お客様は『相続対策』を求めていない?プロが取り組むべきこととは
プロサーチの不動産/相続のメルマガも、配信をスタートしてからおよそ10年が経ちました。有難いことに配信を希望してくださる方が年々増えており、身が引き締まる思いです。
今回お伝えしたいことは、『相続対策が終わった後の対策』についてです。
このメルマガ配信の2ヶ月後の7月には、令和初の相続税路線価が発表されます。これから相続対策を考える方や不動産市況について知りたい方、セミナーのネタとしたい方、などが特に注目しているのではないでしょうか。
ここで読者の専門家の皆様にお伺いしたいのですが、路線価発表のとき、ご自身が過去に相続対策のお手伝いをしたお客様を思い浮かべた方はいらっしゃいますか?
また、これらのデータを以てお客様の情報更新をしている専門家がどれだけいるでしょうか。(顧問料をもらっているお客様にはサービスとして行っているかもしれませんが)
つまり何が言いたいのかというと、【過去に相続対策をしたお客様のサポートをしていない(何かあった時の連絡待ち)】のではないかということです。資産の状況やお客様の悩みなど、相続対策を一度行えば、その先にすることはないのでしょうか。
目的化している『相続対策』
そもそも相続対策とは何でしょうか。ご本人が亡くなった時に財産等をどうするか考えることというのはご存知の通り。
色々と考えられることはありますが、私が日頃から感じていることのうち、3つのポイントに絞ってお話したいと思います。
①業種業界により異なるもの
例えば、税理士が行う相続対策は税金に重きを、生命保険会社が行う相続対策は保険金を使ったもの、不動産会社が行う相続対策は売ったり買ったり。
どの業種がやるのかで対策の色が異なると私は思っています。得意分野やビジネスポイントが異なるので当然ですね。しかしそうなると、【お客様にとって本当に必要なことの見落としや抜けが出てくる】のではないでしょうか。
②現在の資産状況を基にした予測に過ぎないもの
相続対策を立案している専門家の方々は、今ある資産等を基にして『節税、納税、分割などの対策』を作り込み進めていることが殆どだと思います。立案から完了まで1~3年程度かかることが多いのではないでしょうか。
では、【相続対策完了から亡くなるまでどのくらい時間が空くのか?】これは砂時計のようにいつ終わるのかが目に見えればいいですが、誰にも分かりません。1年後かもしれないし、10年後かもしれません。例えば1年後なら対策通りにできるかもしれませんが、10年後だった場合、対策通りの遺産分割、納税財源などで問題なく進められるでしょうか。
私は、問題なく大丈夫!とは言えません。皆様はいかがでしょうか。10年前の自分とは家族構成も資産背景も、物事の考え方も変わっているのではないでしょうか。
相続対策とは、『現時点での資産等に基づく、未来の予定を立てた』ものに過ぎないということです。
③お客様にとって『分からないこと』が多いもの
相続は、人生でたった2回ほど(一般的に、父と母)しか、相続人として経験することはありません。
『誰に相談したらいいのか、どう進めたらいいのか分からない』と思うのが普通であり、ここに相続ニーズがあります。超高齢化社会の日本にとって、元気なうちに財産が凍結しないような工夫をするなど相続対策の必要性が高まっていることもあり、最近では相続にまつわる書籍も増え、関連セミナーも毎日のようにどこかで行われています。
しかし、私でさえ『誰のどんな話を聞けばいいのだろう』と迷ってしまいます。これは一般のお客様なら尚更でしょう。分からないのをいい事に、エセ相続業者が使う不安煽り商法によって、本来であれば必要のないことをしている方たちもいます。
相続対策とは、このように作り手によって異なるものが出来上がると思います。また、昨今の相続業界をみると、相続対策自体が目的化しています。お客様に『相続対策として節税したい!』というニーズがあれば、専門家の多くは、相続対策と称して資産の組み換えなどの商品提供等をするでしょう。この時点で対策が目的になっているということです。
お客様は相続対策を求めていない
『お客様の相続対策がしたい!』これは専門家が陥りやすい思考です。先に言いますと、お客様は相続対策なんか求めてはいません。しなくても良いのであればしないに越したことはありません。
例えばお客様から『子供たちには私が死んでも、ずっと仲良く暮らしてほしい』というお話を聞いたとき、「遺言書を書きましょう!」 「当社の◎◎の商品を使えば安心ですよ」など専門家はすぐに話をそっちにもっていきます。
