遺言書の作成を検討している方へ。失敗しない遺言書の書き方と進め方

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2021.5.18

 
みなさんは大切な家族に遺言を遺していますか?
 
遺言書を遺す理由は
『特定の子に財産をあげたい』
『相続人ではないけどお世話になった人に財産を遺したい』
『子たちが揉めないようにしたい』『自分の想いを書き残したい』
などがあります。
 
ですが同時に
 『遺言を遺したいけど、遺留分や平等かどうか考え出すとペンが進まない』
 『遺言を遺したことで逆に揉めたりしないの?気を付けるポイントを知りたい』

というお悩みもよく聞きます。
 
 
令和2年7月10日から法務局で遺言を預かるサービス(有料)が始まりました。
 
これまで自宅で保管しているケースで、紛失や亡失、相続人による隠蔽、改ざんの恐れがありましたが、法務局が預かることでそれら問題を解決しようとする新制度です。
 
裁判所による検認も不要で、相続発生後に法務局から相続人へ通知されるなど負担が軽減されました。
 
制度改正などで遺言がより身近になり、また、新型コロナウイルスに相続対策を急かされたと遺言を書いたお客様もいます。
 
本記事では、遺言を遺す効果や書く時のポイントをお伝えします。
遺言書を書いて、次世代が自分の財産のために争うことのないようにしていきましょう。
 
今回のポイントは以下の通りです。
 

・遺産分割で裁判沙汰になっているのは財産価格5,000万円以下の割合が77%を占めており、遺産争いは富裕層だけの問題ではない。
 
・遺言を書くことにより、残された家族が揉めずに遺産分割しやすく、誰にどんな財産を遺したいという想いも叶えられる。
 
・遺言書を書くときはまず自分の財産と、財産を渡したい人の氏名を書き出すことから始める。
 
・遺言書を作成する際に忘れがちなのが、(1)遺留分と(2)相続税納税資金。支払う必要があるのか、資金は確保できているのか確認が必要。
 
・遺言書には付言という、被相続人の想いを書き残すことができる。なぜこのような内容の遺言書を書いたのか、相続人への想いを書くことにより、家族の絆をより強固なものにできる。

 
 
 
 

他人事ではない!遺産分割で揉めるのは一般家庭が多い

法 裁判
 
令和元年の遺産分割事件件数は12,779件です。

裁判所HP 第46表遺産分割事件数参照
 
また、このうち認容/調停成立した事件(7,224件)での財産価額内訳は次のとおりです。

 

 

※財産価額の内訳は裁判所HP第52表参照

 
財産価額が5,000万円以下の割合が77%と大半を占めています。
 
財産額5,000万円の財産イメージは、“一戸建て4,000万円/現預金1,000万円”ではないでしょうか。つまり、戸建てのみを持っているご家庭が争いに発展していることが推測されます。
 
なぜこうした家庭が揉めているのでしょうか。
 
『大した財産ではないから、相続対策しなくてもいいだろう』
『戸建てと現金だけだから、3兄弟仲良く分けてくれるだろう』
 
このように“~だろうと”子に過剰に期待していたり、考えなくてもいいと放置している場合に多いです。
 
相続税がかからないからと、遺産分割などの相続対策をしなくていいわけではありません。
 
不動産一つだから平気ではなく、子同士が、家を売りたい、自分が使いたい、貸して収入を得たいなど兄弟間で意見が合わなければ、遺産を巡って争いに発展します。
 
このような遺産分割での争いを防ぐために、遺言がその効力を発揮します。
 
 

遺言の効果

白紙とコスモス
 
遺言はどのような効果をもたらしてくれるのでしょうか。
 
 

 1)自分で財産の行き先を決められる

相続人である配偶者や子以外に、例えば、介護でお世話になった子の妻や、動物愛護団体などの組織などに財産を渡すことができます。もちろん渡す財産の金額も自由です。
 
遺言を残さないと遺産分割は相続人が話し合いで決めることとなりますから、被相続人の『この財産を○○にあげたい』という想いを叶えることはできません。
 

 2)スムーズに遺産分割を進められる

遺言があるとその内容に沿ってすぐに遺産分割手続きを進めることができますので、相続人同士で話し合う必要がなく、遺産分割で悩むことがありません。
 

 3)遺産分割で揉めない

『被相続人の思い(遺言)』と『相続人の思い(遺産分割協議)』では、被相続人の思いが優先されますから、遺言>遺産分割協議の力関係です。遺言で遺産分割内容が決められていますから、“あれが欲しい、これが欲しい”と相続人個人の想いを突き通すことはできません。
 
ただし、遺言書の内容ではなく相続人同士の話し合いで満場一致すれば、遺言書ではなく遺産分割協議書による内容で遺産分割することができます。
 
 
遺言は『遺言で遺産分割が完了するので揉めにくい』という効果をもたらします。もちろん、自分が思い描いた通りに財産を残せるのも魅力ですね。
 
 

