「実家の片づけ」が不動産・相続対策のきっかけに
相続税対策のために二世帯住宅への建替えを検討
最近、ハウスメーカーからのお客様紹介が増えてきた。来年、相続税増税を迎えるにあたってハウスメーカーでも相続対策のための建築提案をする機会が増えてきているようだ。ハウスメーカーに来るお客様は「自宅の建替え」を検討している方が多い。そして最近は「実家」の建替えで、子供世代の方が相談に来るケースも増えている。「親のこれからの生活や相続税対策も踏まえて、実家を二世帯住宅へ建替えて一緒に住みたい」「二世帯住宅だと相続税が減らせると聞いたので、どの程度の効果があるのかを知りたい」など相談の内容は様々だ。
そこでハウスメーカーは子供世代の相談を受けて、まずは親の実家を二世帯住宅に建替えた場合のプランを計画して提案をするが、単純にプランを入れて提案しただけでは、話が前に進まないケースが多い。いったいなぜなのか?
両親の重い腰がなかなか上がらない…二世帯住宅への建替えプラン
今回、ハウスメーカーにご相談に来られたのは30代後半のBさん家族。Bさんは現在、奥様と幼稚園児の子供1人と3人で賃貸住宅に住んでいる。来年、2人目の子供の出産予定があるので、2人目が産まれるまでに、Bさんの実家を二世帯住宅に建替えて、親と一緒に住もうと考えていた。
そこでハウスメーカーの営業のSさんは、二世帯住宅建替えプランを作成しBさんに何度か提案をした。しかし、肝心のBさんのご両親が展示場に足を運ぶことはなく、話がなかなか進まない。Bさんに話を聞くと、両親は建替えの話は聞いてくれるが、一緒に展示場へ行こうと誘ってもなかなか重い腰を上げてくれない。またハウスメーカーの人を家に連れてくることにも難色を示していた。営業のSさんもBさん自身もどうやって両親を説得すべきかよくわからずに悩んでいた。そこで、Sさんからご紹介を頂き、私たちが相談を受けることになったのである。
まずはBさんと会って詳しく話を聞いた。そして、一度ご両親に私が会って本心を聴くのはどうかと提案した。Bさんもぜひともお願いをしたいとのことで、早速ご両親との面談の機会を作ってくれた。『不動産と相続の専門家』ということで私は、特に警戒されることはなかったようだ。まずは私だけで実家へ話を聞きにいくことにした。
一緒に新しい家に住みたいが、その前の片づけができるかどうか・・・
実家に伺ったときにまず驚いたのは、あまりにも家の中が散らかっていることだった。玄関を上がって廊下や階段には、とにかくたくさんの物が溢れている。足の踏み場が見当たらないぐらいだ。
もしも本当に家を建替えるとしたら、これを全て片付けるのは大変だなぁと思いながら、ご両親に話を聞いたら、やはりそのことも話に出てきた。
お父さん「これからの生活や将来の相続を考えたときに、どのぐらいのお金をかけて建替えるのが良いのかがよくわからない。今のままでも十分住めるし、建替える必要性はあるのだろうか。将来、この家を引き継ぐのは息子家族だし、基本は息子の判断に任せたいが、お金は私が出すので、どの程度の予算で検討すべきかをしっかり把握してから考えたい。」
お母さん「本当は新しくて住みやすい家に建替えをしたい気持ちはあるけど…。提案してもらっている建替えプランは素敵だし、孫とも一緒に住みたいけど、その前に家の片付けができるかどうか…。お父さんも持病の腰痛が最近ひどくなってきたし、私も体力に自信がなくなってきたので、今の家を自分たちの力だけで整理する自信がないわ。」
二人とも決して二世帯住宅への建替えを反対しているわけではない。建替えが進まない原因はこうした両親の不安や想いを誰に相談すべきなのかがわからなかったようだ。
まずはお父さんの気にしている点について、簡単なレポートを作成し両親とBさんに説明することにした。
