産を遺産分割する際に、まず押さえておきたいポイントを2つご紹介します。
②基本方針の策定と個別ヒアリング
①不動産の数値の現状分析
不動産を数値で見ることで、遺産分割するときの判断材料として活用できます。
今回は次の2つについて解説いたします。
・相続税評価額に占める資産価値(ROA分析と呼ばれたりしています)
初めに、不動産の相続税評価額と時価との乖離について。
不動産には、相続税評価額、固定資産税評価額、基準地標準価格、公示価格、時価など、いろいろな価格があります。
相続の場面で使うのは、相続税評価額と時価です。
・時価:実際に売れる価格
この2つの価格には差があります。
どのくらい差があるのか、時価を100%として比べてみましょう。
低層マンション:30~40%
高層マンション:20~30%
およそ、上記のような価格差があります。
そしてもっと厄介なのは、果たして『時価』がいくらなのか?ということです。
・土地30坪の一戸建て
・土地200坪などの広い土地
・分譲マンション
・アパート等の賃貸不動産
・底地や借地
・別荘地
上記の不動産は時価(査定)を求めるときの計算方法がそれぞれ異なります。
成約事例、積算価格、収益還元法、戸建て分譲など土地開発から土地価格算出などです。
また、別荘地や山林に多いのですが、マーケットプライスが付かないときは、コスト負担ばかりでマイナス査定(価格0円以下)となることもあります。
では、全ての不動産会社が全ての不動産を計算してくれるのか?というと、そうではありません。
専門、専門外がありますから、対象の不動産を専門とする不動産会社に聞いて回ることになります。
さらに不動産会社が査定するときは、最終的にはお客様から『貸す/売る』の依頼をされることを期待していますから、遺産分割のための時価を知りたいだけなのに、不動産会社から営業を受けてしまうということもあるでしょう。
お客様が「営業をされるのはちょっと面倒だけど、ちゃんと査定してくれるところに依頼したい」とお考えのときは、不動産鑑定士や、弊社のような不動産相続コンサルティングをしている不動産会社であれば対応してくれますので、ご相談してみてはいかがでしょうか。
次に、相続税評価額に占める資産価値(ROA分析と呼ばれたりしています)についてですが、不動産を分けるときなどの判断基準の一つとして、この数値をお客様に提示することがあります。
あるお客様の事例で作成したROA表から、一部抜粋したものをご紹介いたします。
このように数値化すると、色々なことが分かります。
・財産構成で底地の割合は大きいが、収益性は低い
⇒相続税の負担が大きいのに、収入が低いと言える
・一番収益率が高いアパートBは、相続税評価額が低い
⇒相続税の負担が軽いのに、収入を一番多く得られると言える
ご自身の資産であっても、こういった細かい数値までご存知のお客様はほとんどいらっしゃいません。
専門家の皆様から提示することで、どの不動産を相続するか、または相続したくないかなどを判断する材料となり、不動産の遺産分割に関する話が進むきっかけとなるでしょう。
なお、不動産の数値以外に『問題点や今後かかるコスト』についてもあわせてお伝えすることで、お客様にとってよりよい判断材料となります。
②基本方針の策定と個別ヒアリング
相続人の考えを聴き、遺産は平等に分けるのか、特定の相続人に遺産を寄せるのか、基本的な方針を固めていくことが大切です。
個別にヒアリングをすると、相続人同士が揉めないように方針策定などを進めることができます。
つい、最初から“平等に分ける”という考えのもとお客様からのご相談を受けてしまいがちですが、話し合いの結果や相続人の資産背景などによって平等ではないこともあります。
その部分を相続人に聞かずに遺産分割案を作り込んでしまうと、お客様の意向に合わず無駄骨に終わってしまうこともあるでしょう。
「遺産の分け方はどのようにしたいと考えていますか?」とお客様に訊くと、それぞれの希望や事情によって、様々な考えが出てきます。
「自宅を継いでお墓を守る相続人には多めに、それ以外の相続人は残りを平等に分けたい」
「生活費が必要な相続人に多く渡してもいいと思っている」
「私は要らないから、他の兄弟に渡してほしい」
「不動産はよく分からないし、持ち家もあるから私は他の資産でもらいたいわ」
など、遺産の分け方の意識や、不動産が欲しいのかどうかも聞くことができるのです。
それでは、なぜ個別ヒアリングが必要なのでしょうか?
