「家族信託は高い」とお客様に言われたら?専門家が家族信託を受任するための秘訣

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「家族信託は高い」とお客様に言われたら?専門家が家族信託を受任するための秘訣写真
2021.4.15
更新 2022.8.31

 
「専門家に支払う家族信託報酬って高くない!?」
「家族信託って本当に必要?高いお金を払ってまで、する必要性を感じない」

 
相続や不動産に携わる専門家の皆様は、このようなことをお客様から言われた経験はありませんか?
確かに、中心市街地にある土地30坪くらいの一戸建てでも、家族信託の組成には30万円以上かかりますし、これがアパートだったり、ビルだったり、何棟もあったりとすると、200万円以上かかることも。
 
金額だけを見ると、お客様は「家族信託は高い」と感じるのかもしれません。
 
しかし、報酬が高いと感じて家族信託をやめる方がいる一方、高額な費用を支払ってでも家族信託をする方がいます。
さて、両者の違いは何でしょうか。
 
本記事では、家族信託をした場合としなかった場合を比較し、将来どれだけ費用に差が出るのか?お客様に「家族信託は高い」と言われたとき、どのように話を切り返すのか?といった点についてお伝えいたします。
 
本記事のポイントはこちら

・家族信託の報酬体系は、コンサルティング報酬と信託契約書作成報酬の2つで構成されている。
 
・2022年現在、専門家に支払う家族信託報酬の相場は、相続税評価額3,000万円の実家を信託した場合で、総額50万円~80万円ほどかかる。
 
・家族信託をせずに意思判断能力喪失・相続発生してしまうと、家族信託をした場合と比べ、税金や費用に数百万円も差がつく場合もある。
 
・家族信託は保険のようなもの。早めの対策と長期的な視点で検討することが後々の後悔を回避するポイントである。

 
 

 家族信託を組成する専門家の役割と報酬

報酬
家族信託を取り扱う専門家が増え、“報酬の相場感”が掴めるようになってきましたね。
本題に入る前に、役割と報酬体系を確認しましょう。
 
大きく、以下の2つで構成されています。
 

1.コンサルティング
2.信託契約書作成

 

 1.コンサルティング

家族信託コンサルティングとは、主としてこれから家族信託を考えるご相談者やそのご家族に対して、家族信託とは何か、そのご家族にとって必要な対策なのかを説明し、提案する役割です。
 
弁護士や司法書士といった法律家だけでなく、ファイナンシャルプランナー(FP)、不動産会社、生命保険営業担当者などもその役割を担っています。
 

主な役割
・家族関係、財産の状況のヒアリング
・家族信託の説明
・家族信託をする目的を明確にする
・専門士業などをコーディネート、見積もり取得
・信託後のサポート

 

コンサルティング報酬
・最低報酬額:10万円
・財産額1億円未満の場合:報酬額20万円~40万円
・財産額1億円以上の場合:報酬額40万円~

 
※弊社が聞き取りを行った専門家等がお客様へ提示している金額の例です。異なる報酬体系の専門家もいますので、あくまでご参考価格としてください。
 

 2.信託契約書作成

前段のコンサルティングによって、家族信託の委託者、受託者などの登場人物や、信託で行いたいことが分かりました。
次に行うのが、この内容を契約書に落とし込むことです。これは、弁護士や司法書士、行政書士といった法律家が作成することになります。
 

主な役割
・コンサルティング情報の精査、質問
・信託契約書作成
・関係者への契約内容説明
・公証人への説明(公証契約とする場合)
・信託契約締結

 
信託する財産が不動産の場合は、弁護士や司法書士が信託登記をすることができます。
 

信託契約書作成報酬
・最低報酬額:30万円
・財産額1億円未満の場合:報酬額30万円~50万円
・財産額1億円以上の場合:報酬額70万円~

 
信託する財産額に対して乗じる料率、金額が決まっている法務事務所が多く、財産の種類や受益者連続型などの難易度によって加算するようです。
 
※弊社が聞き取りを行った専門家等がお客様へ提示している金額の例です。異なる報酬体系の専門家もいますので、あくまでご参考価格としてください。
 
 
ここで、例えば『相続税評価額3,000万円の実家、抵当権なし、父の相続により信託終了(認知症対策としての家族信託利用)』という条件のときの費用総額を見てみましょう。
 
