家族信託ができるお客様とできないお客様。信託組成に立ちはだかる2つの壁とは?
相続に関する専門家の皆様はご存知でいらっしゃることと思いますが、資産(お金・不動産等)を所有する親が認知症等により意思判断能力を喪失してしまうと、家族(子など)がお金や不動産の管理・処分を行うことができなくなります。
つまり、お子さんが、親御さん名義の現金の引き出しや不動産の売却・賃貸等ができなくなってしまうということです。
そこで、親が認知症になったときのため、対策として活用できるのが“家族信託”です。
親世代「体力的に財産管理がきつくなってきた」
「認知症になったときに子どもに迷惑をかけたくない」
子世代「親の財産管理に不安を感じることがある」
「もし親が認知症になって財産が凍結されたら困る」
このような思いから、家族信託を検討されるお客様が年々増えています。
家族信託の契約は、親と子の2人(託す人と託される人)がいて、託す財産と内容が決まっていればできます。
しかし、「何とかしたい!」という思いがあっても家族信託の話が進まず断念するご家族もあれば、ちゃんと進むご家族もあります。
その違いは一体何でしょうか?
本記事では、お客様が家族信託を考えるときにぶつかりがちな壁や、専門家の皆様が家族信託をご提案される際に気を付けていただきたいことについてお伝えいたします。
本記事のポイントはこちら。
・お客様に家族信託をご検討いただく際のハードルは、「家族各々の事情や考え方」と「費用」。
・家族信託の見積り額だけ見て組成しないと判断すると、将来的に大きな損失となることもある。その後の経済的な損失や負担の試算をお客様に提示する必要がある。
家族信託契約のハードル①
本人(親)や家族(子ども)の事情
お客様に家族信託を検討いただくにあたって、ハードルの一つとなるのが『本人(親)や家族(子ども)の事情』です。
【家族信託が進まないケースの代表例】
・「子が困るようなことはないから、大丈夫」だと思っている。問題点があったとしても聞く耳を持たない。
・「いざその時になったら考えればいい」と楽観的に捉えていて、相続対策の優先順位が低い。
親か子ども、いずれかがこのように考えていると、家族信託は進みません。
それでは、実際に家族信託を断念されたお客様の事例をご紹介いたします。
事例紹介:家族信託を断念されたお客様
相談者 | お母様(79歳) |
---|---|
家族 | 長男(57歳)、次男(55歳) |
財産 | 自宅、現預金 |
現状 | お母様は夫(4年前に他界)から財産を相続し、一人暮らし |
相談 | 財産凍結による生活への影響が不安。家族信託を検討したい |
お母様は、『認知症になると不動産が売れなくなり、銀行口座は凍結されること。その対策方法として“家族信託”があること』をテレビ番組で見て知りました。
プロサーチ「財産の管理や処分を託せるご家族はいらっしゃいますか?」
ご相談者様「子どもは2人いますが、財産の管理を託すには不安があります」
私どもは、お母様に『家族信託をした場合』『後見制度を利用した場合』『何もしなかった場合』それぞれのケースについて丁寧にご説明しました。
・子ども同士の仲が悪く、家族信託の話をしたとして協力してくれるか。
・子ども同士の仲が悪くても、2人ともから家族信託の理解を得られたら、どちらか1人に託すことも出来る。
・財産を託した子の行動を監督する人(信託監督人)を置き、財産管理状況のチェック機能を付けることも可能。
しかし、後日お母様から「子どものことを信じないわけではないけど、やっぱり託すことに不安があるわ」と、家族信託を断念する旨のご連絡がありました。
このように、“本人(親)”や“家族(子ども)”の意思や状況によって、将来の不安はあるけど託せる家族がいなかったり、財産を託す決断ができず家族信託を進められなかったり、といったケースがあります。
事例のお母様は、家族信託は使わずに“お元気なうちに”以下の対策を実行しました。
②売却代金の一部を利用し老人ホームへ入所
③100歳までのおよそ20年間分の生活費を確保(年金、売却後の残金などを合計)して、介護によって子どもに資金的な迷惑をかけないように準備
家族信託契約のハードル②
家族信託契約締結にかかる費用
家族信託を進めるに際してのもう一つのハードルは、家族信託契約のための『費用』です。
家族信託組成の費用は、およそ30万円~50万円です。
※信託する自宅の相続税評価額と現預金の合計額が3,000万円とした場合のイメージです。
「けっこう高いなあ」と感じるお客様が多いと思います。
専門家である私たちは、家族信託組成の見積り額だけではなく、
