崖っぷち相続申告 知らない土地を相続!!
縁もゆかりもない土地を相続!
今回は見たこともない、縁もゆかりもない土地を相続したご兄弟のお話。最近相続の案件で、このようなケースが増えている。相続人は相続発生までその不動産の存在すら知らず、駆け込みで相談にやってくる。ここで紹介するのは正にその実例。
今年の3月、長男Aさんから相談を受けた。「父が亡くなり相続した土地があるが、見たこともないので売って弟と分けたい。弟もこの土地の売却には賛成しているから早々に売却したい」とのこと。土地は未利用地であるために持っているだけで固都税を負担しなければならないので、できるだけ早くこの土地を処分したいとのことだった。
顧問税理士による財産評価は4,000万円とのこと。できればその評価額程度での売却を希望していた。
驚愕の現地!買い手がつかない!?
相談を受けた後、手元にある地図と公図を頼りに早速現地へ調査に向かった。地図や公図を見る限りごく普通の土地であり、角地という利点もあった。
しかし現地に到着と同時に、愕然…!
その土地は道路から最大で6mほど切り立ったがけ地になっていた。近くには何か所も『危険!がけ倒壊の恐れあり!』の警告看板も立っている。そしてその土地には太い木が何本も生い茂っている。崖地には擁壁はあるものの老朽がひどく、やり直す必要がある…。宅地として売却するには難しい状況であった。
それだけではない。この土地には上下水道やガスなどのライフラインの管も一切埋設されていない。また埋蔵文化財包蔵地内にも指定されていた。
調査を進めるにつれて書ききれないほどの様々なリスクが浮き彫りになってくる。
状況を全く知らないAさんに早速この事実を報告。Aさんは「そんな崖があるの!?売れるの!?」と困惑の様子。
現状を踏まえ、個人へ売却するには難易度が高すぎることを説明し、プロである戸建分譲業者に絞り、この土地の販売活動を行うことに決定した。
販売価格を決定するためにあらゆる専門家にこの土地を見てもらい見積もりを取得した。
結果、擁壁や造成費、インフラ整備、伐採抜根などに約3,000万円の費用を要するという。本来であれば、がけ倒壊などを考慮すると価格を付けることすら難しいそうだ。これらの状況を踏まえ、Aさんに売却価格は1,000万円を切る可能性もあると説明した上で、活動を開始した。
まず信頼できる業者を10社ほどピックアップし紹介をした。しかし一週間もすると、造成費の問題や倒壊のリスク、開発から販売開始まで時間がかかるなどの理由で検討することができないという回答が続々と入ってきた。気が付くと検討できるのは地元密着の不動産会社1社のみになってしまっていた。
その1社も「本来購入はしない難しい土地であるが、地元なので」と回答を出してくれた。思わず「ありがとう!」と声が出そうだったが、少しでも価格が伸びるように交渉。最終的には「ここまでしか出せない」というぎりぎりの600万円という数字がでてきた。
誰のために仕事をするのか!?
今回の土地の財産評価額は4,000万円。売却価格と3,400万円もの乖離があった。どのように評価を行ったのか、まずAさんに話を聴いたところ、実は兄弟間で遺産分割のことで揉めてしまい、お互い税理士と弁護士を立てて各々話し合いを繰り返していたとのこと。だから評価が申告のぎりぎりになってしまったそうだ。
確かに時間がない中での評価とはいえ、さすがに疑問が残る。
Aさんに了解を得て、評価を行った顧問税理士へ確認を行った。話を聴くと、知り合いの調査会社へ依頼し書面で現地の報告を受けたとのこと。評価はほぼ地図上で得られる情報を基に、何の評価減額もしていないとのこと。
時間はなかったというものの、現地を見ずに地図だけを見て評価を行ったということを聴き、少し強めに「もう一度評価をし直してもらえませんか」とお願いしてみると、税理士は「評価をし直して万一評価が下がらない場合だれが責任をとるのだ」「税務調査がきたらどうする」と反論する始末。「依頼者のために合法的に最大限評価を引き下げ、相続税を下げることにトライするのが普通では」という私の言葉にも耳を傾けてもらえなかった。
結局、不動産鑑定士に評価を依頼し、それを基に更生の請求を行うことになった。
決して税理士の責任ではないが、一体誰のために、何のために仕事をしているのか?改めて税理士の選択の重要性を実感した。
鑑定結果は約1,000万円。実際の売買価格まで引き下げることはできなかったものの、当初4,000万円の評価額から3,000万円も見直すことができた。
このまま更生の請求がうまくいくと約1,200万円の相続税が還付されることになる。あまりにも大きな金額だ。
遺産相続コンシェルジュからのアドバイス
相続は「争族」へと発生してしまう悲しいケースが多い。しかし事前準備をきちんと行うことで問題が大きくなることを最小限にとどめることができる。
①焦って申告をするような状況を作らないこと。申告や分割で困らないように書類を整理しておくなどの準備をしておくこと。
②全ての税理士が相続に強いというわけではない。できれば相続に強いパートナーを見つけておくこと。
③所有不動産に関しては事前に調査を行い、問題・課題点などの実態を把握しておき、問題点は生前に解消しておくこと。
このようなことを日頃から少しずつでも準備しておくことが大切である。
そして相続問題は奥が深く無知であるほど恐ろしい。今回は無事に解決できたものの、知識や経験がなければ評価の引き下げや税金の還付までやることはなかっただろう。
相続の案件はそれぞれに物語が違う。お客様本位の提案をするのであれば、まず相続の知識を日々深め、その上でお客様の目線に立ったコンサルティング業務を行うことが基本であるということを感じた。(記:松尾企晴)
- 『相続に絡む不動産』についてお客様から相談を受けたときに、信頼できる不動産会社の見分け方 2024年11月30日
- 一軒家を子どもでどう分ける?親が住んでいる自宅の相続方法4つを詳しく解説 2024年11月20日
- 相続登記をしないと600万円も損!?相続登記義務化で専門家が考えるべきこと 2024年10月31日
- 相続したら損をする!?今すぐ提案したい、地方にある不要な負の不動産の相続対策とは? 2024年9月30日
- 早くしないと損をするかも?『相続空き家の3,000万円特別控除』を使って、空き家の実家を賢く売る5つのポイント 2024年9月20日
- 不動産小口化商品の人気上昇!選ばれる理由と顧客に合った投資方法 2024年8月31日
- 深刻な問題に!?親子の相続ギャップを生む不動産の問題と解決方法 2024年8月20日
- 【2024年最新】不動産相続のプロこそ知っておきたい、いらない山林の5つの処分方法+α 2024年7月31日
- いらない山林の相続税を払う前に!プロが伝える5つの山林処分方法 2024年7月20日
- 住み慣れた自宅を離れたくない!でも資金が欲しい!そんなお客様への売却提案 2024年6月30日