相続登記をしないと600万円も損!?相続登記義務化で専門家が考えるべきこと
更新2024.10.31
令和6年4月1日から、相続で不動産を取得した場合の「相続登記」が義務化されました。
所有者不明の不動産をこれ以上増やさず、減らしていくことが期待されています。
相続登記の義務化がスタートし、お客様からのご相談も増えています。
「相続登記は相談したらいいの?」といったことや、
「罰金があるから早く手続しないと!」と焦っている方もいます。
このように相談が増えるため、専門家はもちろん、IT企業など別業界も、相続登記の義務化をビジネスチャンスと捉えて顧客囲い込みに躍起になっています。
今回はこの相続登記をテーマに、制度の中身やお客様に提案する際に専門家に考えて頂きたいポイントをお伝えいたします。
<本メルマガのポイント>
・相続登記義務化の背景と制度を理解する
・相続登記で一番難しいのは遺産分割を決めること
・遺産分割⇒相続登記を完了させるまでに専門家がやるべきことを理解する
相続登記義務化の背景
なぜ相続登記は義務化になったのでしょうか。
所有者不明土地の増加
所有者不明土地とは、登記簿では所有者がすぐ判明しない、または判明しても連絡がつかない土地のことです。
国土交通省の調査によれば、所有者不明土地の割合は国土の約20%に達しているようです。
その原因としては、「相続登記の未了」が約67%、「住所変更登記の未了」が約33%とされています。
そのため、不動産の売買等を行う際に所有者にアプローチすることができず、なかなか活用が進まないなどの問題が発生しています。
相続登記を義務化することで、所有者不明土地の発生を予防し、土地の管理や利用を円滑にする目的があります。
相続登記の申請が任意になっていた
現行の民法や不動産登記法では、「相続登記をいつまでにおこなわなければならない」という規定はなく、相続登記をおこなうかどうかは相続人の判断に任されていました。
特に地方の土地では評価額が低く、固定資産税もほとんどかからない、売却も困難である場合が多いため、時間と費用をかけてまで相続登記する人がいないことが多いのが現状です。
相続登記義務化の制度内容とは
相続登記義務化のポイントは以下の通りです。
・相続で取得したことを知った日から3年以内
・遺産分割で取得した日から3年以内
②登記申請をしない場合、過料10万円
・正当な理由がある場合は免除される可能性あり(病気や急な海外渡航など)
③相続人申告登記の創設
相続人申告登記は、期限内(3年以内)に相続登記の申請が難しい場合に、簡易的に申請義務を履行できる仕組みです。
つまり正式な相続登記ではないことに留意しましょう。
相続人申告登記したからといって売買(所有権移転登記)や抵当権の設定等はできません。
必要な手続き
①戸除籍謄本等を添付して、登記記録上の所有者の相続人であることを登記官(法務局)に申し出る
②登記官は審査を行い、申出をした相続人の氏名・住所を登記に記載をする
制度の特徴
①特定の相続人が単独で申出可能(他の相続人の分も含めた代理申出も可)
②押印・電子署名は不要
③インターネット上で手続きが可能(かんたん登記申請の利用が可能)
④法定相続人の範囲や相続分の確定が不要(提出書類も少ない)
⑤登記申請のための費用は掛からない
相続登記をしないとどうなる?
