円満な遺産分割をしたのに不動産の建て替えや売却ができない!? 将来困らないためにやるべきポイント

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2020.9.15

 

相続で分割をするときに不動産調査などをして『不動産の遺産分割時の留意点』を把握できていたら、後に問題にならず家族間で揉めてしまうこともないでしょう。
 
しかし、相続時の調査不足等で問題点を見過ごしてしまい、後に希望通りに活用できないという問題が発生することがあります。
 
これから相続で不動産の分割を検討される方は、以下のことをぜひ頭の中に入れておいてください。
 
今回のポイントは以下のとおりです。
 

・不動産の相続で大切なのは『評価や時価』の数字だけでなく『利用実態や建築基準法など関係法令』を把握すること
 
・その建物はどこまでを敷地として建築したのか、を確認すること
 
・不動産の相続対策には、不動産に精通した専門家を入れることが必要

 
 

10年前お母さんの相続発生時には円満に分割できた

相続時の不動産の分割に関するトラブル事例をご紹介します。
 

今回のご相談者様は長男Aさん。
兄弟で分割した遺産についてのお悩みでした。
事の発端は10年前に遡ります。
 

登場人物:お父さん(15年前他界)
     お母さん(10年前他界、生前は自宅で長男Aさん家族と同居)
     長男Aさん
     次男Bさん
     税理士C先生
     (※AさんとBさんは父親の相続の際に遺産分割で揉めてから交流なし)
 
お母さんの財産:自宅(土地、建物)
        駐車場付き一棟マンション(土地・建物)
 
弊社にご相談にお越しになる10年前、お母さんに相続が発生しました。

 

 
お母さんが亡くなったとき、遺言書なども特になかったので、Aさんはお父さんの相続時もお世話になった税理士のC先生(以下「C先生」)に相続税の申告と合わせて財産の分割方法を相談することにしました。
 

Aさんからの相談を受けて、C先生はBさんの意向も聞くことにしました
 
Bさん「Aが自宅を相続するのであれば、自分はマンションを相続したい」
 
しかし、マンション全てをBさんが相続してしまうと平等な分け方ではなくなってしまいます。
 
そこでAさんは、「マンションとその敷地をBさんに相続させてもいいが、マンションの横にある駐車場は自分が相続したい」と、C先生に話をしました。
 
Aさんの息子は現在レストランで働いていて、将来自分でレストランを開きたいと考えていました。
そのため、Aさんは大きな通りに面しているこの土地でレストランをやらせたいという想いがあったのでした。
 
Aさんが駐車場部分を欲しいとの要望を受けて、C先生が、路線価評価額を基準に計算をすると、評価上ほぼ兄弟平等に財産を分けることができるということが分かりました。
 
Bさんは駐車場はなくてもマンションの賃料収入で収益がちゃんと見込めるということ、そして評価がお互い平等であるということに納得をし、その案を承諾しました。
 
このようにして、お母さんの相続に関しては、兄弟揉めることはなく、スムーズに遺産分割協議は終了したのでした。
 

分割から10年後に大きな問題に気が付く!!


 

その後Bさんが相続したマンションも順調に稼働しており、何事もなく平穏に月日は流れていきました。唯一あった大きな出来事としては、以前からAさんが相談をしていたC先生が亡くなってしまったことぐらいでしょうか。
 
そして、お母さんが亡くなってから10年が経過。
 
Aさんの息子も料理人としてキャリアを十分積み、レストランを開業することに。
そこでAさんは息子と一緒に駐車場の土地に、レストランの建築計画を建築会社に依頼することにしたのです。
 
すると建築会社の担当者からAさんに電話があり、
「今、敷地調査で役所に来ているのですけれども、Aさんの土地(駐車場)には建物を建てることができないと言われました。」と一言。
 
この駐車場の土地は、20年前にお父さんがマンションの建築をした時の建築敷地に含まれていたのです。
 
つまり、この駐車場の土地も含めたところで建築確認申請(≒この敷地にこのような建物を建築します、という管轄行政への申請)が出されているため、ここに別の建物を計画すると、新築ではなく、マンションの増築になってしまうというのです。
 
新築が無理ということであれば、増築での申請はできないのかと考えました。
しかし、既存のマンションで建蔽率、容積率(≒その敷地に建てられる建築物の制限)は上限値まで使っているため、新たな建物をこの敷地に建てられる余地が全くない、とのことでした。
 
つまりこの駐車場土地は、マンションの建物を壊さない限り、新たに建築をすることができない土地という衝撃的な事実を知ったのです。
 
Aさんにとって、建物が建てられない土地を持っていても意味がありません。
 
Aさんはこの土地を相続してから10年間、駐車場として利用していました。
当初は満車で稼働しており、安定的に貸せていたので問題はありませんでした。
しかし、最近では駐車場の空車も目立ち賃料も安くなる一方で、ついに収入よりも固定資産税の方が高くなってしまい、マイナス収支の状況になっていました。それでもいずれは息子さんのレストラン開業のためにと、持ち続けていたのです。
 
想定外の現実を目の当たりにしたAさんは、「いっそのことこの土地を売ってそのお金で新たな土地を買いたいが、マンション敷地とのこともあるし、本当に売れるのか?」と悩んでいました。
 
Aさんは誰に相談すべきか分からず、たまたま見かけた不動産相続セミナーの広告で私たちの存在を知り、セミナーにご参加のうえで、この土地についてご相談にこられました。
 
 

実はBさんにとってもこれは大変な話!


