早くしないと損をするかも?『相続空き家の3,000万円特別控除』を使って、空き家の実家を賢く売る5つのポイント
更新 2024.9.20
相続したけど誰も使っていない実家を売却するとき、一定の条件を満たすことで、手取り金額がなんと最大600万円も増える特例があることをご存知ですか?
この相続した不動産を売却したときに税金が安くなる特例を、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下「特例」という)といいます。
一般的に、この特例は「相続空き家の3,000万円特別控除」とも呼ばれています。
ただ、どのような不動産でも使えるわけではなく、いくつか適用要件があります。
そして、空き家になってから2年以内に売却したほうがいい理由があります。
本記事では、この特例の適用要件や、空き家となる実家の売却を考えている方が、今から準備しておいたほうがいいことなどをお伝えします。
今回のポイントは以下の通りです。
・特例を使うには、適用要件(相続のときから空き家であること、昭和56年5月31日以前に建築されていること、一定期間内に売却することなど)をクリアする必要がある。
・特例が使えるのは実家を相続した人のみ。
・親が元気なうちから、実家の売却価格を把握し、期限内に売却できるように準備をしておくことが重要。
・実家を家族信託したまま相続が発生したときは、特例は使えないという点に注意が必要。
・税法改正があり令和6年1月1日以降に行う譲渡は、要件緩和もあるが、特例控除額の上限が減額される。
・空き家になってから2年が建物を活かせるか、解体するかの期限である。
相続空き家の3,000万円特別控除とは
それでは「相続空き家の3,000万円特別控除」の内容を見ていきましょう。
この特例は、『空き家を相続した方の売却支援』を目的として創設された税制上の特例です。
具体的には、相続で取得した実家(空き家)を売却する際、税金の負担が軽くなります。
どのくらい税金の負担が軽くなるのか、また特例を利用するための条件を見ていきましょう。
どれくらい節税できる?
不動産を売却したときに利益(儲け)が出ると、その利益に対して税金がかかります。
このときにかかる税金を『譲渡所得税』と呼びます。
課税所得(利益)×税率20.315%=納める税金
・取得費:購入時の売買価格、売買仲介手数料、取得税や登録免許税など。
(購入時の価格などの証拠となる書面がないときは、概算取得費として“売買価格の5%”を取得費に入れることができます)
・譲渡費用:売買仲介手数料、土地測量などの、売るために要した費用など。
・税率20.315%:長期譲渡税率(5年超保有していたとき)に復興特別所得税が加算された税率。
国税庁HP 取得費となるもの
国税庁HP 譲渡費用となるもの
では、実際に計算してみましょう。
・取得費:不明。概算取得費250万円(売買価格5,000万円×5%)
・譲渡費用:仲介手数料 約170万円(売買価格5,000万円×3%+6万円+消費税)
特例を利用したほうが、約600万円も税金負担が減り、手取りが増えていますね。
空き家状態の実家を相続して売るのであれば、この特例をぜひ利用しましょう。
次に適用要件を見ていきます。
相続空き家の3,000万円特別控除の適用要件
この特例を使うためには、いくつか要件があります。
建築年月日、売買価格、相続後から譲渡まで空き家であることなどの要件があり、これらを知っておかないと、いざ特例を使おうとしても「使えない…」なんてことになりかねません。
親が一人暮らししていた自宅
相続人の親(被相続人)が一人で住んでいた自宅であることが条件です。
子や親族などが親と同居していたりすると、適用対象外となり特例が使えません。
昭和56年5月31日以前に建築された一戸建てである
2つ目の要件は、昭和56年5月31日以前に建築された建物であることです。
特例の創設目的が『耐震性の低い空き家を減らすこと』ですから、対象建物の建築年月日に要件があるということですね。
この基準日は耐震基準の見直しがあった年で、《昭和56年5月31日以前を旧耐震》、《それ以降を新耐震》の建物としています。
この基準に沿って、耐震性が低い=旧耐震=昭和56年5月31日以前の建物として要件に加えられています。
ただし、建築年月日の確認は、建物登記簿に記載されている建築年月日が昭和56年以降であっても、『建築確認通知書』で確認しましょう。
『建築確認通知書』の日付が、昭和56年5月31日以前であれば旧耐震として特例適用できる可能性があります。
相続から売却するまで空き家であること
相続発生のときから売却するときまで、継続して空き家でなければなりません。
もし空き家だからと誰かに賃貸したり、居住したりすると空き家状態ではなくなり、特例の対象から外れてしまいます。
賃貸などを検討する場合は、特例が使えなくなることを理解したうえで判断するようにしましょう。
売買価格が1億円を超えると特例が使えない
