家族だけで相続対策に取り組むことの難しさ
弊社のセミナーでは相続対策を「家族」で取り組むことが、相続成功の一つの要因であるということをよく話している。
最初はセミナーにお一人で参加されるケースが多いのだが、最近はセミナーで聞いた話を配偶者や親または子供に聞かせたいと、一度弊社のセミナーを聞いたお客様が、ご家族を連れて再びセミナーにご参加して下さるケースも増えてきた。私たちがセミナーでいつもキーワードとしている「家族で相続を考える」ということが皆様に少しずつ浸透してきたようだ。嬉しいかぎりである。
今回登場するAさんも、最初は弊社のセミナーにお一人で参加された。Aさんが自分一人で考えた将来の相続に対する考えを既に持っていたようだが、セミナーを聞いて、家族とも考えを共有した方がいいと思ってくれたとのこと。後日、奥様と長女を連れて再び弊社のセミナーに参加された。そしてその後の個別相談も奥様と長女との3人で申し込んで下さった。
Aさんの家族と財産状況
- 家族構成はAさん(70)、奥様(68)、長男(45)、長女(43)、次女(40)
- 所有している不動産は自宅と古アパートと駐車場
- 長男は離婚後、外国籍の女性と再婚をし、子供はいない。大阪に持ち家がある。
- 長女は結婚して都心にマンションを購入。中学生の長男が1人いる。
- 次女は独身で沖縄に居住中
- Aさんの考えは、将来、自宅を血の繋がった孫(長女の子供)に引き継がせたい。
- 子供たちとは今まで一度も相続の話をしたことがない
話がまとまらない…家族間の会話
そして個別相談の場ではこのような会話が繰り広げられた。
Aさん「あともう何年かしたら、お前(長女)がマンションを売って、実家に同居してくれれば、小規模宅地の特例で相続税が大幅に減ると思うし、将来は孫にも家を引き継いでもらうことができるんだよ。それが一番いいですよね、高橋さん。」
長女「え、ちょっと待ってよ、お父さん!そんな話はいま初めて聞いたわ。そもそも実家は駅からも遠くてものすごく不便だし、庭が広すぎて管理も大変だし、建物も古いし、私は実家になんて住みたくないわ。うちの旦那も一緒に住むのは嫌がると思うし絶対無理よ!勝手に決めないでくれる?」
奥さん「まったく、うちのお父さんはいつもこうなんですよ。何でも自分勝手に思ったことを押し付けるから。昔から悪い癖なんですよ。」
Aさん「うるさい。お前は相続税のことなんて何もわからないんだから、意見しなくていいんだ。黙ってろ。」
奥さん「何よ、お父さんこそちょっと黙ってよ。せっかくの機会だから高橋さん、私の話も聞いてもらえます?私が心配しているのは、むしろ長男と次女のことですよ。この子(長女)はしっかりしているし、心配はないのだけれども、長男と次女は、世渡りは上手じゃないし、次女についてはこの先もずっと一人だろうし。自宅のことだけじゃなくて、他の子たちのこともお父さんにはちゃんと考えてほしいのに、私が話をするといつも遮られて終わっちゃうのよ」
Aさん「お前の言ってることもわかるけど、俺はこの自宅を何としても孫に残してやりたいんだよ。全く家の方に顔も出さない長男の嫁には絶対に自宅を渡したくないしな。だからお前(長女)が今の家を売って、同居をして、自宅を相続するのが一番いいんじゃないのか!高橋さん、何かいいアドバイスをお願いできますか?」
高橋「そうですね、今日はこうしてお互いの本音をぶつけ合うことができたことがまずは大きな第1歩じゃないでしょうか?ただ奥様や長女様も色々とお考えがありますでしょうし、自宅以外にも不動産があるようなので、まずは実際、相続税がどの程度かかるのかも含めて現状を把握することが大事だと思います。」
Aさん「そうですか。ちなみにそこからお手伝いしてもらうことはできるんですか?」