プロサーチでは、ある程度ヒアリングしてから、遺産分割案を2、3パターン作成した上で相続人それぞれに個別にお会いして、遺産分割案についてのご意見を訊くようにしています。
なぜ個別にお話をするかというと、相続人全員が揃っているときだと『紛糾してしまう』『本音を話さない、話せない』ということが起こり得るからです。
個別にお会いすることで、遺産分割案への意見を第三者(プロサーチ)にぶつけることができますから、直接相続人同士で揉めることがほとんどありません。
また、相続人の考えや思いを知っていくことで、遺産分割での「妥協点」を見つけやすくなるという利点もあります。
遺産分割の事例
長男と次男が相続人。それぞれ「不動産Aが欲しい」と主張していた事例。
プロサーチが個別ヒアリングを行った結果、下記のような結果になりました。
「代わりに不動産Bと現金○万円をもらうのはどうかな」
「不動産Bと現金○万円だと兄の方が多くもらうことになるけど、不動産Aがもらえるならそれでいい」
私たちがなぜこのような「妥協点」を見つけられたかというと…。
・次男は、「不動産Aさえ相続できれば、財産を多くもらいたいわけではない」という考えだった。
お客様から、遺産に関する考えや想いを聴いておくことは、「妥協点」を見つける上で非常に重要です。
そのためにはできる限り、個別に会う機会を増やして丁寧に訊き出す必要があります。
なお、被相続人の遺言書が残されている場合はその内容に従いますが、相続人全員の合意のもとで遺言内容とは違う遺産分割を決めることもできます。
『遺言書さえあれば、ヒアリングや話し合いは必要ない』のではありません。
専門家である私たちは、遺産分割に関するヒアリングを疎かにせずに、相続人にとってよりよい遺産の分け方をアドバイスすることが大切です。
【相談事例】
次男の生活を守るための遺産分割
もうひとつ、実際に弊社にご相談いただいたコンサル事例について、詳しくお話いたします。
横浜市にお住いの長男Aさん。
2ヶ月前にお母様が亡くなり、お葬式や四十九日の法要を終えて落ち着いてきた頃、今後の相続手続きや遺産分割のことについて、紹介者の生命保険会社の方と一緒に弊社にご相談にいらっしゃいました。
長女(72歳/既婚/子どもあり)
長男A(70歳/既婚/子どもあり)
次男(67歳/独身)
■相続財産:1.5億円
【内訳】自宅(約100坪の土地と築55年の木造平屋)と現金(5000万円)
※土地の1坪当たりの価格は100万円=自宅の相続財産価値は1億円とします。
■ご相談内容
・亡くなった母と次男は同居していた。
弟は今も自宅に住んでいるが働いていないため、今後の生活が心配。
・長女は遠方に嫁いでおり、これまで自宅や母のことは長男や次男に任せていた。
長女は、自分は相続せず、長男のAさんや次男に残したいと思っている。
(分割はAに任せるが、次男の生活のことを配慮して欲しいと言われている)
・Aさん自身は、次男に多めに残すのは賛成だが、遺産は多少もらいたいと思っている。
お話を伺うと、どうやら『次男の生活を守りつつ、遺産分割をしたい』というご希望があることがわかりました。
Aさんと話し合った結果、いきなり個別ヒアリングはせずに、プロサーチにて遺産分割提案を作成し、それをもって進めていくことにしました。
主に課題となるポイントは以下の点です。
⇒自宅は築55年と古く、外壁などにも傷みがある。これから20年、30年と建物の状態を保つのは大変。何かしらの対策が必要。
■次男の生活資金
⇒次男は67歳、平均寿命から考えても、今後20年間分の生活費を用意する必要がある。
■Aさんや長女の納得感のボーダーライン
⇒次男の生活の安定に必要な不動産や現金を渡したら、Aさんはいくらもらえるのか?