 
これまでの経緯を聞き、当社で不動産調査した結果も同様でした。
しかし、これはAさんだけの問題ではありません。
 
Bさんが所有しているマンションは、駐車場の敷地があってはじめて建築基準法を満たすマンションなのです。
 
つまりBさんが将来マンションを売ろうとした時、以下の様な問題が発生する可能性があります。
 

・駐車場部分の土地がないとマンションが「違法建築物」になってしまう。
・違法建築物は融資審査が厳しく、融資額も著しく低くなり、買い手が付きにくい。
・買い手がいたとしても当然安い値段でしか売れない。

 
もちろんこのことはBさん自身も気がついていません。
 
今回のケースは何が問題だったのでしょうか。
その答えは、10年前のお母さんの相続時の遺産分割の仕方でした。
 
Aさんは、駐車場を売るとBさんのマンションが違反建築物になってしまうし、このまま残していても建築できないという身動きのできない状況に、どうしよう…と困っていました。
 
私たちは、この問題を解決するために、Bさんにも現在の状況を詳しく説明しにいきました。

Bさんはその話を聞いて「C先生、そのようなこと一言も言っていなかったな。困ったよ、一度自分でも調べてみるので、またご連絡します」と言い、ご自身でもお調べされ、後日連絡があり、駐車場敷地がマンションにとってとても重要であることを認識されました。
 
マンションが違反建築物にならず、Aさんが自由な活用が出来るようにするための方法は、Bさんに駐車場を買い取ってもらうことです。
弊社にて駐車場の取引時価を算定し、利用実態等を踏まえ、路線価(相続財産評価額)程度でBさんに買取ってもらうことでお二人は合意され不動産取引の手続きをしました。
 
Aさんは受け取った売買代金で、別の場所に土地を購入しレストランを建築することができました。
しかし「ホッとした半面、10年前の相続の時にこのことを知っていたらと思うと…。相続税の他に、譲渡所得税など余計な税金負担もありましたし、時間もかかってしまいました。相続には不動産に精通した専門家が必要だと痛感しましたよ」と心境を吐露されました。
 

まとめ

このような相続における不動産(遺産分割)の問題は近年増加しています。
その背景は、不動産に詳しくなく、不動産会社とのネットワークもない税理士や司法書士、弁護士、生命保険会社、IT業界などが相続ビジネスに参入してきたためと考えています。
このような専門家は『税金の圧縮』『評価額や相続税の計算、申告』などの税務上の話ばかりで、肝心の遺産分割の問題は後回し又は他専門家へたらい回しにしているところが多いです。
 
今回のポイント

・不動産の相続で大切なのは『評価や時価』の数字だけでなく『利用実態や建築基準法など関係法令』等を把握すること
 
・その建物は、どこまでを敷地として建築したのかを確認すること
 
・不動産の相続対策には、不動産に精通した専門家を入れることが必要

 
今回、読者の方々に声を大にしてお伝えしたいことは、
『不動産がからむ相続の場合は、「相続」「不動産」に精通している不動産の専門家へ依頼したり、もしくは相続対策チームに加えることが、次世代に問題の火種を残さず、より良い財産を残せるポイント』だということです。
 
「税務上」の不動産の評価や分割の仕方と、「実態上」の不動産の利用や建築基準法を踏まえた評価や分割は全く違います。
その違いを分かっている土地所有者も税務の専門家も世の中に非常に少ないのも実態です。
 
この事例の場合、もし不動産に詳しい当社のような存在と税務の専門家が共同で、不動産の実態を調べ分割を考えていれば、
・マンションの建築確認をどの敷地でどう取得しているか
・それぞれ分割後も建築基準法を満たした上で、分割できる土地なのかどうか
などを考慮して不動産の分け方について提案できたはずです。
 
これから相続で不動産の分割を検討される方は、
「相続」「不動産」に精通している不動産の専門家へ依頼、もしくは相続対策チームに加えることも検討してみてください。
 

この記事の監修
プロサーチ株式会社 代表取締役 松尾 企晴(まつお きはる)

20歳のとき母方の祖父母を火事で亡くし、祖父祖母の相続では兄妹間の争族に発展。『またいつか』ではなく『すぐにでも』行動しなければならないことや、どれだけ仲の良い兄妹でも揉めることを痛感。会社の事業理念に『家族の物語をつむぐ』を掲げ、不動産等のモノだけではなく、親や子に対する想いや思い出などのコトも含め、家族が織りなしてきた物語(モノやコト)を親から子へと継承していくことこそが【真の相続】と考え、不動産相続のプロとして、お客様の気持ちを聴き、寄り添う姿に多くの顧客から評価を得ている。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。

 

 

 

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