コンサルティング報酬は10~30万円、信託契約書作成報酬は30万円のため、合計40~60万円くらいになるでしょう。
これに別途、公証役場への報酬や登録免許税等がかかるので、総額50万円~80万円ほどかかることになります。
 
最近では『家族信託パック商品』なるものも流通し始めています。
コンサルティング部分の最低報酬額を5万円~と安価に設定し、組成後の安心サポートを提供しているようです。
お客様にとって、分かりやすい料金体系や比較対象があるということは、よい傾向だと言えるでしょう。
 
ただパック商品は注意しておきたいこともあり、それは契約書作成費用(登録免許税、登記費用など)や、アプリ利用など月額のサポート費用が発生することです。
 
安価設定なのでつい見落としてしまいがちですが、お客様へ商品をご紹介するときは『初期費用、信託組成費用、継続費用』を確認してお伝えしましょう。
 
 

 家族信託を受任するためのポイント
 ~信託をした場合としていない場合の費用を比較する~

比較"
一戸建て1棟のみを家族信託するだけでも、およそ70万円かかる…。
親が認知症になって困ることや出来なくなることが分かっていたとしても、この報酬額を聞くと高く感じて、私でも躊躇してしまいます。
 
しかし、70万円という家族信託の料金を提示するときに、お客様に必ずお伝えいただきたいことがあります。
それは、家族信託は、その目的によっては【費用対効果】も得られるということです。
 
ここでは、家族信託の目的によく挙げられる「親が認知症になって施設に入所したら、空き家になった親名義の一戸建て(実家)を売却する」ということを前提にお話ししていきます。
 
 

<前提条件>
家の状態

・空き家状態の、昭和60年築の一戸建て。固都税は年間10万円。火災保険料6万円。
・子は実家から離れて暮らしているため、実家の管理は空き家管理会社に月1万円で委託。
 
親の状態
・母は一人暮らしをしていたが、介護施設へ入居した。(父は数年前に他界)
・母は施設入居後に認知症発症。発症から相続発生までの期間は10年間。
 
子の考え
・施設入居金や月額賃料支払いのため、実家を売却して資金を捻出したい。

 
※譲渡所得税を計算していますが、あくまで分かりやすく概算で表示しています。実際とは異なりますので、ご注意ください。
 
 
母が元気で健康なときに実家を売却できれば問題ありませんが、認知症等によって意思判断能力を喪失してしまうと、実家を売れなくなるなど大きな問題へ発展することがあります。
 
それでは、“お金”にスポットを当てて、この事例を解説します。
 

 家族信託をしていなかった場合

家族信託をせずにお母様が意思判断能力を喪失すると、以下のような流れになります。
 

1.実家を売れなくなるので継続保有する
2.お母様のご相続発生後に、実家を売却する

 
1.実家を売れなくなるので継続保有する
その間、固定資産税や維持管理費などを負担⇒相続発生までの10年間保有
 
・固定資産税:年間10万円×10年で100万円
・維持管理費:年間12万円×10年で120万円
・火災保険料:年間6万円×10年で60万円
 ⇒合計:280万円・・・①
 
2.お母様のご相続発生後に、実家を売却する⇒売買価格3,500万円で売却と仮定
・価格:3,500万円
・経費:▲500万円(仲介手数料や概算取得費等で500万円とします)
・利益:3,000万円(価格-経費)
・税金:▲600万円(譲渡所得税:利益3,000万円×税率20%)・・・②
・手取:2,400万円(3,500万円-500万円-600万円)
 