遺言を遺さなかった場合

注意
 
遺言を残さなかったときの留意点を3つほどご紹介します。
 

1)相続人の間で遺産分割するので、どう分けるかで揉める可能性が残る

 
相続人以外の人(例:配偶者)が話に割って入ってくるなど、泥沼化する可能性があります。
 
 

2)被相続人の、誰々に○○をあげたいという思いは叶わない

 
相続人間の遺産分割協議で決めることとなるためです。
 
 

3)手続きが複雑化することがある

 
法定相続人が複数名いる、法定相続人に未成年者や意思判断能力喪失している人がいる場合は注意が必要です。
未成年者は、法律行為ができないため特別代理人を立てる必要があります。特別代理人には利益相反となる相続人はなれません。
 
例えば相続人ではない祖父母や第三者にお願いし、裁判所に申立てします。
また、意思判断能力が喪失している場合も法律行為はできませんから、成年後見制度を利用することとなります。当該制度は裁判所に申立てをするのですが、当該相続人の意思判断能力の状態を鑑定(数十万円)するなど一定の手続きが必要です。
 
 

遺言書を書きはじめるときのポイント


 
遺言書を書いた方がよいということはわかっていても、なかなかペンが進まないという方もいます。
 
財産は平等なのか、何か問題はないのかと考えているうちに、書くこと自体が面倒になって「またいつかやろう」とペンを置いてしまうのではないでしょうか。
 
私も遺言書を残していますが、最初はアレコレ考えすぎて時間だけ過ぎてしまい、「よし書こう!」という熱意が薄れてしまっていました。実際に書き残せた私なりのポイントをお伝えしますね。
 

ポイント1 自分の財産を手元に書き出す(財産評価額は不要)
      自宅、会社の株式、有価証券、生命保険、現預金 項目だけ書き出す
 
ポイント2 相続人の氏名、その他で財産を渡したい人の氏名を書き出す
 
ポイント3 思い付くまま、財産の横にあげたい人の氏名を書く

  
最初から評価額まで出してしまうと、財産のバランスを気にしてしまいペンが止まります。評価は気にせず、思いつくままで良いので遺産分割をしてみましょう。
 
たとえば
『自宅は妻、現預金は妻半分/残り子平等、会社株式は長男、有価証券は次男』
 
このときに、その理由も付け加えておくと、後々書いたときの思いを確認するとき役立ちます。とにかくメモ用紙にでも何でもいいので書き始めてみるのが重要です。
 
そして、自分なりの遺産分割内容を決めたら『財産評価』を求めましょう。
 
A家族の相続人は妻、長男、次男の3人。
 

財産
渡したい人と理由
評価額
自宅
妻 住むところを確保してあげたい
3,000万円
会社の株式
長男 会社を継いでほしい
5,000万円
有価証券
次男 会社を渡せないから
3,000万円
現金
妻50% 子25%ずつ
妻の生活費残す
3,000万円

 

このように書き出すと分かりやすいですよね。
 
遺言を残すだけであれば、ここまでの情報があれば作成できます。インターネットで「遺言書、書き方、サンプル」と検索すれば書式が出てきますので、それらを参考に書いてみてはいかがでしょうか。
 
遺言書は不備があると無効となりますから、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に、上記のような表や自分で作った遺言書を見せてアドバイスを貰うようにしてください。
 
 

遺留分と相続税納税問題の確認方法


 
これで遺言書が完成しましたね。
 
ここからパートは遺言書を残すときに気を付けたい代表例を2つ取り上げます。
少し専門的な話なので、この部分は飛ばして次の項目から読んでいただいても構いません。
 

 1:遺留分

遺留分とは相続人が最低限もらえる割合のことを言います。
下記表は、相続人が配偶者・子2人の場合の法定相続分と遺留分の関係です。
 

相続人
法定相続分
遺留分(法定相続分の2分の1)
配偶者
2分の1
4分の1
長男・次男
各4分の1
各8分の1

 
遺言内容で、次男が相続する分が8分の1以下とした場合、次男は配偶者や長男に対して「遺留分相当になるように不足分の遺産をください」と請求することができます。これを遺留分侵害額請求権といいます。
 
 

問題となるのは『いくら遺留分を侵害しているのか』です。
 
遺産に不動産が含まれていると、相続税評価は誰が計算してもほぼ同じですが、売却時価は査定する不動産会社や鑑定士によって異なります。
 
つまり・・・
・“時価が低い”と配偶者等が次男に支払う遺留分金額が減る
・“時価が高い”と配偶者等が次男に支払う遺留分金額が増える
という関係になります。この『時価はいくら?』が争いとなりやすいポイントです。
 
さきほどのA家族の相続人3名に当てはめてみます。
 
・遺産総額は上記合計14,000万円
・相続税の基礎控除額 4,800万円《計算式:3,000万円+(600万円×相続人の数)》
・相続税の総額は1,310万円
・相続税評価額と、財産の時価が同額とみなす。
 