売買価格にも要件があり、1億円以下でなければなりません。
たとえば、空き家が1億5千万円で売れることが分かったとします。
「売買契約を7,500万円ずつ2回に分ければ1億円以下だから、この特例を使えるのでは!?」
答えは、「NG」です。
2回に分けたとしても、合計1億円以下かどうかで判断しますので注意してくださいね。
相続で取得した人ごとに特例を使える
空き家を相続した人たち全員で3,000万円の控除ではありません。
1人:3,000万円
2人:3,000万円×2人=計6,000万円
3人:2,000万円×3人=計6,000万円
4人:2,000万円×4人=計8,000万円
(※令和6年1月1日以降の相続より適用)
空き家を売却したとき、相続人は相続した不動産の持分に応じて売買代金を得るため、各々が納める税金を計算します。
先ほどの《譲渡所得税の簡易計算式》で税額を計算してみましょう。
・取得費:不明。概算取得費250万円(売買価格5,000万円×5%)
・譲渡費用:仲介手数料 約170万円(売買価格5,000万円×3%+6万円+消費税)
・空き家の相続人:2人(AさんとBさん)
・遺産分割の割合:2分の1
結果、AさんもBさんも譲渡所得税は0円となります。
相続人が2人以上いるときで、空き家となった実家を売却するなら共有で相続し、この特例を各々使えれば、一人で相続して売るよりも相続人に残るお金が増えますね。
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特例を使うときの注意点
売却するとき、旧耐震の古い建物をどのような状態で買主に引渡せばよいかなど、気を付けたいことがあります。
建物を耐震補強するか、解体して更地にしてから売却する
売却するとき、建物は次の2つのどちらかの状態とすることが必要です。
1.耐震補強する
旧耐震の建物なので、専門家による耐震診断のうえ耐震補強工事をします。
2.解体し更地にする
旧耐震の建物を補強せず、解体して更地にします。
対象の建物を買主が使わないケースが該当するでしょう。
建物の耐震補強・解体するタイミングは買主に引渡す前
建物の耐震補強または解体し更地にするときに気を付けたいことは、タイミングです。
令和5年度の税制改正で、特例を受けるためには、譲渡の日の属する翌年2月15日までに耐震補強や建物解体をする必要があります。
確実に特例を適用するには、買主さんに物件を引き渡す前に耐震補強や解体をしておくと安心です。
親が老人ホーム等の施設に入所しているとき
親が自宅に住んでいたことが要件でしたが、老人ホーム等に入所していた場合どうなるでしょうか。
親が要介護認定などを受けて老人ホーム等に入所した場合も、この特例を適用できるように改正されています。
ただし、「親の荷物が置いてある」など細かな要件があります。この点については相続に詳しい税理士や、最寄りの税務署に確認しましょう。
また、ご本人や親のケースが要件に該当するのか詳しく知りたい方は、国税庁ホームページのコード3307「被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」をご覧ください。
親が子の家や賃貸物件に入居していると特例が使えない
老人ホーム等に入所していたら特例は適用できますが、子の家や一般的な賃貸に入居していた場合、どのような扱いとなるのでしょうか。
この場合、親が自宅に住んでいないとみなされてしまい、《相続発生前まで住んでいたこと》という要件に当てはまらなくなり、この特例を利用することはできません。
適用できる期限が決まっている
適用要件の一つに、《相続が発生してから3年を経過する日が属する12月31日までに売却すること》とあります。
・相続人同士で実家を売るかどうかの話し合いがまとまらない
・不動産に問題があり、問題解決から売却までに時間がかかる
・相続人の一人が認知症になってしまい、不動産売却ができなくなった
上記のような理由から、期限内に売却することができない場合もあります。
期限切れ後に売却すると、この特例を利用できず、通常の税金を納めることになります。
また、この特例は今後も継続してあるものではなく、令和9年12月31日までの期限付きの特例です。
これまでお伝えしたとおり、手取りが最大600万円も変わりますから、この特例を利用できるのであれば是が非でも使いたいですよね。
家族信託していると特例が使えない!?
令和5年1月に、東京国税局から「家族信託中に相続が発生した場合、当該特例は適用できない」との発表がありました。
いずれ空き家となる実家を売却する予定がある方は、家族信託の適用には十分に留意してください。
認知症対策として注目されている家族信託についてお知りになりたい方は、以下の記事をご覧ください。
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家族信託ってなに?概要や仕組みをわかりやすくイラスト解説!
