長年揉めていた兄弟間のトラブルの解決!
亡くなったお父さん名義のままの土地
今回は身近でよくありがちな兄弟間の相続問題のお話。もう何年も前に両親が亡くなっているのに、実家の土地の名義が亡くなったお父さんやお母さん名義のまま。この土地はいったい誰が相続するべきなのか?法律的にいえば、例えば兄弟が3人いた場合、それぞれが相続する分は法定相続分で3等分ずつになるのだが、実はそこには様々な問題があって、(そこに誰が住んでいるのか、親の面倒を誰が見たのか、どうやって分けるのか・・・)簡単に3等分できるかといえば、そうではないのも事実。ここで紹介するのは、まさにその実例。
今回は上記の関係図でいう次男(弟)Aさんから、亡くなったお父さん名義のままの土地を売ってしまって、そのお金を兄弟で平等に分けたいという相談内容だった。
長男であるお兄さんは今は長野に移住しているので、長女(この先は「お姉さん」と書きます)と相談をして、まずはこの土地がいくらで売れるかどうかの活動を行い、売れる金額がわかった時点で、長野のお兄さんに話をしようという流れでスタートした。
土地は、駅に近い土地で一戸建て分譲をするのには ぴったりの土地だったので、いざ売却活動をしてみるとすぐに不動産会社の買手が見つかり、価格も思っていたよりも高い価格がついた。2人の間では、もうこれを機会に売ってしまおうという気持ちになったのだが、当然最後はお兄さんの承諾を得る必要がある。ところがお姉さんからお兄さんに連絡してもらったところ「土地を売るなんて話は一切聞いていない。お前らが勝手に動いてやったことに俺は同意できない。だから土地を売る事は承諾しない」と一蹴・・・
実は以前から土地を売ってお金で分けるといった話はあったものの、分割する配分のことで話がまとまらず 現在に至っている経緯もあった。
これ以上兄弟間だけで話をしていても、結局また同じ結果になってしまうと思ったので、今回、私が長野のお兄さんのところへ事の経緯や今この問題を解決しておくことの重要性・それをすることによるメリットなどを直接伝えにいくことにした。
こうして私が長野に旅立ったその日から、この壮絶な(言い過ぎ?)相続物語が幕を開けた。
長野・松本にお兄さんを説得する旅へ
いよいよ長野県松本市のお兄さんのところへ行く事になった。私の家は関越道の「東松山インター」近くなので、家から直接車で松本へ行く事に。片道3時間の旅だが、もともとお兄さん自体も土地を売る活動をしていたことがあるという話もあったので、ちょっと話をすればわかってもらえるだろうと思い、帰りに温泉でもよってゆっくり帰ろう程度の気持ちで、朝6時に家を出て9時ぐらいに到着。アポイントは10時だったのでちょっと早く着きすぎたと、近くのスタバで一休み。そこで今日話すポイントを再度整理して、いざ出陣!
お兄さんは現在、奥さんとの2人住まい。インターホンを押すと2人とも快く玄関を通してくれ、まずははるばる埼玉から来た私の話を真剣に聞いてくれた。
土地を売る事に関しては、異議はなく、むしろ今回売れる金額にとても満足の様子だった。
話はスムーズに進んでいたが、今回の核心部分である、売ったお金を兄弟でどう分けるかという話になると空気は一変。
今までの兄弟と揉めていた経緯や、かつて遺産分割協議で不愉快な思いをしたこと、妹に弁護士までたてられたこと・・・今まで溜まりに溜まっていた色々な思いがせきをきったようにあびせかけられた。
最終的には
・売った金額を3等分することは納得できない。分け方について再度提案がないかぎり、今回、土地を売る事には同意しない。
・俺たちはずっと親の面倒をみていた。それなのにその分は遺産分割に一切考慮されていない。しかも出て行かされたのだから(本人達は長野に追いやられたという意識がある)、その分の引越し費用 含め、多くもらう権利がある。
という主張。
このままでは全く埒が明かないので、とりあえずお兄さんの主張は一旦受け入れて退散することに。
「うーーん、どうしよう。」
せっかく長野まで来たのに、これでは話がまとまらない。でもこのまま帰るわけにもいかないので、とりあえずお兄さん宅から車で5分のところにある松本城へ。
松本城公園を歩きながら作戦を考える。これを一旦持ち帰って、みんなに報告してからまたここに来るというのもなんとも効率が悪い。とりあえず、まずはお姉さん、弟さんに電話で状況を報告することに。当然それぞれの言い分があって二人ともお兄さんの主張を受け入れる様子は無い。ここで私の決心もついた。
もう一度3分割案でお兄さんを説得しにいこう!