この税金:600万円・・・②を支払う必要があります。
 
つまり、①280万円+②600万円=合計880万円が維持管理や税金でかかってくることになります。
 
なお、相続後の空き家の実家売却で、【相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例】という譲渡所得税が安くなる特例がありますが、この事例では使えません。
 
特例には『昭和56年5月31日以前に建てられた建物』という適用要件があり、本事例は昭和60年築のためです。
建物の築年数を確認しておくのも大事ですね。
 

成年後見制度を利用する

成年後見制度を利用した不動産売却方法もあります。
 
どのくらい費用がかかるのかを押さえておきましょう。
 
①申立て時(1度きり)11万円~21万円くらい
~内訳~
・印紙:3,400円
・通信:3,270円
・鑑定:10~20万円(裁判所が鑑定が必要と認めるとき)
・診断書:数千円程度(病院ごとに異なる)
・書類:数百円程度(住民証、戸籍謄本)
・証明:300円(登記されていないことの証明書)
 
②後見人等の報酬(相続発生まで)
・基本月額:2万円/年間24万円
・財産額1,000万円超:月額3万円~4万円
    5,000万円超:月額5万円~6万円
・付加:上記報酬額に50%を超えない範囲で報酬付加できる(アパート等があるとき)
※他、後見監督人が付くケースは、上記報酬の半額程度がかかります。
 
<例:財産3,000万円超のケース>
後見制度を使い始めてから10年間ご存命だった場合、①+②=合計380万円~500万円
 
なお、被後見人の自宅売却は裁判所の許可が必要なので、注意が必要です。
 

 家族信託をしていた場合

それでは、家族信託をした後にお母様が意思判断能力を喪失した場合は、どのようになるのでしょうか。
 

1.売却するまでの間だけ継続保有する(税金・維持管理費)
2.ご相続発生前でも、実家を売却することができる

 
認知症発症から半年後に売却完了した場合
 
1.固定資産税や維持管理費などの負担
・固定資産税:年間10万円×半年分(50%)=5万円
・維持管理費:年間12万円×半年分(50%)=6万円
・火災保険料:年間6万円×半年分(50%)=3万円
 ⇒合計14万円
 
2.家の売却⇒売買価格3,500万円で売却と仮定
価格:3,500万円
経費:▲500万円(仲介手数料や概算取得費等で500万円とします)
特例:▲3,000万円(※居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除)
利益:0万円(利益0のため、税金の支払いはなし)
税金:0円
手取:3,000万円(3,500万円-500万円)
 
※譲渡所得税を計算していますが、あくまで分かりやすく概算で表示しています。実際とは異なりますので、ご注意ください。
 
 
表にまとめると、以下のようになります。
 

  家族信託しなかった場合 家族信託した場合
家族信託費用
0円
70万円
維持費用負担
280万円
14万円
売却税金負担
600万円
0円
負担総額
880万円
84万円

 
この結果を見ると、家族信託をした場合では、約800万円も総合的に支払うコストが安く済みます。実に10分の1以下です。
これを見て、家族信託の費用70万円は高いと言えるでしょうか。
 
(※ただし、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の適用要件の一つに、住まなくなってから3年を経過する日が属する年末までに売却するという条件があるので注意が必要です)
 
 

 家族信託は保険のようなもの

保険
この事例で取り上げたような実家の売却については、親の意思判断能力が喪失し、すでに手遅れになっている状態でのご相談が多く、「もっと早くご相談に来ていただければ…」「家族信託をもっと早くご存じだったら…」と思うことがあります。
 
本記事をご参考に、「万が一のときのために家族信託をしておくと、実家の売却で数百万円もコスト減になる可能性がある」と、皆様のお客様へお伝えいただき、ぜひ一日でも早く検討していただければと思います。
 
もちろん、実家の売却だけではなく【遺産分割・相続税の納税・相続税節税】などの相続対策で不動産を売却したり購入したりする方も同等以上の金銭的効果を得ることができますし、何より、親の意思判断能力が喪失したとしても、子や家族が相続対策を続けることができます。
 