『家族信託をしなかったら、財産にどのくらい経済的損失が生じるのか』
『家族信託をしなかったら、家族にどのくらい経済的負担が生じるのか』
このような視点で、お客様に家族信託の必要性をお伝えすることが大切です。
この経済的損失や負担の検証は、大まかでも構いませんが、必ず提示することをお勧めいたします。
例:『将来自宅を売却してその代金で老人ホームに入所する』
※自宅の相続税評価額:3,000万円とします。
・法定後見制度で自宅売却。毎月後見人報酬の負担がある。(一般家庭3万/月程度)
つまり、本人(親)がその後10年生存した場合、360万円の費用が発生します。(後見人報酬月3万円×10年(120ヶ月))
また、法定後見制度において、被後見人の自宅売却をするためには、裁判所の許可が必要になります。
※上記費用以外に、財産を託した子などへの管理報酬(手間代)を設定することも可能です。
このように、家族信託をしなかった場合と、した場合とで、費用負担の総額に違いがあります。
本人(親)や家族(子ども)の目的が、
「もし親が意思判断能力を喪失しても、老人ホーム入所には親の自宅を売却した代金を使い、家族に資金的な負担をかけないようにしたい」
ということであれば、家族信託のほうが“自宅売却のための手段”として、経済的負担も軽くなるのです。
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また、これは自宅だけではなくアパートを所有している方にも言えることです。
アパートオーナーが意思判断能力を喪失してしまうと、賃貸募集の依頼や賃貸借契約、原状回復等のリフォームといった契約行為ができなくなります。
賃貸経営において、契約行為が出来なくなるということは大きな問題です。
空室が増え賃料収入は減少、建物の外観リフォームもできず、見た目も悪くなる一方。
負のスパイラルに陥りますね。
極めつけが“資産価値の下落”です。
アパートの売買価格は、簡単に言うと毎年いくら賃料収入を得られるかで決まりますので、賃料収入が減ると売買価格が下がります。
例を見てみましょう。
年間収入480万円(月40万円)のアパート
②オーナーが意思判断能力を喪失したあと
年間収入420万円(月35万円)のアパート
①と②の売買価格を比較してみます。
都内にある収益不動産で、投資利回りが5%とします。
計算式 ≪年間収入 ÷ 利回り = 売買価格≫
年間収入420万円÷利回り5%=8,400万円
▲1,200万円
年間収入が60万円違うだけで、売買価格に1,200万円もの差が出てしまう計算になります。
このように、オーナーの意思判断能力の喪失による経済的損失は相当です。
もし、家族信託という対策を講じていたら、意思判断能力喪失を起因とするこの経済的損失は起こらなかったでしょう。
お客様に家族信託をご検討いただく際には、家族信託組成にかかる費用だけでご判断いただくのではなく、専門家である皆様がその後の経済的な損失や負担も提示した上で、本人(親)と家族(子ども)それぞれに慎重にご検討いただく必要があります。
遺産相続コンシェルジュより
本記事のポイントはこちら。
・お客様に家族信託をご検討いただく際のハードルは、「家族各々の事情や考え方」と「費用」。
・家族信託の見積り額だけ見て組成しないと判断すると、将来的に大きな損失となることもある。その後の経済的な損失や負担の試算をお客様に提示する必要がある。
家族信託の組成費用は決して安くはありません。
家族信託の相談を受けるときは、家族信託の制度の説明や資産凍結がされないという利点だけではなく、数字上の効果、【経済的な損失】もぜひ検証して、お客様へお伝えください。
その理由は、“財産が減ること”が明確になっていたほうが、お客様は真剣に検討するようになるからです。多くの方が、自分や家族の資産が目減りすることは避けたいと考えるものですよね。
お客様やそのご家族への説明や、財産の経済的な損失等の検証については、プロサーチにてサポートさせていただくことが可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。(記:松尾企晴)
会社の事業理念に『家族の物語をつむぐ』を掲げ、不動産等のモノだけではなく、親や子に対する想いや思い出などのコトも含め、家族が織りなしてきた物語(モノやコト)を親から子へと継承していくことこそが【真の相続】と考え、不動産相続のプロとして、お客様の気持ちを聴き、寄り添う姿に多くの顧客から信頼を得ている。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。