なぜ売れない?空き家になった戸建ての実家に潜む思わぬ落とし穴
なんの変哲も無い普通の一軒家だと思っていても、不動産について調べていくうちに誰も知らなかった予想外の事実が発覚することがあります。
それが原因で、いざ不動産を処分しようと思っても、購入価格より格段に低い価格でしか売却できないこともあるのです。
本記事では『実家は普通の戸建てだったので、それなりの価格で売れるだろう』と思っていたお客様が、不動産会社に相手にされず売りたくても売れない状況が1年間続いた事例をご紹介します。
さて、この不動産にはどんな問題があったのでしょうか。
今回のポイントは以下の通りです。
・不動産は購入者が負うリスクの大きさによって、価格が減少したり売却困難となる。
・今すぐ、解決できる問題と解決できない問題を把握することが重要。
事例:「あなたの不動産は売れない」と不動産会社から言われたAさん
毎年の固定資産税や、植栽等の管理での負担が大きく、貸すにもリフォーム代など先立つ費用はなく、そして、実家は貸したくないという気持ちが根底にあり、悩んだ末に売却を決断されました。
わたしたちは、Aさんの不動産について現地と役所へ不動産調査を行いました。
【現地調査でわかったこと】
・外観から見る限りはごくごく普通の一戸建てだったので、特に問題はなさそう。
・昭和48年築で内装はかなり傷んでいる。
・布団や家具、電化製品などの私物が大量に置いてあり、残置物の撤去費用がかなり掛かる。
【役所調査でわかったこと】
自宅の建っている土地が、建築基準法上の道路に面していないことが発覚。
この「建築基準法上の道路」に土地が接していないと、建築物の建築は原則不可となります。
そのため、不動産価値が著しく下がることが考えられます。
道路に面していない不動産を救済するため、「建築基準法第43条但し書きによる許可」というものがあります。やむを得ない事情がある場合に限り適用でき、建築を許可する制度です。この許可を受けた道路を「但し書き道路」と呼びます。
依頼者Aさんのご両親が過去に購入した当該自宅は、この制度を適用して建築していました。再建築不可ではなく、一定の手続きと許可を得ることで再建築できることが分かったのは幸いでした。
Aさんに調査結果を伝えたところ、初耳の内容が多かったようで『外から見たら普通の一軒家なのに…』と大変驚かれていました。調査してみて初めて知ることはよくあります。
私『こちらの土地は住宅街ではありますが、市場には通常の道路に面した土地でさえかなりの量が売れ残っています。購入者による再建築に一定条件が付き、リフォームや解体にかかる費用などを総合的に考慮すると、実家の売値は50万円以下になる可能性があります。』
Aさん『正直そこまで価格が低いとは思いませんでした。ただ相場というものは理解しなければなりませんよね。高く売ろうとしたって買う人がいないのでは、仕方がないですよね・・・』
不動産を買ったときは数千万円もしたのに、30年程でここまで変わるのかと、Aさんと同様、私自身も驚きました。
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売却するのに面倒な不動産は、不動産業者から相手にされない!?
実はAさん、私たちに相談する1年前に空家の実家の見回りをお願いしていた不動産会社Z社へこの売却相談をしていました。
しかし、相談後は何の連絡もないまま一年が過ぎていたのです。
Aさんが現在の状況を確認するため不動産会社Z社に連絡したところ
『再建築のためには“但し書き道路”とする必要があります。そのためには、隣地所有者から“但し書き道路にすることの同意”を書面で得ることが必要なんです。しかし、同意を得るべきこの隣地所有者が所在不明で連絡が取れない状況なので再建築できません。再建築できない土地は売れません。』
と言われていました。
確かに、Aさんの実家を売却するにも接道状況や隣地の方が所在不明など特殊な事情があり一筋縄ではいきそうにありません。
しかし、所有者Aさんは手間や負担をかけずに売りたいし、購入検討者はできれば不安要素が少ない物件を買いたいはず。ですから、まずは「再建築の許可申請のための活動」をすることとしました。
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想像以上に苦戦した買主探し
上記の所在不明の隣地について、改めて調査開始。
そして周辺業者に確認したところ、なんと売りに出されていることが判明。
すぐに当該隣地の売却を担当している仲介会社W社に連絡を入れました。
但し書き道路とするには隣地所有者の承諾書や印鑑証明書が必要などの事情を伝えたところ『もちろん、ご協力します』とご快諾いただきました。
これで但し書き道路とするための申請書類を整えることができました。あとは購入者が行政へ申請し、役所担当課による資料や現地調査など経て許可されます。しかし留意すべきは資料や現地の調査があり、申請したからといって必ず許可されるとは限らないことです。
例えば、申請する道路の全てが幅員4m超、隅切り(二辺が道路に接する角地を敷地として利用する場合に、その接する角の一部分を空地にすること)の長さなどが基準値以上であるなど、審査項目も多く厳格に調査されます。ですから、調査前の段階で担当課も、但し書き道路の許可は大丈夫だと言えません。
売却の活動を始めても不動産会社からは良い返事は少なく、購入者にとって再建築不可のリスクのある不動産の売却活動は容易ではありませんでした。
そして購入者を探し始めて1ヶ月。このような条件でも購入の手を挙げて頂いた不動産買取業者3社を見つけ出し、価格や条件の交渉をスタートしました。
本来、売主Aさんが売却する時にかかる費用として総額440万円の負担が考えられます。
・土地測量費(40万程の負担)
・室内や室外の残置物撤去費用(150万円程)
・建物解体費(250万円)
更に、但し書き道路の不許可により再建築不可のリスクがあります。
購入検討者との条件交渉では、Aさんの希望で負担を少しでも軽くしたいということから
・建物解体等にかかる費用440万円を買主が負担する
・但し書き道路の不許可リスクは買主が負う
こととしました。
そして交渉の結果、東京都内の不動産買取会社が上記条件で価格70万円にて購入すると購入申込書を提出してくれました。Aさんも喜び、そして無事にお引き渡しが完了。
『真剣に取り組んでくださってありがとう。また同じように1年以上かかるのではないか、売れないとも思っていました。それを相談から3か月で解決してくれて。実家が大きな負担になっていたから、やっと肩の荷が下りました。本当にありがとうございました。』
とAさんからお礼のお言葉を頂きました。
まとめ
今回のポイント
・不動産は購入者が負うリスクの大きさによって、価格が減少したり売却困難となる。
・今すぐ、解決できる問題と解決できない問題を把握することが重要。
将来自宅の売却をし、老人ホームなどの施設への入居を考えている方もいるでしょう。しかし、いざ売却をしようとしてもすぐに現金化ができるとは限りません。
思っていた金額よりも低い金額でしか売却できないケースや、今回の様な訳アリの不動産、その他に不動産の場所や状況・状態によっては、買い手がつかず売却自体ができないこともあり得ます。
将来不動産を売却する可能性があるのであれば、不動産の時価のイメージや、売却をしようとしたときにどの様な問題があるのかを事前に信頼できる不動産会社などに話を聞きに行くのも一つの手かもしれません。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。