些細な行き違いが生む、感謝されない相続

Pocket



些細な行き違いが生む、感謝されない相続写真

 

今回の相談者は、税理士Nさんからの紹介でお会いした中野区在住の花子さん(78歳:仮名)。Nさんは花子さんから、「昨年、主人が他界してから、自宅や他2つの不動産の持ち方、自分の相続のときの子供たちへの財産の残し方など、今後どのようにしたら良いですか?」と相談を受け、不動産相続のことならと、当社を紹介してくれたようだ。

 

面談日をセッティングし、花子さんと長女さん、税理士Nさん同席のもとスタートした。花子さんはこのような場は初めてだったようで少し緊張した面持ちだったが、ゆっくりと家族背景や相談内容などを話してくれた。

20

 

〜花子さんの家族と状況〜

 

【家族背景】 

花子さん78歳   
長女52歳(既婚)…花子さん宅の近くに住んでいる 生活は特に困っていない
次女49歳(既婚)…遠方で普段あまり会わない 生活には困っていなさそう
長男44歳(独身)…同居中で、衣食住の面倒をみている(入院中)

 

【資産等の背景】
・自宅(大正築の平屋)・築30年古アパート・築13年貸戸建て・現金3,000万円
 ※不動産の相続税財産評価額は各3,000万円。借入無し。合計12,000万円
・一次相続では花子さんがすべて相続。相続税は配偶者控除を利用して課税なし。
・不動産はできるだけ残していきたい。自宅は長男宅として残すこと。
・姉妹弟は支え合ってこれからも仲良くしてほしい。 など

 

花子さんは、現状のことに続けてポツリと「主人との約束を果たしたいの」と、少し不安げな表情で話し始めた。どうやら、長男さんは現在無職で、精神的なことから今後も働けないようだ。そのため自分たちの死後も生活に困らないように、今のうちから対策を講じたい。これが花子さんのなによりも強い願いなのではないかと感じた。

 

しかし、このことで頼りにしていたご主人が亡くなり、自分では不動産や相続のことはさっぱり分からず、手付かずの状態のままになってしっていた。着手しようにも、何をすればいいのかと途方に暮れているとのことだった。

 

些細な行き違いが争族の火種になる

松尾「お話しいただいてありがとうございます。花子さんの希望は、長男さんの生活を守るために不動産活用などの対策を講じたい。その為には、お子さん間の遺産分割が平等にはならなくても仕方ないとお考えですか?」

 

花子さん「そう、松尾さんそうなの。まずは長男の生活を守り、長男に多く財産を残す結果になるけど、ちゃんと長女や次女にも財産を残すわ。平等ではないけど、弟想いの姉妹だし、これからも仲良くできると思うの。私の今の考えは自宅を賃貸併用住宅にして、長男の住まいの確保と生活費の捻出をしようと思うのよ、これ大丈夫?」

 

松尾「長男さんの生活が成り立つかどうかは、しっかり収支シミュレーションして確認しますが、長男さんのことや遺産分割について、お嬢さんとお話しされているのですか?」

 

花子さん「話したわ。長女には同意してもらっているわ。あと次女にも前に少し話したし、大丈夫よ」

 

長女「ちょっと待ってよ、お母さん!私は、お母さんの考えに賛成よ。ちゃんと私や妹のことも考えてくれているのは分かっているから。でも本当に妹にきちんと話したの?大丈夫なの?あの子、『お母さんとはもう話したくない』って言っていたわよ。ちゃんと伝わっていないんじゃない?」

 

N先生も花子さんから聞いていた話と違ったようで、それまで冷静に聞いていたが身を乗り出して耳を傾けている。

 

花子さん「え?だって以前話した時は何も言ってなかったわよ!今更そんな言われても困るわ…」

 

長女「ちゃんと話もしないで進めていいの?お母さんはそれでいいかもしれないけど、将来、財産のことで揉めるのは私たちなんだけど。それでいいの?」

 

松尾「花子さん、ちょっといいですか。今の話ですと正しく次女さんに伝わっていないと思います。ただ単に財産を残すのではなく、残す意味や理由も伝えて、特に今回は長男さんのことがあるのでしっかり納得してもらうことも大切ではないでしょうか。今のままですと長女さんが懸念しているとおり、争いの火種を後世に残し、最後、お子さん達に感謝されないかもしれません。これは本望ではないですよね?」

 

花子さん「子供たちが揉めるのは本望ではないわ。支え合ってほしいもの。もう一度ちゃんと話した方が良いかしら。でも、ちゃんと話せるか心配…」

 