このように家族信託は親の意思判断能力が喪失しても財産管理が出来るのが特徴ですが、当然ながら、高い報酬を支払って家族信託を組成しても、親の意思判断能力が喪失せず、ずっと元気なままということもあり得ます。
 
自分が認知症になるなんて思いたくもないから
「家族信託しなくてもいい。私はボケないよ」
と多くのお客様は言います。
 
しかし、これを自動車保険や生命保険に言い換えると…。
 
「自動車保険加入しなくてもいい。事故しないから」
「生命保険加入しなくてもいい。暫く死なないから」

 
このように言うお客様は少ないのではないでしょうか。
 
“万が一の時に、家族がお金で困らないように”
 
このような“万が一の心配”が理由で、多くの方が自動車保険や生命保険に加入していますよね。
家族信託も考え方は全く一緒です。
 
もしかしたら意思判断能力を喪失しないかもしれないけど、“財産価値が減る”ことや“お金が引き出せない”ことなどで、家族が困らないようにすべきだと思います。
そういった点から、家族信託とはこれら保険の意味合いと似ています。
 
実際に私も、お客様に「家族信託は保険のようなもの」と伝えます。
そして、家族信託を組成していただいたお客様も「結局、母は認知症にならなかったけど、母の体調を気にして焦ることなく安心して不動産相続対策を進められた。保険のようなものだね」と仰っていました。
 
身近な例で伝えることで、“言われてみたら確かにそうだな”という気づきを得て、それをキッカケに、「財産のことで配偶者や子どもが困らないようにするためには?」と、お客様ご自身にちゃんと考えてもらうことが大切ですね。
 
 

 遺産相続コンシェルジュより

 
本記事のポイントはこちら

・家族信託の報酬体系は、コンサルティング報酬と信託契約書作成報酬の2つで構成されている。
 
・2022年現在、専門家に支払う家族信託報酬の相場は、相続税評価額3,000万円の実家を信託した場合で、総額50万円~80万円ほどかかる。
 
・家族信託をせずに意思判断能力喪失・相続発生してしまうと、家族信託をした場合と比べ、税金や費用に数百万円も差がつく場合もある。
 
・家族信託は保険のようなもの。早めの対策と長期的な視点で検討することが後々の後悔を回避するポイントである。

 
生命保険に加入する理由の代表的なものは、「家族が生活費や学費など金銭的なことで困らないように、自分の万が一のときは○○万円を家族に遺せるようにしておきたい」ということだと思います。
具体的な問題点と叶えたいことが明確なので、高い保険料を支払ってでも加入するのです。
 
家族信託も、『やることの価値や効果』が分かっていれば、お客様も必要性を感じてもっと前向きに検討できるのではないでしょうか。
 
私たち専門家は、「認知症になったら資産凍結されて大変だ!」とただ不安を煽るだけではなく、本記事でお伝えした通り、それぞれのお客様の金銭的な負担減や効果を検証し、「家族信託報酬を支払ってでも組成するメリット(費用対効果)がある」とお伝えすることが大切だと思います。(記:松尾企晴)
 
 

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この記事の監修
プロサーチ株式会社 代表取締役 松尾 企晴(まつお きはる)

20歳のとき母方の祖父母を火事で亡くし、祖父祖母の相続では兄妹間の争族に発展。『またいつか』ではなく『すぐにでも』行動しなければならないことや、どれだけ仲の良い兄妹でも揉めることを痛感。会社の事業理念に『家族の物語をつむぐ』を掲げ、不動産等のモノだけではなく、親や子に対する想いや思い出などのコトも含め、家族が織りなしてきた物語(モノやコト)を親から子へと継承していくことこそが【真の相続】と考え、不動産相続のプロとして、お客様の気持ちを聴き、寄り添う姿に多くの顧客から信頼を得ている。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。

 
 

 

 

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