「遺言書」が「トラブル」の原因に!?遺言書を残す時に気をつけたい3つのポイント!

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相続が起きた時、遺言書の有無によって、遺産分割に大きな違いがでる。例えば遺言書がなく、分割協議で揉めてしまうと、相続税申告時に未分割となり、小規模宅地の特例が適用できない、物納ができない、不動産の売却もできない・・・など、不利になることがある。
 
遺言書があり、相続させる資産を特定している場合は、相続人全員の意思の一致がなくても、遺産分割が確定する。つまり下記のイメージになる。
 
①遺言書無し・・遺産分割協議は全員賛成
(1人でも反対だと何も決まらない)
②遺言書あり・・相続させる資産を特定している場合は、
協議なく分割決定
 
だから、争いを回避するには、遺言書を残しておくことがとても有効な手段であることは間違いない。しかし遺言書の書き方、残し方を一歩間違えると、逆に大きなトラブルを招く危険性も潜んでいる。今回はそんな遺言書に焦点を当てた事例を紹介したいと思う。
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なぜ?遺言所がトラブルのもとに・・・

今回の事例の登場人物は、長男Aさん、次男(弟)Bさん、長女(妹)Cさん。3人のお母さんが亡くなった時の話である。
お母さんの保有していた財産は、自宅(土地200坪と古い建物)と流動資産だった。お母さんは次のような内容の遺言書を残していた。
 
【遺言書の内容】 
「私○○は、所有する全ての財産を長男Aに相続させる。」
 
お母さんの遺言書に書かれていたのは、たったこの一言だけだった。(その他の要件は全て満たした公正証書遺言)長女のCさんはこの分割に納得がいかず、弁護士を通じて、Aさんに遺留分を請求してきたという。兄妹間での争いを避けたいと思ったAさんはCさんの請求通りの遺留分を金銭で支払うこととした。一旦収まったと思ったが、その後も、CさんからAさんに対して「私は母親の財産の1/3を相続する権利がある」と、何度も何度も手紙が送られてきたという。
そしてそれ以来、Cさんは兄弟の前に全く顔を出さなくなったらしい・・・。
 
お母さんが遺言を残していたところまではよかったが、 トラブルを招いた原因は何だったのか。まず一つは遺留分に対する配慮が欠けていたことだ。遺留分とは、「民法で定めている一定の相続人が最低限相続できる財産のこと」をいう。今回のケースでいうと、長女のCさんはお母さんの財産のうち1/6(法定相続分1/3×遺留分1/2)の遺留分がある。もし、お母さんが遺言書に遺留分について長女Cさんへ引き継ぐ財産を書いておけば、また違った結果になっていたかもしれない。
但し、遺留分の額に対しても「相続財産評価」か「時価」かということで争いを起こそうと思えばできてしまうので注意が必要だ。
 
また、相続の争いは感情的な部分が大半を占める。「あの一言」や「過去の出来事」が引き金となることもある。
 
そしてもう一つは、遺言書に財産についてしか書かれていなかったことだ。遺言書の中で、なぜAさんに全ての財産を相続させたいのかということが全く明記されていない。
 
今までお母さんと長男Aさんはずっと同居していた。次男のBさんは、その近所に住んでいた。長女のCさんは結婚して、実家から遠く離れたところに住んでおり実家に帰ってくることもほとんどなかった。晩年、足腰が弱って一人ではほぼ何もできない状態のお母さんを献身的に面倒見ていたのは長男のAさんとAさんの奥さんだった。次男のBさんはそんな姿を間近で見ていたので、お母さんの財産がAさんへ相続されることには納得していた。ところがCさんはお母さんの晩年の姿を一度も目にしたことがなかったのだ。
 
そして、いざ遺言書を開けてみたら、Cさんは自分への遺産がない。納得できる理由も書いていない。
 
もし、この遺言書に一言でも「晩年、全く動けなくなった私を、いつも近くにいて献身的に面倒を見てくれた長男のAと嫁に感謝しています。だから全て相続させてあげたいと思います。本当にありがとう。」と書いてあったら・・・。
 
Cさんは弁護士を立ててまで、遺留分の請求などしなかったのかもしれない。
 

建築計画よりも大切なこと

お母さんの相続の時から10年が経ち、Aさんの最愛の奥様も亡くなってしまった。お子さんがいなったので身内は弟妹だけになったが、遺産分割で揉めて以来、妹のCさんとは全く音信不通だった。 
そして次第にAさんも自分の老後や相続のことを考えるようになっていた。そんな時当社のセミナーに参加いただき、出会うこととなったのである。
 
後日、Aさんにお越しいただき、今後の生活や相続の事、そして自宅の建物もすっかり老朽し、何とかしなければいけないと思いや、過去の出来事など、話をじっくり聴いた。
 
その話の中に心に引っ掛かる言葉がいくつかあった。
 
Aさんは会話の中で何度も「地域貢献」や「友人を大切に」「一人だから安心して暮らしたい」と話していた。
 
そこで思い切って自宅を建替えて有料老人ホームにするという案を提案したいと考えた。しかし、自宅の敷地が200坪で本当にそのプランを実現できるのか?
 
