家族信託をしただけで安心しないで!実家の管理で事前にやるべき3つのこと
家族信託は「家族の希望を叶える手段」です。
家族信託をすることが目的となって、家族信託契約を締結した後に何もしないのでは、例えば将来実家を売却できるようにするという希望を叶えられなかったり、お金の面でも苦労する可能性もあります。
本記事では、家族信託で実家の管理を任された方が家族信託を検討するときにまず考えなければならないこと、そして締結後にやるべきことを3つにしぼって解説します。
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今回のポイントは以下の通りです。
・親のみが知っている①測量図、建築確認済証などの不動産関連の書類のチェック、②隣地との境界確認などの不動産調査、③親の私物を誰に遺すのか、処分するのかを事前に確認しておく
・将来の実家の管理、売却というゴールから逆算して行うべき対策を“今から”実行していくことが重要
家族信託する“前”にゴールを設定する
親の所有する資産について家族信託契約をしても、“家族信託で叶えたいゴールがない”状態では、何をしたら良いのか分からず、結果として何もしないことが多い。これでは信託をした意味がありません。
「とりあえず家族信託をしておけば、何にもしなくてもいいでしょ」
そう思って、実家やその他の資産について何もしないでいると、いざ「資金確保のため不動産を売ろう」と思ったときになって問題が起こり、親が元気なうちに聞いておけばよかった!などで対策が上手くいかないこともあります。さらに、結果として財産価値が下がることもあり得てしまうのです。
家族信託を通じて、せっかく親と子が財産のことで話し合う機会ができているのですから、家族信託をして実家をどうするか・家族にどうなってほしいのか設定しておきましょう。
ゴールが明確になれば、何をすべきかが分かってきます。一例を挙げてみますね。
【ゴール】
親が安心して老人ホーム等の施設で生活できるようにする
【手段】
親が要介護状態になったら実家を売却し、その代金を老人ホームの入所金や月々の支払いに充てる
親が老人ホームに入所しても資金面で困らないよう安心して暮らす、というゴールを決めます。そうすると、そのために実家を売却し資金を確保するということが決めやすくなります。
もし親子でゴールと手段を決めていないと、いざ老人ホームに入所するとなった場合に資金確保のため実家を売却しても良いのかどうか、子が判断するのは大変です。
“親が自分の生活をどうしたいか”から考えると目的設定しやすく、楽しく進められると思います。
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不動産(実家)を家族信託するとき何を準備したらいい?
家族信託をすると、不動産の全部事項証明書(登記簿)の所有者欄に“受託者:子どもの氏名”が載ります。このようになったら、売却したり、賃貸したり、有効活用するときなどは、子どもの判断と署名押印で取引が出来るようになります。
毎年支払っている固定資産税明細書が受託者である子の住所宛に届くようになり、子が支払うこととなります。家族信託を組むとこのような“不動産の所有者”としての義務が発生します。
そこで、家族信託をして実家の管理を任されたときに行ってほしいことがあります。
2.隣地との境界確認などの不動産調査
3.親の私物について、“要るもの”と“要らないもの”を確認
目的によって準備することは多少なり変わりますが、売却するときに最低限用意しなければならないことをお伝えします。
【土地】
・登記簿謄本
・土地測量図
・境界確認書
【建物】
・登記簿謄本
・建築竣工図、間取り図
・確認済み証/検査済み証
【調査】
・土地埋設物
・土壌汚染やアスベスト
・隣地とのトラブル
この他にもありますが、上記は代表的なもので且つ売却価格に影響するものです。
売却するなら高く売りたいですし、手取りの現金を多くしたいですよね。そのためにこれらの書類を取得することや、可能な限り不動産調査を行いましょう。もし隣地との土地境界確認書が手元に無ければ土地家屋調査士に依頼して取得してください。
あとは、親の私物で、親の私物について、“要るもの”と“要らないもの”を確認することです。時間もかかりますし面倒なことだと思いますが、やっておいて欲しいことです。理由はこの後お伝えします。
目的に合った対策を“今から”する
土地測量や荷物整理などは売却することが決まってからでも良いのでは?と思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、不動産にはトラブルが多く潜んでいるのです。
・実は隣地の方と揉めていて土地境界確認に応じてくれない。
⇒境界確認できないと土地面積不確定、土地分筆不可となり価値が下がる。
・調査したら再建築ができない土地だった。
⇒建物を建築できず土地利用が制限されるため土地の価値が下がる。
これらはよく発生するトラブル事例です。隣地と揉めている、再建築ができない土地を皆さんは買いたいですか?よほど価格が安くなければ検討しませんよね。
土地境界確認は通常2,3カ月で完了しますが、隣地とトラブルに発展すると完了まで1年以上要したり、完了せず不調に終わったりすることもあります。隣地から土地を購入や借りることで再建築可にすることもできますが、時間はかかります。
もし、家族信託した後すぐに取り掛かれていたら、この価格下落リスクを解消できていたかもしれません。
また、みなさんご自身の実家を思い浮かべてみてください。
長く家族が過ごした分、家具や日用品だけでなく思い出の品も多いでしょう。
不動産を買ったときの契約書や、保険に関する書類などの重要書類、通帳や判子もあるはずです。
どこになにがあるかわかりますか?
親がこれからも残しておきたいと願うものと、処分しても良いものの判断がすぐにつきますか?
情報や想いを親と共有しておかなければ、即断していくのは難しいと思いませんか。
しかし、売却が決まると早くて1ヶ月で買主へ物件を引き渡すことになります。この1ヶ月の間に、室内の荷物撤去処分をしなければなりません。
さて、仕事されている方であれば仕事の合間にできるでしょうか。
昔と違い捨てるにも分別が大変です。多くの方が自分では手に負えずに産廃業者に依頼するのですが、家屋の面積が100㎡(4LDKくらい)で80万~100万円かかると思います。なかなか大きな出費ですよね。
もし、親が元気なうちに情報を共有しておくことができれば、いざ家を売るときにもすぐに取り掛かることができるでしょう。ご自身で撤去処分ができれば、処分費用も安く抑えることができます。
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まとめ
今回は、家族信託で実家の管理を任された人が、事前にやるべきことをお伝えしました。
今回の記事をまとめると以下の通りです。
・親のみが知っている①測量図、建築確認済証などの不動産関連の書類のチェック、②隣地との境界確認などの不動産調査、③親の遺品を他界後誰に遺すのか、処分するのかを事前に確認しておく
・将来の実家の管理、売却というゴールから逆算して行うべき対策を“今から”実行していくことが重要
家族信託は“親の希望を叶える”ための手段に過ぎません。
今回は売却の時の準備でお伝えしましたが、賃貸や建て替えでも同じようなことが求められます。今のうちから目的にあった準備を進めることで、実家の不動産価値を維持することができ、いざというとき、親の希望(事例では老人ホームに入所する資金確保)をスムーズに叶えることができるでしょう。
目的を明確にさせることや、不動産の調査や準備、家族信託のことについては、不動産と家族信託に詳しい専門家に相談することをご推奨します。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。