法定相続人と法定相続分
法定相続での取得額
実際取得する財産額
取得割合
妻 50%
7,000万円
4,500万円
32%(25%)
長男 25%
3,500万円
5,750万円
41%(12.5%)
次男 25%
3,500万円
3,750万円
27%(12.5%)

※( )は遺留分。取得割合がこの数字を下回ると遺留分を侵害していることとなります。この遺産分割内容であれば遺留分以上の取得ですから、遺留分のことは心配しなくて大丈夫です。
 

 

 2:相続税納税の問題

相続税の納税は相続人ごとに支払いますので、相続税納税資力があるのかもポイントです。
 
例えば、不動産のみを相続させたがその相続人に納税資金がないと「相続した不動産を換金して納税」か「相続税の延納や金融機関からの融資」で支払うことになり、相続した不動産を相続税納税のために手放す可能性もあることになります。それでは本末転倒ですから、相続人ごとの納税資金を確認することが重要です。
 
A家族の納税財源チェック

実際の取得割合
相続税納税額
(相続税総額×取得割合)
取得する現預金+有価証券
納税判断
妻 32%
0円(※)
1,500万円
納税なし
長男 41%
約540万円
750万円
次男 27%
約350万円
3,750万円

 

(※)配偶者は、法定相続分又は16,000万円のいずれか大きい額までは相続税がかかりません。
 
 
相続税納税は、妻は納税なしで、長男次男共に相続する現預金等で足りることが分かりました。遺言を残すときにこの2点を確認できれば、相続人同士の争いを防げたり、納税で困ることにならないでしょう。
 
財産評価額や相続税等の計算や、遺留分や納税財源のことはご自身で難しいようでしたら、相続に詳しい専門家に相談することをご推奨します。
 
 

付言で自分の想いを伝える


 
遺言書には“付言”という、被相続人の思いを記すことができます。これは法的な効果はありませんが、被相続人の思いを知ることができます。たとえ遺産分割に偏りがあったとしても、その理由を知ることで紛糾せず円満に終わることもあります。
 
【付言の例】

○○さん(長男の妻)、生前は献身的に私の介護をしてくれてありがとう。

○○さんのおかげで気持ちが楽になりましたが、○○さんには大きな気苦労もかけたものと思います。少ないですが、▲▲をお渡ししたいと思います。ぜひ受け取ってもらいたいです。

他の相続人は良く思わないかもしれませんが、どうか私の思いを汲んで、揉めることがないようにして欲しい。この遺言のとおり分割してもらいたいと願います。

 

このような文があるだけでも、なぜ長男の妻に財産を残したのかが理解できますよね。次男側も気持ちよく応じてくれるでしょう。
 
遺言を残すとき、この付言も記すことを考えてみてください。
家族の絆もより強固なものになることでしょう。
 
 

まとめ

 

・遺産分割で裁判沙汰になっているのは財産価格5,000万円以下の割合が77%を占めており、遺産争いは富裕層だけの問題ではない。
 
・遺言を書くことにより、残された家族が揉めずに遺産分割しやすく、誰にどんな財産を遺したいという想いも叶えられる。
 
・遺言書を書くときはまず自分の財産と、財産を渡したい人の氏名を書き出すことから始める。
 
・遺言書を作成する際に忘れがちなのが、(1)遺留分と(2)相続税納税資金。支払う必要があるのか、資金は確保できているのか確認が必要。
 
・遺言書では、付言という被相続人の想いを書き残すことができる。なぜこのような内容の遺言書を書いたのか、相続人への想いを書くことにより、家族の絆をより強固なものにできる。

 
 
『遺言書』は、遺産分割で揉めないようにも出来ますし、付言を記すことで被相続人の思いを伝えることもできます。できれば字が書けるうちに、意思判断能力がしっかりしているうちに、1時間でも少しの時間でできますから、“書いてみる”ことをしてみてください。
 
もし書き方や財産評価が分からない、問題点があるのか知りたいなどありましたら、不動産や相続に詳しい専門家にご相談してください。
 
 
 

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この記事の監修
プロサーチ株式会社 代表取締役 松尾 企晴(まつお きはる)

20歳のとき母方の祖父母を火事で亡くし、祖父祖母の相続では兄妹間の争族に発展。『またいつか』ではなく『すぐにでも』行動しなければならないことや、どれだけ仲の良い兄妹でも揉めることを痛感。会社の事業理念に『家族の物語をつむぐ』を掲げ、不動産等のモノだけではなく、親や子に対する想いや思い出などのコトも含め、家族が織りなしてきた物語(モノやコト)を親から子へと継承していくことこそが【真の相続】と考え、不動産相続のプロとして、お客様の気持ちを聴き、寄り添う姿に多くの顧客から評価を得ている。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。

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