実家の土地で小規模宅地の特例が適用できれば、相続税の軽減が大きく見込め、さらに今ある現金の一部を使って建物を建てると相続税評価額の圧縮効果もあることを提携税理士から説明してもらった。相続などの基礎的知識が全くなかった二人は、私たちの説明を聞いて、安心した様子だった。さらに事前にお父さんの自宅以外の全体的な資産内容や自宅以外に所有している不動産からの収入、日常的にかかっている生活費などを聞きいていたので、今後の生活においても無理がなく、将来の相続税納税にも問題のない建替えの予算額をお伝えした。息子さんにも一部建築費の負担をしてもらうことで息子さんも住宅ローン減税などのメリットがあることなども付け加えて説明した。
結果、経済的な部分は納得して頂き、少し前向きな気持ちになったように感じたが、それよりも不安が大きかったのは、「自宅の片付け」だった。二世帯住宅へ建替えとなると、当然今あるものを全て残しておくことはできない。
お母さんが「今の状態だと、やっぱり建替えは難しいわね。まずは少しずつでも家の中の片付けを始めることからやっていきます。」とつぶやいた。しかし、このままでは結局、建替えの話が前に進まないような気がした。
後日、私はBさんにこのような提案をした。「今回、建替えの話が前に進まないのは、ご両親にとって自宅の片付けが難しいと思っていることが一番問題になっているようです。できれば毎週土日のどちらかで実家の片付けを手伝うところから始めてみてはいかがでしょう。」
片づけから生まれる家族間のコミュニケーション
それから毎週末、Bさんは実家の片付けを手伝いにいくことにした。
しかし実家の片付けはそんなに簡単なものではなかった。Bさんは親が必要としているものが何かよくわからない。普段使っていない必要がなさそうなものをBさんが捨てようとすると「もったいない」「まだ使うかもしれない」と喧嘩になることもしばしばあったそうだ。最初はとても苦労したとのことだった。
ところが一緒に片付けを始めて3回目ぐらいになってくると、だんだんと親の価値観や気持ちがわかってきたとのことだった。親の大切にしているモノや思い出の品が出てくることもあり、そのたびに今まで聞いたこともなかった親の話を聞くこともあったそうだ。当初はBさんだけで手伝っていた実家の片付けも、途中からはBさんの奥様やお子様も加わって一緒に片付けをすることになった。いつの間にかご両親も毎週末、Bさん一家が家族で片付けを手伝いに来てくれることが楽しみに変わったそうだ。約3ヶ月間かけて、いるモノといらないモノ、決められないモノの整理ができ、家の中もだいぶスッキリと片付いた。
一緒に片付けを始めたからこそ両親も建替えの決断がついた。その後は、毎週家族全員でハウスメーカーのSさんを中心に二世帯住宅の建替えプランをみんなで楽しく検討している。
ちなみに後日、お母さんから話を聞くと、私と最初に会った時に話さなかったが、本当はBさんの奥様との同居が大丈夫かどうかとても不安だったとのこと。
毎週、家に片付けを手伝いに来てくれたことで、息子であるBさんやBさんの奥様とも今まで以上にコミュニケーションが取れて信頼感が生まれたとのことだった。こうしてBさん家族と安心して同居できるという決意が固まったことも、話が前に進んだ大きな要素となったようだ。
遺産相続コンシェルジュからのアドバイス
Bさん一家の不動産・相続対策は一緒に実家の片付けをしたことがきっかけで話が前に進んでいきました。実家の片付けを一緒にすることによって、家族間・親子間での会話やコミュニケーションが生まれ、お互いにとってより信頼関係を築き上げる結果となったのです。実は相続の問題解決のポイントは、こういうところにあるのかもしれませんね。年末年始にかけて、これから大掃除をする時期にもなってきます。機会があれば、ぜひ実家の片付けを手伝ってみてはいかがでしょうか。(記:髙橋大樹)