令和5年4月施行の民法改正が与える専門家への影響とは!?
2023年4月から改正民法が施行されていたことをご存知でしょうか?
私たちの生活に深く関わっている『民法』は、社会の変化に応じてたびたび改正されてきました。
今回の改正(2021年4月改正)では、所有者不明土地問題の解決に焦点を当てた改正がメインになっており、不動産相続の分野に関わっている専門家の皆様にとっては実務に影響する内容が多く盛り込まれています。
今回は、特に不動産相続に関して重要な民法改正の内容を解説し、専門家にとってビジネスに繋がるポイントをお伝えします。
【本記事のポイント】
・不動産相続の実務に関連する改正内容が多い!関わる専門家にとっては追い風!?
・民法改正を上手くビジネスにするには、不動産や専門士業との連携が重要
民法改正の目的とは?
今回、2023年4月1日に施行される民法改正のテーマは、「所有者不明土地問題」です。
所有者不明土地とは、以下の土地の事を指します。
②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が取れない土地
この所有者不明土地は日本の土地全体の24%(令和2年国交省調査)もあると言われており、
その土地の売買や有効活用等が出来ずそのまま放棄されるなど、社会問題となっています。
その原因のほとんどが「相続しても相続登記をしない」、「引越ししても住所変更登記をしない」などです。
こういった背景から、所有者不明土地の発生予防と利用の円滑化を目的に、
2021年4月に「民法等の一部を改正する法律」が成立し、2023年4月1日からその内容が施行されました。
所有者不明土地の解消に向けた整備が、ここから進んでいくことになります。
民法改正の内容とは?
今回の民法改正の内容は、以下の通りです。
②共有制度の見直し
③所有者不明土地管理制度等の創設
④相続制度の見直し
⑤相続土地国庫帰属制度の創設
上記を全て説明しようとするととてもボリュームが多いため、
今回は不動産の実務に直結しやすい部分をピックアップして説明してまいります。
相隣関係規定の見直し
相隣関係とは、隣地との間で境界や通行、インフラ関係などに関してお互いに円滑に活用できるように、
話し合いをして調整する関係をいいます。
この関係が上手くいかないと騒音や越境など、様々な隣地トラブルが発生してしまいます。
ライフラインの設備の設置・使用権
電気、ガス、水道などのライフライン設備の設置について、
昭和の時代やそれよりも前からある住宅地では、他人の土地や設備などを利用して建築していることが多くあります。
その状態で新たに建築しようとすると、
土地所有者が変わっているなど「昔のお隣さんだから」という関係は希薄になっていて、
利用させない、撤去を求められるなどトラブルに発展しています。
そのため今回の改正で新たに、「必要な範囲内で他の土地に設備を設置もしくは他の土地の設備を利用する権利(設備の設置・使用権)を有する」ことが明文化されました(新民法213の21)
・他人の土地に設備を設置しなければ、インフラ等の供給を受けることができない場合に認められる
(民法213条の2第1項)
・設置する際に、他人の土地又は設備への損害が最も少ない方法を選ぶことが必要
(民法213条の2第2項)
・使用権を行使する際、事前にその目的や場所及び方法をその土地の所有者と使用している人に通知すること(民法213条の2第3項)
⇒通知した相手側に対して、一定の猶予期間(案件によって合理的な期間)を設けることが必要。
・他人の土地等に設備を設置・接続する場合に、償金・費用を支払う必要がある
⇒工事の際に土地に与えた損害や一時的に土地が利用できなくなることのへの償金
越境した竹木の枝の切取りできる権利の創設(改正民法233条)
これまで隣地の竹木が越境してきた場合、こちらから切除することはできず、
越境した竹木の所有者に切除させる必要がありました。
しかしそれでは、隣地所有者が非協力的な場合や隣地が所有者不明土地の場合には、
切除させることが困難などの問題点がありました。
そこで今回の改正では、以下の場合には、越境された土地の所有者は、越境した木々を自ら切除することができるようになりました。
・ 竹木の所有者へ催告後、相当期間が経過したにも関わらずに切除しないとき
(概ね2週間程度)
・ 竹木の所有者や所在を知ることができないとき
・ 緊急の事情があるとき
※竹木の所有者が共有の場合、各共有者は、他の共有者の同意等を得ることなく単独でその竹木を切り取ることができる(民法233条2項)
ライフライン設備の設置使用、越境した木の伐採も通知すれば必ず認められるものではないので、拒まれた場合には裁判が必要になる点には注意が必要です。
共有制度の見直しについて
所有者不明土地について現在の所有者は誰なのか知りたいときは、戸籍謄本等を調べていけば相続人を特定できることもあります。
しかし、その多くの土地は相続人が多数であったり、一部の相続人が行方不明など、所有者の特定が困難になっています。
そのため、所有者不明土地の管理・処分がなかなか進まず大きな支障になります。
今回行われた改正の概要は以下の通りです。
共有物の変更・管理の決定方法の見直し
旧民法では、共有物の変更や管理について、行為の類型毎に以下のような規律としていました。
《改定前》
管理の種類
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根拠条文
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同意要件
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変更
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旧251条
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共有者全員の同意
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(狭義の)管理
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旧252条本文