高橋「もちろんですよ。まずは現状の財産状況を把握してもらうために現状把握レポートを作成します。その上で皆様の考えをもう一度ちゃんとお聞きして、皆様の状況に合った財産の分割方法や、相続税の節税方法、今後の不動産の運用方法など総合的に判断して 提案していくことをいつもやっています。」
長女「セミナーも聞いて、ここにも連れてきてもらって、相続のことを一緒に考えなきゃいけないことはなんとなくわかったけど今の状態じゃ、お父さんが勝手な思い込みだけで話をしているだけだし、私も不動産のことはよくわからないから、何をどう考えていいのかもわからないのが正直なところです。」
高橋「そうですよね。家族で話をするにしても、現状だと、たぶん何から話をしていいのかわからないと思います。私たちは家族で話をするための土台となるレポートを作成したり、レポートの説明を家族全員の前でさせて頂くこともしています。もちろん提案して終わりではなく、その後の不動産実務などのお手伝いもしています。今回せっかく家族で相続を考える機会をお父様が作って下さったのですから、さらに次のもう一歩に踏み込んでみてはいかがでしょう?」
Aさん「そうだなぁ。私たちだけじゃ話をするにしても限界があるし、家族だけで話すとご覧のとおり、私が一方的に話すもんだからいつも喧嘩になってしまうんですよ。これだといつまでたっても結局話が進まないんです。ちょっとお願いしてみるかな。」
高橋「そうですね。ある程度、奥様と長女様と一緒に考えをまとめた上で、最終的には 長男さんと次女さんも一緒に話し合いをすることがいいと思います。必要であれば話し合いの席に同席もさせて頂きます。」
相続問題解決にはプロの存在が必要なことも!
こうしてAさん一家の相続対策は具体的に動き出すことになったのである。
まずは現状の財産をある程度正確に把握してもらうために現状把握レポートを作成した。
その結果、誰が自宅を相続しても、相続税の支払いについてはそれほど大きな問題にはならなそうだということがわかった。
Aさんもその報告を受けて、まずは少し安心したようだ。
そして今後は3人の子供たちの意見を聞きながら不動産をどう分割していくべきなのかをまずは家族で話合おうという方針が固まった。私の方では引き続き、不動産の分割案をいくつか提案させていただきながら、家族の話合いの場に同席していくことになった。
このように相続問題解決のためには、家族間の架け橋となれる専門家の存在が必要な場面が出てくる。
プロサーチでは、なるべく家族の近くに寄り添って、必要な時にはいつでも力になれる不動産・相続の専門家を目指している。
遺産相続コンシェルジュからのアドバイス
弊社のセミナーを聞いていただき、相続対策を家族で取り組もうという意識を持っていただけることはとても嬉しいことです。一般的にはセミナーに来られる方は親世代が多いのが実情です。子世代は、仕事が忙しく時間に余裕がなかったり、相続のことは気になっていながらも、親の財産のことなので自分からは積極的に踏み込むことができなかったりするなど、相続の問題を自分事として考えられていないことが多いです。でも、実際相続が発生したときに、誰の問題となるのか?相続税を払うのは誰なのか?分割協議をするのは誰なのか?そう最終的には相続は相続人である子供の問題となるのです。親と子がそのことを理解できていないと、相続対策への考え方や意識に温度差が出てきてしまいます。そうなると親子で一緒に相続対策を取り組むスタートラインに立つことすらできません。また家族だけで全ての問題が解決できればいいのですが、家族同士だからこそ話にくいことがあったり、具体的に考えるためには不動産や相続の専門的な知識も必要になるため、時には不動産・相続のプロの介在が必要なことがあります。私たちプロサーチは、家族だけでは解決しきれない不動産・相続問題解決のパートナーとして今後も皆様の力になっていきます。(髙橋大樹)