当たって砕けろと数社の老人ホーム運営会社に掛け合ったところ、やっと1社から老人ホームの運営・管理まで一括して請け負ってくれる会社を見つけることができた。そしてそのプランを持って、Aさんに有料老人ホームの建設とその1部屋に住み替え、安心した暮らし、そして仲間達と楽しく過ごすことを提案した。
 
Aさんはしばらく考えていたが、収入が確保でき、安心した暮らしができるプランに希望を見つけたようだった。
 
後日、Aさんから正式な回答をもらい、有料老人ホームの事業計画がスタートした。打ち合わせを重ねていたある日、Aさんはお母さんの相続の時のこと、弟妹に対する思いなどを話し始めた。そしてもし自分に何かあった時は、弟のBさんに財産を引き継いで欲しいとの思いを打ち明けてくれた。
 
実はお母さんが亡くなった後、Bさん一家とはずっと家族ぐるみの付き合いをしていた。子供がいなかったAさんにとってBさんの子である甥っ子は息子のような存在であるとのことだった。
 
私は、どうすれば将来相続がスムーズに進められるか考えた。
 
高橋「Aさん、今回の計画に合わせて、一緒に遺言書を書きましょう。もし、Aさんに相続が発生すると相続人は弟Bさんと妹Cさんになります。何もしなければきっと遺産分割で揉めるでしょう。そして今度は弟さんにも嫌な思いをさせることになるかもしれません。それから老人ホームのオーナーを誰が承継するかを決めておかないと、運営する会社も家賃の振込など運営上困ってしまいます。入居者さんにも迷惑がかかる事もあるかも知れません。」
 
Aさん「確かにそうですね、わかりました。ではどのタイミングで遺言書を作成するのが良いのでしょうか?」
 
高橋「老人ホーム建設着工か完成時はいかがですか?手続きは私と法律の専門家でお手伝いさせて頂きます。」
 
Aさん 「ありがとうございます。弟家族に嫌な思いをさせたくないですからね。ぜひお願いします。その際に何か注意事項はありますか?」
 
高橋「そうですね、お母さんの相続の時は遺留分でずいぶんご苦労されたようですが、今回の法定相続人は、弟Bさんと妹Cさんですから、お二人はAさんからみて弟妹にあたりますので、遺留分が発生しません。だから、Aさんが遺言書に書いたことは、誰にも邪魔をされずに実行できますので大丈夫でしょう。」
 
Aさん「私が遺言をしっかり書いておけば、安心ということですね。」

それから1年…

Aさんは無事に立派な有料老人ホームのオーナー兼入居者となった。自分の部屋だけは少し特別仕様になっていて、快適に毎日を過ごしている。
 
私が提案した通り、老人ホーム着工と同時に遺言書を書いたAさんに久しぶりに会いにいくと、
 
「高橋さん、あの時はありがとう。これで自分の身にいつ何が起っても、安心だよ」と、趣味の釣りの話も交えて元気な笑顔を見せてくれた。当分相続の心配はなさそうだ。
 

海外では当たり前の遺言書

先日、海外で不動産を購入した知り合いの投資家の方からこんな話を聞いた。不動産売買契約締結と同時に、遺言書へのサインを求められたらしい。一瞬「えっ」と思ったが説明を聞くと、海外では相続人の特定が極めて難しく、特に外国人の場合、下手をすると相続人の特定まで数年かかることもあるそうだ。だから購入した時点で万一に備えて、その不動産は誰が相続するのか事前に決めておくことが一般的だそうだ。
 
海外では、事が起こる前に問題を防ぐ、いわゆる予防医学のような考え方が普及している。結婚したら遺言を書かせられる国もあるほどだ!
 
今後日本でも将来のトラブル予防のために、このような生前の対策も必要になってくることだろう。
 
不動産を買ったら、何かを建築したら…同時に遺言書を作る

遺産相続コンシェルジュからのアドバイス


今回の事例でもあったように、遺言書では法定相続分とは異なる分割方法の指定をすることができるが、もし相続人の誰かの遺留分を侵害するような遺言書を書くと、遺産分割時のトラブルのもとにもなりかねない。
 
そこで、遺言書を書くときのポイントを3つ
 
①誰に遺留分が発生するのか、またその額を正確に把握すること
②遺留分に配慮した遺言内容にすること
③【付言事項】に相続人への感謝の気持ちや自分の思いを書き残すこと 
 
遺言書を残すことが必ずしも円満な解決になるとは限らないが、自分の思いを次の世代へ「伝え、残す」という意味ではとても有効な手段の一つであろう。また、今後は家族信託などが活用できるかもしれないので研究が必要だ。
 
遺言は、書き方によってはトラブルに発生することも大いにあり得ることを認識し、また遺言の種類や特徴がそれぞれあるので必ず専門家と一緒に作ることをお勧めする。
 
特に不動産が多い人は、事前に評価や時価の把握が必要なので当社のような不動産に強い専門家と法律、税務に強い専門家の連携が重要だと思う。(記:髙橋大樹)

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