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持分の価格の過半数
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保存
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旧252条ただし書
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共有者単独
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※法務省:「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」参照
各共有者は、これまで他の共有者の同意を得なければ、共有物に軽微な変更(形状または効用の著しい変更を伴わないもの)も加えることができませんでした(251条1項)。
そこで軽微な変更は、共有者全員の同意がなくても、共有者の持分に合わせて、その過半数で決めることができるという定めが設けられました(251条1項かっこ書き)。
《改定後》
管理(最広義)の種類
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根拠条文
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同意要件
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変更(軽微以外)
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新251条1項
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共有者全員
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管理(広義)変更(軽微)
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新251条1項・252条1項
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持分の価格の過半数
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管理(広義)管理(狭義)
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新252条1項
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持分の価格の過半数
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保存
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新252条5項
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共有者単独
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また、これまで賃借権等の設定についての判断基準も不明確でした。
(「全員の同意が必要なのか」「持ち分の過半数の同意で良いのか」など)
今回の改正では、「持分の過半数で決定できる賃貸借契約の内容」も明確にしました。(民法252条4項)
(2) (1)の賃借権等以外の土地賃借権等 〔5年〕
(3) 建物の賃借権等 〔3年〕
(4) 動産の賃借権等 〔6か月〕
共有者間における意思決定のルールの変更、整備
① 賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理について
これまで、共有物の管理に関心を持たず、連絡をとっても明確な返答をしない共有者がいる場合には、共有物の管理が困難となる問題がありました。
今回の改正では、このような共有者がいる場合に、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者持分の過半数により、管理に関する事項を決定できる制度が創設されました。(民法252条2項2号)
② 所在等不明共有者がいる場合の変更・管理について
所在等不明共有者(氏名等や所在が不明な共有者)がいる場合には、その共有者の同意を得ることができないため、共有物に変更を加えることができず、また、所在等不明共有者以外の持分が過半数に及ばない場合では、管理の決定もできませんでした。
今回の改正で、以下の通り、円滑な管理が可能になりました。
・ 所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えること
・ 所在等不明共有者以外の共有者持分の過半数により、管理に関する事項を決定すること
③ 共有物を使用する共有者がいる場合
共有物を使用する共有者がいる場合、管理に関する事項を決める際の明確な記載がなく、また無断で共有物を使用している共有者がいる場合、他の共有者がその共有物を使用できないなどの問題も発生していました。
そのため、今回の改定で以下が可能になりました。
・共有物を使用する共有者がいても、持分の過半数で管理に関する事項を決定できる(民法252条1項後段)
⇒持分の過半数の同意で、それ以外の共有者に使用させることを決定することも可能に
⇒ただし管理に関する共有者間の決定が、共有物を使用している人に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を得なければならない(民法252条3項)
・共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し、自分の持分を超える使用の対価を支払う義務を負う規定を創出(ただし、共有者間において無償などの合意があれば、支払いは不要)(民法249条2項)
・共有者は善良な管理者の注意をもって共有物を使用する義務を負うことを明記(民法249条3項)