空き家の実家を賢く売るための5つのポイント
1円でも高く賢く売るためには、事前に準備をしておくことが大切です。
そのためのポイントが5つあります。
1.実家の売買価格相場を把握しておく
どのくらいの価格で売れるのかを確認するために、下記のステップを行ってみてください。
②以下の記事を参考に、ご自身でおおよその売買価格を確認してみる
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相続不動産の高額査定に要注意!自分で時価を判断するための3つの方法
【価格査定時の確認ポイント】
・1億円以下かどうか
→1億円超だと特例の対象外となるため
・3,000万円以上かどうか
→相続人が複数名いる場合、共有で相続することで各人が3,000万円の控除(3名以上は2,000万円/人)を利用して税メリットを享受できる
特例適用の判断や、2人以上で相続したほうがよいかの判断材料とすることができますので、価格査定はしておきましょう。
2.部屋の片づけは早めにしておく
不動産相続の現場でお客様が“一番”と言っていいほど苦労されているのが、「部屋の片づけ」です。
捨てる物だけになっていればいいのですが、思い出の品や換金できる物などとの分別にとても時間がかかります。
産廃業者に依頼すると一度で終わるので楽ですが、費用もかさみます。
少しずつご自身で整理(ごみ処理・不用品回収など)しておくだけで、だいぶ費用を抑えられますので、早めに片づけ始めることを推奨します。
3.一定期間だけ賃貸するなら、特例も検証したうえで実行する
「空き家のままはもったいない」「親の介護費用を捻出したい」「空き家でも毎年税金がかかる(固定資産税など)」「空き家の実家を貸して、賃料収入を得たい」など、賃貸をするか一度は考えるのではないでしょうか。
注意したいことは、
(2)賃料収入(空き家を賃貸)+相続後に売却したときの手取り額(特例適用不可)
一見すると賃料収入も得られる(2)が多く収入を得られそうですよね。
しかし(1)の方が、手取りが多くなることもあります。
安易に貸すことを選択せず、貸す場合や売る場合をシミュレーションし検証したうえで、事情を考慮して判断しましょう。
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4.生前に実家の方向性を決めておく
実家の方向性を巡って相続人同士で争ってしまうと、解決までに時間も労力もかかり、特例の要件である『相続発生から3年を経過する日が属する12月31日までに売却』という期限が過ぎてしまうかもしれません。
そうなると、税負担を軽減できるメリットを享受できなくなります。
これでは誰も得をしませんよね。
親が元気なうちに、「実家をどうするか?」と話し合っておくことが大切です。
実家の方向性について相談先に迷ったときは、以下の記事をご参考にしてみてください。
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相続対策の相談は誰にする?相談先と報酬相場の判断材料
5.空き家になってから2年以内に売却活動する
まず押さえておきたいのは、空き家を売却するとき使える特例の期限です。
①相続空き家の3,000万円控除(相続後 戸建てのみ)
②居住用財産の3,000万円控除(生前 住宅であれば戸建て以外も可)
この①②は住まなくなってから(相続発生してから)3年を経過する年末までに売却することが条件です。
続いては建物(寿命)です。
これまで何千という空き家を見てきて、空き家を適正に管理しているか(築年数、全室一定空調などの性能にもよりますが)で建物が劣化するまでの時間が変わることを実感しています。
これは私や知り合いの不動産業担当者のあくまで業界20年以上携わってきた経験レベルでのことですが、築30年以上経過する木造建物が使えなくなるまでの期限は以下のとおりです。
・空き家で管理している(掃除、空気の入れ替えしている):5年(以上も)
実家が遠方にあるなどで適切な管理ができない場合、2年以内に売却しないと建物は解体せざるを得ません。
つまり、建物解体費分(数百万円)の手取りが減ることになります。
特例は3年以内ですが、空き家になってから例えば3年経過して売却活動して、買い手が付かない、条件が合わないなどでモタモタしていると特例を使える期限に間に合わないなんてこともあります。
空き家になってから建物の寿命2年を意識して取り組みすれば、特例の期限にも余裕が生まれますから、上記1~5も参考に、空き家になってから2年以内売却するように活動を進めていけば税効果も受けられ、建物の価値(売却代金)も得られるため一石二鳥です。
空き家になってから考えるのではなく、空き家になってからすぐに売却活動をスタートできるように準備していくことが重要でしょう。
プロサーチ株式会社では、空き家となる実家を貸したほうがいいのか、売却したほうがいいのかのシミュレーションや価格査定、賢く特例を使うためのアドバイス、今から準備しておくことなどについて無料相談をお受けしています。
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まとめ
・特例を使うには、適用要件(相続のときから空き家であること、昭和56年5月31日以前に建築されていること、一定期間内に売却することなど)をクリアする必要がある。
・特例が使えるのは実家を相続した人のみ。
・親が元気なうちから、実家の売却価格を把握し、期限内に売却できるように準備をしておくことが重要。
・実家を家族信託したまま相続が発生したときは、特例は使えないという点に注意が必要。
・税法改正があり令和6年1月1日以降に行う譲渡は、要件緩和もあるが、特例控除額の上限が減額される。
・空き家になってから2年が建物を活かせるか、解体するかの期限である
実家は育った場所であり、親との想い出もある、先祖代々引き継ぐもの、など経済的な損得勘定では測れない想いが沢山あると思います。
また、相続する人ごとにその想いの重さも違うでしょう。
だからこそ、できることなら「子は親へ。親は子へ」、元気なうちに想いや希望を聞き、家の維持負担など現実的なこともよく話し合い、大切な実家を空き家のまま朽廃させないように取り組んでいく必要があると思います。
空き家となる実家の相続については、相続に詳しい不動産会社や税理士などの専門家へご相談ください。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。