とりあえず腹が減っては戦もできぬということで、松本名産の信州そばを食べて心を落ち着かせる。こんなときに食べる蕎麦は身にしみる。
お腹が満たされたところで、再度お兄さんのところへ訪問。このままそれぞれが主張をし続けても、誰も得をしないし、これで土地を売らないことになったら、結果的に問題の先送りになるだけで、次の子供の代にも迷惑がかかる。もちろんその理屈は理解してもらっている。あとは奥さん含め気持ちの整理がつかないだけ。
お兄さん夫婦だけでなく、兄弟全員にとっても、今、この問題を解決しておくことが一番幸せな結果になるということに確信を持っていたので、誠意で粘る事2時間。
最後はお兄さんも「あなたがそこまで言うなら俺も腹を決めるよ」と一言。こうして売ったお金を3等分することを承諾してもらい、土地を売ることを承諾してもらった。
お姉さんの住替え先を探す!
土地を売ると決まったら今度はお姉さんの住替え先を探す必要がある。土地の買主である不動産会社と交渉して、決済後も2週間は建物を解体せずに引越し準備期間として待ってくれることの約束を取り付けたので、急いでお姉さんの住替え先のマンションを探す。
早速、お姉さんを案内していたら、初日にすごくいい物件と巡り合った!ただ、まだ探し始めたばかりだったので、「ちょっとだけ考えたい」とお姉さん。その回答を待ってたら、その物件はやはりいい物件だったのか、あっという間に他から申込が入ってしまい結局その物件は買えずじまい・・・。
不動産は本当に縁とタイミングだ・・・。
そして買えないと余計にその物件が恋しくなる。その後他の物件をいくつ見ても比較するのはいつも最初の物件。「あの物件のほうがよかったな・・・」となかなか決められないまま日々が過ぎて行く。
でも引越しの期限は待ってくれないので、気を取り直してもう少しエリアを広げて再度一緒にマンションを探す。そしてついに巡り会えたのが駅近で、お姉さんの最も希望していた「和室」があって、さらに新耐震基準というぴったりなマンション。もちろんばっちり予算内!もうこれしかないということで今回はその場ですぐに申込。
本当に見つかってよかった。その日の夜は打ち上げということで、お姉さんと焼肉屋でビールで乾杯!
心から喜んでもらえたようですごく嬉しかった。
やっぱりやめる!?
その後、無事土地の売買契約も終わり、お姉さんの住替え先も決まったところで決済まではひと段落。
そして、いよいよ決済まであと1週間となったところで、決済のご案内をしなきゃと思い、長野のお兄さんに1ヶ月ぶりに連絡。ところが・・・
お兄さん「やっぱり3等分っていうのは納得いかないから、今回の取引やめようと思う」と電話越しで一言。
「えっ!」一瞬頭が真っ白になる私。
でも現実的に考えると、もう売ったお金を3等分するという遺産分割協議書にも署名押印をしてもらってるし、ここで土地の売買契約を破棄にしたら違約金も発生するし、もし本当にここで取引をやめたら、お兄さんだけでなく全員が確実に不幸な結果になる。もう一度長野に説得をしにいく覚悟も持って、再度電話をかける。するとお兄さんが不在で奥さんが電話に出る。奥さんの話を聞くと、やっぱり親の面倒をずっと見てきた自分達が最後何も考慮してもらえないということに納得がいかない様子。どうやらこの1ヶ月の間に、それで本当にいいのかとまわりの人たちからいろんな助言があったようだ。奥さんの話は奥さんの話でちゃんと受け止めて、その後お兄さんが帰ってきたら、再度連絡をもらうことにした。
その後のお兄さんとの電話では、気持ちはよくわかるけれども、またそれを主張し始めてしまったら、せっかくここまで解決に近付いてきたことがまた振り出しに戻ってしまうことを再度説明。当然、理屈はわかってもらえるし、私自身もお兄さんたちの気持ちの整理がつかなくてこういう話が出てきているということを理解しているから、お兄さんの主張を聞き入れながらも、ただただ一生懸命に説得。電話越しの話だったが、「自分たちと同じ思いを子供たちにさせても良いのか」という私の言葉がお兄さんの心に突き刺さり、結果的にお兄さんに納得してもらうことができた。