長女は相続はせず他の兄弟にと言っているとはいえ、遺産分割の内容は気にするはず。
上記の内容から、遺産分割の優先順位を下記のように設定し、提案の検証をしました。
①次男が安心して暮らせること
②Aさんが自分の相続分に納得すること
③長女も納得感を得られること
次男が豊かに暮らすための生活資金
総務省の調査によると、高齢単身(無職)世帯における1ヶ月の消費支出の平均は13万9,739円。
そのため紹介者の生命保険会社の方と相談し、少し余裕をもって15万円/月と考え、20年間で必要なお金を3,500万円としました。
遺産分割案
提案① 土地を一部売却し自宅を新築
自宅の一部(70坪分)を7,000万円で売却し、残った土地30坪に、2,000万円使って次男の自宅を建築するプラン。(エアコンなどの購入費用も含める)
<相続財産>
代償金としてAさんに3,000万円を支払う
・70坪のうち、土地40坪(4,000万円)を売却、残りの30坪に自宅を建築する
・次男はAさんに売却代金から3,000万円を支払う
・次男は売却代金1,000万円(10坪分)+相続現金5,000万円=現預金6,000万円
自宅建築費2,000万円+生活資金3,500万円=5,500万円なのでお金は足りる
※次男はマイホームの3,000万円特別控除の適用を受けられる
Aさんはマイホームではないので適用できない
合計6,000万円
・Aさんの売却代金3,000万円と、次男から代償金3,000万円が手に入る
提案② 土地を全部売却し次男の自宅を購入
自宅を全部売却(1億円)し、次男の自宅(分譲マンション)を購入し、残った現預金をAさんと次男で分けるプラン
<相続財産>
(マンション購入費等4,500万円+生活資金3,500万円)
・Aさんの売却代金3,000万円と、次男から代償金3,000万円が手に入る
※なお、事例ではわかりやすくするため譲渡税やその他経費等は考慮していません。
※実際には、予め売却価格や購入諸経費を具体的に計算した上で遺産分割協議します。
他にも、現状の自宅のままリフォームして住み続けるプランなども検討しましたが、Aさんと次男の相続財産の比率が大きく偏り、納得感が薄れる内容であったため、見送ることになりました。
これらの遺産分割案を家族会議でお話しして、その後、個別ヒアリングも行い、最終的に決定したプランは『② 土地を全部売却し次男の自宅を購入するプラン』でした。
次男の「今の住まいに固執してはおらず、老後の生活を考えると駅近で便利なところに住みたい」という想いが大きな決定打となりました。
財産のバランスについても、Aさんは次男の生活を考慮しながら本来の相続分7,500万円を大きく毀損することなく7,000万円相当を相続することができました。
長女も、次男の生活が優先された遺産分割に納得。
もしAさんが次男と50%ずつ相続していたら、長女は納得せず、法定持分を主張してきたかもしれません。そうなっていたら、Aさんは法定相続分の5,000万円を相続することになっていたでしょう。
お客様との共通言語化で、
相続対策をスムーズに進める
相続をスムーズに進めるためには、相続人同士または専門家とのわかりやすい共通言語が必要です。
私たち専門家は日頃から遺産相続や不動産の話をしているので、専門用語にストレスを感じることはありません。
しかしながら、お客様の多くにとって相続は初めて経験するものだったり、例え初めてではなくても頻繁に経験するものではないため、手続きについても忘れてしまったりしています。
お客様と話が通じないと、なかなか話が進みにくく意思決定が難しくなりますよね。
これをクリアするためには、専門家とお客様との間で通じる共通言語を持つことが重要になります。
専門用語ばかりでは、お客様も理解するまでに時間が掛かりますが、共通言語があれば、理解も進み相続人同士でも話がしやすくなるでしょう。
共通言語を持つことにより、お客様は同じ目線で話をしてもらっていると感じ、安心して聞いてもらえるようになります。
そうは言っても、共通言語化なんてなかなか難しい…そうお考えの方におすすめなのが、『相続山』です。
『相続山』とは、相続専門の石倉公認会計士事務所の石倉 英樹氏が作った「相続手続きの共通言語化」を目的としたツールで、相続を山登りに例えて説明しています。
相続手続きを「山登り」に例えて考えると、大事な人の相続に対峙した時に何から始めればいいかがよくわかるのです。
死亡届などの役所への手続きを一合目、相続人の決定を二合目、というように、今はどの手続きをしているのか、あとどのくらいの手続きが必要なのかなどを山登りの「○合目」と言い換えます。
これによって、ご自身の相続の手続きの現在地が分かるなど、相続人の間で『今やっている手続きは○合目だね。あと少しで山頂だね』というように分かりやすく共通の認識を持つことができ、スムーズに相続手続きを行うことができるのです。
ご興味のある方はプロサーチまでお問い合わせいただくか、12月に行う相続山セミナー(個人のお客様向けの内容)にぜひご参加ください。
遺産相続コンシェルジュより
本記事のポイントはこちら。
・個別ヒアリングによって相続人の考えを聴き、遺産についての基本的な方針を固めていくことが大切。
・相続において完全に平等に分けられることは稀。相続人間の『妥協点』を見つけることが、専門家の重要な役割。
・専門用語に依らずにお客様との共通言語を見つけることで、相続対策をスムーズに進めることができる。
不動産の遺産分割では、不動産の時価査定や、ROA作成、相続人へのヒアリングによる個々のご希望や問題点などの把握がとても重要な役割を担います。
プロサーチでは、不動産の遺産分割案の作成はもちろん、不動産査定や問題点の把握だけでも承っておりますので、メール(staff@pro-searh.jp)もしくは、お電話(03-5212-3656)にて、お気軽にご相談ください。(記:友重孝一朗)