共有関係を解消しやすくする仕組みの創設
裁判による共有物分割手続の整備
これまでは、裁判による共有物分割の方法として、現物分割と競売分割(換価分割)が定められていましたが、代償分割(賠償分割)に関する定めはありませんでした。
今回の改定により
・裁判による共有物分割の方法として、代償分割(賠償分割)が可能であることを明記
・競売分割(換価分割)を行う際の検討の順序を明確化(258条2項、3項)
⇒現物分割・代償分割(賠償分割)のいずれもできない場合
⇒分割によって共有物の価格を著しく減少させる恐れがある場合
⇒当事者に対して、金銭や物の引渡し、登記義務の履行、その他の給付を命ずることができることも明記(258条4項)
所在等不明共有者の不動産の共有持分を取得・処分する制度
これまで所在等不明共有者がいる場合、通知を送れないなど裁判手続(共有物分割訴訟等)を行えない場合もあり、共有の解消が非常に困難でした。
今回の改定で、
・他の共有者の存在や所在を知ることができないときは、裁判所に申し立てた共有者に、不明共有者の持分を取得させられる裁判ができる制度を創設(262条の2)
・所在等不明共有者がいる場合、他の共有者が売却等の処分を希望するときは、裁判所が申し立てた共有者に不明共有者の持分を譲渡する権限を与える制度を創設(民法262条の3)
※処分は共有持分全体を特定の第三者に譲渡するケースでのみ行使可能
※遺産共有(相続開始後遺産分割前までの共有状態)の場合には、相続開始から10年を経過しなければ利用できません。(民法262の2第3項、262条の3第2項)
相続制度の見直し
今回の改正では、相続制度について、以下のような改正が行われました。
・ 共有持分が含まれる共有物の分割手続の見直し
・ 相続財産の管理・精算に関する規律の見直し
長期間経過した際の遺産分割方法の見直し
所有者不明土地の中には、遺産分割がなされないまま長期間経過し、度重なる相続や書類等の紛失などで遺産分割が難しくなり、そのまま放置されているものもたくさんあります。
今回の改正では、
原則として、相続開始時から10年経過した後は、法定相続分又は指定相続分(遺言)を基準とし、具体的相続分※を適用しないことになりました(民法904条の3)
※具体的相続分とは:個別の事情(寄与分など)を考慮した遺産の取り分
以下の場合には、引き続き、具体的相続分(相続人間の決定)により分割されます(民法904条3第1項1,2号)
・ 10年の期間満了前6か月以内に、やむを得ない事由が相続人にあった場合で、期間満了から6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割請求をしたとき
・相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意した場合
※改正民法の施行日(2023年4月1日)より前の遺産分割にも適用されますが、経過措置により、5年の猶予期間を設けています。
相続土地国庫帰属制度の創設
相続土地国庫帰属制度とは、相続等で取得した土地を国に引き取ってもらうことができる制度です。
なんでも引き取ってもらえるかというとそうではなく、国の厳しい基準に合格した土地でないと引き取ってもられえません。
そのため、この制度を利用できないことも考慮し、他の選択肢(相続放棄や業者による引取り等)も合わせて検討することが必要です。
相続土地国庫帰属制度に関する詳しい内容はこちらから
https://www.pro-search.jp/blog/disposal_of_negativeproperty/
相談を受けたときの対処法
今回の民法改正は、所有者不明土地の発生を抑制したり、活用していくことに重きを置いており、
精度をうまく活用することで、所有者不明土地を有効的に利用できる可能性が高まりました。
これらの民法改正に関わる専門家にとっては追い風となり、今後相談や案件が増えることが想定されるため、準備や対応が必要になってくるでしょう。
不動産業者のポイント
不動産業者には、売買・賃貸ともに追い風になる可能性があります。
■売買
・所有者不明土地の売買が進み、売買案件や開発案件が増える可能性がある
※とん挫をしやすい案件(測量不良や越境物の解消、通行掘削承諾の取得など)が進みやすくなる
■賃貸管理
・不動産管理をする上で発生する隣地とのトラブル対応がしやすくなる
・共有不動産の管理において、活用(修繕や建て替え等)の提案がしやすくなる
⇒共有物管理者として、選任される機会(ビジネス)もあるのでは?
専門士業のポイント
■弁護士のポイント
使用権などを巡り裁判が増える可能性があるため、相談や依頼が増える
※不動産売買の相談も増える可能性があるため、不動産業者との関りも重要になる
■税理士・司法書士のポイント
・遺産分割が進みやすくなり、相続税の申告が増える
⇒長く放置され遺産分割ができていないお客様がビジネスターゲットとなる
・所有者不明土地の売買が進み、不動産登記や税務申告が増える
民法改正の内容を理解しお客様に提案することで、これまで顧客になりにくかったターゲットにもアプローチできるチャンスが増えると思います。
その際に必要なことは不動産相続に関連する専門家との連携です。
各専門家と連携し、お客様を共有することでビジネスのフィールドが広がり、収益アップや顧客との信頼関係構築がしやすくなるでしょう。
遺産相続コンシェルジュより
【本記事のポイント】
・不動産相続の実務に関連する改正内容が多い!関わる専門家にとっては追い風!?
・民法改正を上手くビジネスにするには、不動産や専門士業との連携が重要
民法改正の施工は始まったばかりですので、まだご存じでないお客様が多くいらっしゃるかと思います。
今後、改正内容の事例などがメディアなどで表に出てくることにより、興味を持ったお客様からの問い合わせが増えてくることでしょう。
今回の改正の内容に関する実務を行うには、他の専門家との連携が不可欠になります。
弊社では、多くの不動産相続に強い専門家と提携しておりますので、案件のご相談や専門家の紹介等、何なりとご相談下さい。(記:友重孝一朗)
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