と、どう話せば良いのか分からないと腕を組み考え込んでしまった。

松尾から花子さんへ、①現在の状況ままで二次相続が起きた時の相続税概算算出②今日お話しいただいた希望や想いを整理すること③長男さんの生活を維持する場合、何ができるのか。そしてその際にはどの程度長女さん・次女さんに財産を残すことができるのか。などをある程度把握して、みんなで話せる土台を作りましょう。とご提案し、進めることになった。

『相手に、正しく伝える』ことが争族を未然に防ぐ。 

1週間後、前回の皆さんに集まってもらい検証の報告会を開いた。花子さん達は、どのような結果が出たのかとワクワク半分、不安半分だと言いながら食い入るように資料に目を落とした。

検証に際しての前提条件や各パターン(7パターン)のメリット・留意点を説明した。今後、長男さんの生活を成り立たせること、他の姉妹に少しでも多く財産を残すこと、お母さんの今後の生活を維持することができる不動産活用は、【貸戸建を売却し、その売却代金を使い自宅を賃貸併用住宅に建替えるプラン】がベストではないか、と提案した。 

 

花子さん「松尾さん、色々と検証してくれてありがとう。はじめは、不動産は出来るだけ残したいと思っていたから、借入金をして建築することしか考えてなかったけど、色々な考え方や活用の方法があることがわかったわ。このプランを基に次女にも意見を聞いてみる」

 

 長女「私もこのプランがいいかな。少しは財産をもらえるし、お母さんや弟の生活も安心できるし。お母さんの前で言い難いけど、他のプランだと私や妹には殆ど財産残らないしね」

 

花子さんは、希望や想いの整理ができ、そして皆で話せる土台ができたと喜んでいた。
そして、いざ次女さんへ話に行くことになったが、不動産プランのことは松尾さんから説明してほしいと依頼があり、同行することになった。

自宅に家族全員が集った。物静かな雰囲気で話が進む中、途中で次女さんが自分の想いを話し始めた。

 

次女「電話で今日の話し合いの主旨は聞いたけど、お父さんが亡くなった直後、突然お母さんから『長男の生活を守りたいから。お姉ちゃんやあなたにも渡せないの。分かってね』って言ったの。私だって弟はかわいいし守りたい。でもなんとなく納得できなくて!」

 

長女「お母さん、ほらいったじゃない…」

 

花子さん「ごめんね。ちゃんと伝えられていなかったわ…」

 

花子さんは、初面談時に話していたご主人との約束を果たしたい、長男の生活を守りながらも二人の娘にも財産を残したい。財産は平等ではないけど、想いはどの子もかわいい、できればこれからも仲良くして欲しい。と涙ぐみながら気持ちをすべて話した。

 

次女「私が聞いたことと全く違うじゃない。あんなことを言われてから、私お母さんのことなんとなく避けていたのよ。」と言い、一つ息を吐いて「でもね、お母さんの本心を、お母さんが元気なうちに聞けて良かったわ。二度と私から話さないって思っていたから。今日この場が無かったら、行き違いのままだった」

 

花子さんは最初から最後まで泣いたままだったが、とにかく二人の食い違いは解消された。次に、松尾から対策プランのことをご説明し、次女さんも「借入金の返済もないし、弟の生活も確保でき、私たちも親から財産少しでも引き継げるから」と、納得されたようだ。

 

誤解もなくなって、それからの花子さんは面談時点とは別人かのような柔らかい表情でにこやかだった。そして話も終わりかけた時、花子さんから「相続について、ただ財産を残せば良いと思ってしまっていました。でも、松尾さんに「皆に感謝されないかも」と言われたときに、それだけは絶対に嫌だって思い、居ても立っても居られなくなったわ。大切なことに気付きました」と、嬉しい言葉を頂いた。

 

そして現在、花子さん一家とプラン実行のため、月に1度家族会議を開きながら、自宅建替えの建築コンペや売却活動、残り一つの不動産の活用検討など、次女さんも交えて笑顔で取り組んでいる。

遺産相続コンシェルジュからのアドバイス

今回のケース、人によっては些細な行き違いじゃないか!たいした問題にならないだろう!と言われてしまうかもしれません。しかし、果たしてそうでしょうか。もしも、その些細な行き違いを解決しないまま亡くなったら?子を想って対策をしたのに、子は感謝もしない。でもその子が、いつしか親の本心を知ったときに、とてつもない後悔が残ってしまうのではないでしょうか。今回の事例のような事態は、誰でも起こり得ることだと思います。当社では、節税などのテクニカルなことよりも(大切ですが!)個別相談のときや、相続対策を進めているとき、お客様が考えている『本当の相続の目的/ありたい相続の形』を確認の意味を込めて聞くようにしています。それがきっと家族円満なまま笑顔で相続を迎えられる大切な要素だと考えているからです。皆様も改めて考えてみてはいかがでしょうか。(記:松尾企晴)

Pocket

無料冊子ダウンロード
無料冊子ダウンロード