最後の最後にもう一言だけ言っておきたかっただけなのだと思う。長年の気持ちの整理をつけるのはすごく難しい事なのだ。
やっぱりやめる!?その2
やっとお兄さんにも納得してもらって、ほっと一安心したもの束の間、その後お姉さんにも決済についての連絡。契約後からのこの1ヶ月間、お姉さんは引越しのための片付けをしていたはず。ちょうど私も夏休み期間だったので、夏休み前に一度連絡はしていたけれども、1週間ぐらいお姉さんへの連絡の期間が空いていた。
私「もしもし、お姉さん。決済の日が決まりましたのでご連絡しました!」
お姉さん「そんなことより私もう引越しやめることにしたの!あなたには悪いけどもう今回の件はなかったことにして!」
私「えっ??なぜ??」
この連絡していなかった間に、何が起きたのだか全く理解できない。
ちょっと冷静になったところでお姉さんの話を聞くと、この夏の暑い中(お姉さんの家の2階はクーラーがない)一人で家の中を整理していたようで、とてもじゃないけど片付けきれないとのこと。しかも兄や弟からの心配の連絡も一度もこないし、今回自分だけが結果的に引越すことになって、大変な思いをしてやっているのにそれを兄からも弟からも何の感謝の気持ちも感じられないし、もう嫌気がさしたとのこと。
電話ではお姉さんの気持ちを聞くことで精一杯だったので、翌日プリンを持ってお姉さんの家を訪問。
プリンを食べながら話をすること3時間。
まずはお姉さんの話を聞いて、最後はやっぱり今回の件は予定通りに行った方がいいということを理解してもらえた。どうやらお姉さんもこの1ヶ月の間にいろんな人から助言を受けて、本当にこの結末がいいのかどうか迷っていたようだ。時間が空いてしまうと人はどうしても不安になるものなのだ。
ここをきちんとフォローをすることが足りなかったと深く反省。
決済でもひと波乱!
そしていよいよ迎えた決済当日。
兄弟3人が顔を合わせるのは何年ぶりということらしい。これは何か起こるかもしれないと感じていたので、買主の不動産会社と今回登記を担当する司法書士にはあらかじめ「何が起きても私がその場でまとめますから、平然と手続きを進めてください」と話をしておいた。
そして案の定、それは起こった。
全員が揃った瞬間、お兄さんが開口一番
「●●(お姉さん)、●●(弟)。よく聞け!俺は今回3等分でわけるっていうことには全く納得していない!お前らが俺抜きで勝手にこの土地のことを決めて、勝手に配分まで決めて、一体何様のつもりだ!」
一同沈黙・・・。
「ただいつまでも、このことで揉めていてもしょうがないから、今日これで決着つける。これが終わったらお前らとはもう二度と会うことはない!」
最後に今まで溜りに溜まっていたことを全てを言い放って、たぶんすっきりされたと思うが、とても残念だ…。
「じゃあ、あとは手続き進めて」とお兄さん。
色々あったものの今回の相続・分割問題は無事解決した。
お兄さんは今回土地を売った資金で、長野に買った マンションの残債を完済。決済の帰り際には私に「いろいろとありがとう」と一言。笑顔で長野に帰っていった。
お姉さんも新しいマンションに無事引越しを終えて今は新しい生活にも慣れて大満足。地震の心配もいらなくなったし、前よりも交通が便利になり、これでまたお姉さんの行動範囲が広がることだろう。弟さんは今回売ったお金を使って、ご自分の家を二世帯住宅リフォームすることに。現在まだリフォーム中だが、もうすぐお孫さんも一緒に住むことになるし、家具はIKEAで何を買おうかなど今は毎日を楽しみに過ごしている。
遺産相続コンシェルジュからのアドバイス
30年間ずっと揉めていて話が先に進まなかったところに誰の味方でもない中立な立場である専門家の「私」が入ることで今回の問題は無事解決ができた。
相続問題は、「気持ち」の部分がとても大きいということをこの一件を通じて実感することができた。また、この「気持ち」の部分の問題を解決することができる立場の人が少ないということも実態である。(記:髙橋大樹)
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