お客様に満足してもらえる個別相談とは何か
弊社には日々、様々な相続の悩みを抱えたお客様が個別相談に訪れる。
「子供達が揉めないように分けるには?」「相続対策を考えたいけど、そもそも何をしたらいいかわからない」など、お客様によって相談の内容は様々だ。
こうした全てのお客様の悩みや不安を解決し、満足して頂けるためには、どのように対応したらよいか、社内で毎日のように議論しているがまだ最善の結論には至っていない。
・個別相談で本当にお客様が望んでいることは何か。
・お客様から聞かれたことを専門的な知識でただ答えるだけになっていないか。
・相談時間の中でお客様の本当の問題点を見つけることはできているか。
どのようにしたらお客様にとって心から満足した個別相談になるのかを試行錯誤している。
個別相談におけるゴールは何か?
そんな中、弊社が講師を務めた相続対策セミナーに参加して頂いた杉並区在住のAさん(85歳 女性)。ご自身の相続対策について相談したいことがあると、弊社の個別相談に申し込まれた。
弊社では個別相談を行う前に必ず「ご相談シート」の提出をお願いしている。事前に家族背景や資産の概要、ご相談内容を知ることで、お互いに限られた時間を有効に使うことが出来るからだ。
お客様に書いて頂いた内容をまとめると、
◆お客様の状況
・ご主人が4年前に亡くなっている
・現在は敷地200坪の戸建に一人暮らし
・子供は娘三人(長女64歳、次女59歳、三女56歳)
・子供たちはそれぞれ家族を持ち別々の暮らしをしているが、三女だけはAさんの自宅の敷地に家を建てて暮らしている。
・資産は自宅(土地・建物)と現預金1,000万円。
◆相談したい内容
・子供が揉めないように遺産分割するにはどうしたいいか
・納税資金に困らないようにするにはどうしたらいいか
印象的だったのは、シートと一緒に何枚にもわたる直筆の手紙が添えられていたことだ。そこにはAさんと子供の思いが綴られていた。今まで何度も家族で話をしたようだが、結局話がまとまらず、どうしたらよいのかわからないという思いがひしひしと伝わってきた。
私はこの手紙を読んで「1時間半という限られた時間でAさんの為に何が出来るだろうか」と真剣に悩んだ。今回の個別相談の時間の中だけで、Aさんの悩みのすべてを解決することは難しいだろう。そこで私は今回の個別相談のゴールを「お客様の思いを聞き、現状の思いを整理することで、具体的に何が問題なのかをまずは気が付いてもらう」ことにした。問題点が明確になれば、やるべきことが明確になり、不安が取り除かれるのでは?と思ったからだ。
個別相談におけるゴールは何か?
相談の当日、Aさんは娘(三女)と一緒に来られた。
私は相談を受ける前に、当社の個別相談の趣旨、そして私たちの考える今日の面談ゴール『本当の問題に気づいてもらうこと』についてお伝えしてからヒアリングを開始した。
早速Aさんは「お伝えした通り、子供たちが揉めないで分割できるようにしたいし、相続税納税にも困らないようにしたいのです。でも資産は大きな自宅と現金が少ししかないので子供たち3人でどう分けるべき・・?税金もどうすれば・・?何かいい方法はありますか?」と困り切った表情で話を始めた。
「お悩みはわかりました。では唐突ですが一つ質問します。もしも明日、相続が起きたとしたら、具体的に誰がどんなことで困ることになると思いますか?」と尋ねてみた。「そうね。自宅に対する子供たち思いがそれぞれ違うから、きっと自宅をどうする?と揉めてしまうと思うわ。現在、住んでいる子供もいるし、売ってお金で欲しいという子供もいるし、税金が払えないという子もいる。単純には分けられないし、子供たちは本当に困ると思う。」と、ため息をつきながらつぶやいていた。
さらに「けど、私は出来ればこの土地を残してほしいし、死ぬまでこの家に住み続けたい想いが強くあるの。でも子供たちが望むなら、自宅を手離す覚悟だってあるの。子供たちが仲良くいるのであれば、その方法を真剣に検討したいと思う。」
すると隣にいた三女が口を開き「お母さんがそんなこと考えていたなんて知らなかったわ。私たちは何よりもお母さんの生活が一番大切よ。だから出来るだけお母さんの思うようにしてほしいと思っているわ。確かに相続税の不安はあるけどお母さんの気持ちが一番。」
母を思いやる子供の気持ちを聞いたAさんは、心なしか少し嬉しそうだった。
お客様のゴールと我々のゴールの違い
「では、お母さんの現状の生活を変えず、将来子供たちが納税に困らないように相続税対策をしていくとこが今後の目標になりそうですね。もしもそれが実現できる対策案があったらどう思いますか?」と尋ねると、「それがあったらぜひ実行してみたいわ!」とAさんは身を乗り出して答えた。
私は頂いた自宅の資料を見ながら、その場でいくつか解決案が浮かんでいたが、あえて具体的な対策案を提示しなかった。なぜかというと実際に現地(不動産)を見ていないので確証がなかったから、中途半端な期待を持たせない方がいいと判断したからだ。
そして『気づきや問題はいかがでしたか』の質問にお母さんは「話しているうちに自分の気持ちがまとまった」娘さんは「母の本当の気持ちが分かった」といい「問題は家族で話ができていないことと、誰に相談するのが良いかよくわかりました。」とのことだった。
帰り際に「満足度アンケート」を記入してもらったら「やや満足」だった。なぜかと聞くと「具体的解決策を聞けなかった」と言ったAさんは少し物足りなそうな表情を浮かべていた。私は次回お会いする時まで具体的な提案ができるであろうことをお伝えし次回のアポイントをいただくことができた。
お客様が満足される個別相談に必要なこと
こうして全体的には満足してもらった個別相談だったと思うが、最後のお客様の表情に、今回の私の個別相談の対応について一つの課題があると感じた。
大切な家族の思いに触れ、問題点には気が付いてもらうことができたが、お客様はその場で解決策が提示されるところまでを期待していた。その結果、この日の個別相談だけでは100%お客様に満足をしてもらえなかったように私は感じたのだ。
それは、その日の個別相談のゴールを、相談前にしっかりとお客様に伝えきれていなかったことに原因があると思う。個別相談では、最初にその日のゴールについての認識が共有できないと、お客様の本当の満足に結びつかないことに気が付いたのだ。今回の反省を生かして、次回の個別相談ではその日の相談のゴールを明確に伝えることをしていきたいと思う。
遺産相続コンシェルジュからのアドバイス
弊社の個別相談では、お客様にいかにご満足いただけるかどうかを大切にしています。知識による解決策のご提案も大切ですが、きちんとお客様の「思い」を聞き、何が問題なのかを認識する必要があります。今回の事例の中で、まずお客様の思いを聞き、ゴールをお客様の目線で設定しイメージして頂くことが重要で、私たちはそのゴールに導いていくことが仕事であると気付きました。こうした一つ一つの気付きから、プロサーチにしかできない個別相談を作っていき、お客様のご満足や信頼に繋げていきます。
(記:友重孝一朗)