これまでは相続登記は義務ではありませんでしたが、相続登記をしないことによるデメリットは過料だけではありません。不動産売買や相続において、税制面で大きく損をしてしまう可能性があります。
不動産売却時の譲渡所得税に関する特例
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
“相続空き家の3,000万円控除”と呼ばれることが多いこの制度は、相続または遺贈により取得した被相続人の居住用家屋とその敷地を売却した際に、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。
この制度を利用するためには、当然、売買契約を成就させることが必要です。
つまり、原則、売買契約締結時までに被相続人から相続人(売買契約の売主)へ相続登記したうえで売却しなければなりません。なお、残代金支払い時までに相続登記を完了させる旨の特約を付けることも買主と協議のうえ可能になることがあります。
留意点は相続空き家の3,000万円控除には特例期限があることです。現税制では令和9年12月31日までの譲渡に限ることになっています。
つまり、その期限内に遺産分割協議を終えて相続登記したうえで譲渡する必要があります。
もし当該期限内に売却できないとこの特例は使えません。
長期譲渡所得税率の約20%で計算すると、最大で約600万円もの税金を払わなくてはならなくなります。
遺産分割協議が長引いて当該期限を過ぎてしまわないようにしたいですね。
参考記事:早くしないと損をするかも?『相続空き家の3,000万円特別控除』を使って、空き家の実家を賢く売る5つのポイント
不動産会社の査定や依頼する先の選定(1か月)、売却活動(2か月)、契約締結(1か月)、融資手続きや測量などの契約条件履行のうえ引き渡し(2か月)のステップを踏む必要があります。
売却活動が長引いたら、隣地の方と土地境界の位置で意見が合わず測量がうまく進まなかったら・・・1年かかることもあるでしょう。もっとかかるケースも数々見てきました。
つまり、当該期限ぎりぎりにスタートすると危険ですから、ゆとりを持つとしたら、2年位前からスタートしたいですね。
取得費加算の特例
相続が開始された日から3年10か月以内に相続財産を売却した場合、相続税額の一部を取得費に加算することで、譲渡所得税の負担を軽減することができる特例です。
これも同じく相続登記を終えておくことが必要です。
なお、取得費加算の特例と、相続空き家の3,000万円控除の特例は選択制であり、併用はできませんのでご留意ください。
相続税申告に関する特例
小規模宅地の特例
小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた土地や事業をしていた土地について、一定の要件を満たす場合に、相続税の評価額を80%(住宅、事業)、50%(貸付用)下げることができる制度です。
原則として、申告期限までに遺産分割をする必要がありますが、申告期限後3年以内の分割見込書を提出し遺産分割することで適用することが可能です。
言い換えれば、3年10か月以内に遺産分割を終えることが必要です。
【まとめ】
相続登記を完了させるために必要なこと
上記のように、相続登記を行わないことによる過料や税制面のデメリットを回避するためにも相続登記が必要であることが分かりました。
では「相続登記をちゃんとしましょう!」というのは簡単ですが、まずは相続登記に必要な「遺産分割協議書の用意」や「遺言書の用意」ができるかどうかが重要なポイントです。
専門家として考えるべきこと
遺産分割では、誰もが納得できる分割ができればいいのですが、不動産など分けにくい遺産があると途端に難しくなります。
法定相続分で分けることで数字的には平等に見えたとしても、評価と時価が異なったり、相続までに至る家族間の想いなどから、平等の定義が家族ごとに異なるからです。
それでは、遺産分割協議をおこなうためのポイントを挙げます。
遺産分割協議を行う前に、相続人はこれだけのことを準備することになります。財産の多寡の違いによっても多少異なりますが、基本的にはどのお客様も直面する課題です。
相続人同士だけでは、感情面でもめたりすることもあれば、税金や法律に詳しくないために話し合いが進まないなんてこともあるでしょう。
そこで、専門家の皆様が相続人間の窓口となり、アドバイスやサポートがあることでスムーズにいくことがあります。
専門家の役割
相続登記の義務化だけを考えれば、単に手続きの話です。
ただし、我々専門家として「相続対策の結果が相続登記である」という認識を強く持つ必要があるのではないでしょうか。
※上記イラストは弊社作成のものです。
相続登記費用を低額化(定額パックのような)で集客し、そのあとに生命保険や不動産の売買案件を獲得するというビジネスもあるでしょう。
システムやアライアンスを組めるような資金や人材が潤沢であればそれも可能と考えますが、多くの専門家はそうではありません。
どこまでいっても、これに尽きると思います。
相続登記の義務化によって、専門家以外の業界も参入してきたため競合が増えました。
多くの専門家がやりたがらない、生前対策(遺産分け、納税、節税、資産凍結防止を客観的・専門的な立場で)から丁寧に提供することが専門家の役割、なのだと考えています。
皆さんはいかがでしょうか。
まとめ 遺産相続コンシェルジュより
相続の現場で細心の注意を払うのが遺産分割協議でしょう。
専門家として、制度の理解や説明はもちろんのこと、特に分けにくい「不動産」の遺産分割のサポートがどれだけできるかポイントとなるでしょう。
プロサーチでは、不動産を持っている方の生前の遺産分割対策や相続後の遺産分割提案を得意としていますので、専門家の皆様のサポートもさせて頂いております。