極端なことを言うと、子供と話して『大丈夫だよ。心配しないでね』と言われれば解決します。
もし専門家が聞くとしたら、『ご相続を考えたとき、ご家族が仲良くするために〇〇様(親や子)がお考えになる、何かしておくべき必要なことはありますか?』くらいです。
その後に、子や孫が不安に思うことがあって、不安を取り除いて希望を叶えるためのステップが必要であれば、相続のプロとしてそれを伝えるのだと思います。
そして、このステップが対策(手段)になるわけですが、お客様も専門家もありたい姿(目的)を定めずに、まず対策を作りたがります。(たちが悪いのは、自社の利益やすぐお金になることだけを考え、必要もない対策をあたかも必要と謳うエセ専門家)
もう一度確認しますが、お客様は対策を求めているのでしょうか。
相続のプロとして取り組むべきこと
相続対策は一回きりで良いのでしょうか。相続対策が相続のときにお客様の希望を叶えるためのものであるとしたら、相続のその時まで必要なアドバイスや対策を講じつつ軌道修正しながらお客様に寄り添うことが、本来の相続対策ではないでしょうか。
スポットの相続対策をした後、しっかり対策したのだからもう大丈夫だろう。これ以上何かすることがあるのか?とお客様も専門家も思うかもしれません。
・資産状況は変わらないのか。(収入増、一時金負担増、建物経年劣化、権利関係など)
・希望や想いは変わらないのか。(残したい相手が変わる、相談する専門家が変わるなど)
上記は一例ですが、変わらないとは言えません。
配偶者(将来、親の介護をお願いするとか)が出来れば、そこに『生命保険や遺言などでの』手当てが必要かもしれません。建物だって毎年のように古くなり大規模修繕も必要でしょう。その時、本当に残すべきなのか、どのくらいの修繕をすべきなのかなどお客様は悩んでいます。
また、収入が増え現金が貯まっていることもあるでしょう。現金が増えて困る人はいないと思いますが、追加で何かしたいこと(孫への贈与や、資金援助、ボランティア寄付など)が出てくるかもしれません。お客様やそのお子さんが、気づいたら違う専門家に相談しているようになっているかもしれません。
専門家の皆様も、お客様の状況が相談時点とずっと同じであるとはお考えではないでしょうが、『何かあったらお客様から連絡が来るだろう』『信用されているからいざという時は連絡が来るだろう』と思っていませんか。
相続対策を行うときは積極的で、その対策後はお客様からの連絡待ち。これではお客様の叶えたいことをしたのではなく、専門家がしたいことしただけになるのではないかと思います。
当社は『日本一面倒なことをする遺産相続コンシェルジュ』という看板を掲げ、家族会議の開催、関係者の個別ヒアリングなどをしています。そして、相続対策をご依頼いただくお客様に対する心構えとして次のことを大切にしています。
・相続対策は、原則としてその家族皆と取り組むこと
・相続対策は、お客様の資産を守る(価値を向上する)こと
・相続対策は、お客様のご相続のその時まで寄り添うこと
・相続対策は、次世代へ紡ぐものとして取り組むこと
すべてが出来ているかというと、正直、十分にできていないこともあります。日々の業務をしながらの時間的制約、資産状況の更新作業、報酬など言い訳を挙げだしたらキリがありません。
しかし、お客様が『相続や資産のありたい姿を求める』以上、プロとしてしっかりと向き合い、提供していく必要があると思っており、それに向けて日々努力しています。
最後になりますが、冒頭で『相続対策後のサポートがない』ことについて触れました。私が考える相続の専門家が担うことは、『商品売り』ではなく、『一回きりの相続対策』でもなく、『お客様やその家族の希望を叶え、次世代に紡いでいくこと』だと思います。
そのためには、不動産や税金、法律のプロが常により良い解決方法はないかと研鑽し、その各専門分野のプロたちがチームで対応できるようにする必要があるでしょう。メルマガを読んで共感いただけるところがありましたら、一緒に取り組んでまいりましょう!
遺産相続コンシェルジュからのアドバイス
今回は、『相続対策』について触れました。どうしても私たちのような専門家はビジネスモデル等からスポットで考えてしまいがちですが、お客様からしたら『相続が起きるまで、そして起きた後のこと』すべて含めて考えるべきことです。
当社は『家族の物語をつむぐ』を事業理念に掲げています。不動産のことだけに限らず、お客様の資産や気持ちなどにも向き合い、今後も本メルマガでお伝えしたことを、お客様や専門家の皆様に提供してまいりたいと思います。(記:松尾企晴)