生前贈与は節税対策のため? 家族全員が想いを叶える贈与方法お伝えします。
2015年に基礎控除見直しなどの税制改正によって相続税が大衆化されたと言われています。
その一方で、贈与税については新たな贈与制度を創設し、お金を持っている親世代がお金を必要としている子や孫世代へお金を回し、消費を促すように国が舵をとり始めました。
「将来的な相続税の負担を出来るだけ少なくしたい!」「遺産分割で争族にならないように今のうちに渡しておきたい!」など、相続税の節税や遺産分割対策を目的として生前贈与を行おうとする方が、私たちのお客様の中でも非常に増えています。
ついつい節税等の効果だけに目が行きがちなこの生前贈与ですが、実行する前に少し考えてもらいたいことを皆さんにお伝えしたいと思います。
今回の記事のポイントは下記のとおりです。
・よかれと思って行った贈与が不幸の種にならないように、受ける側の立場や気持ちになって考える必要がある。
・贈与にももちろん認知症リスクが伴うので、長期的な視点で贈与方法を検討すべき。
・自分の財産状況を把握し、相続時のことも考慮したうえで贈与実行すること。
※①は、省エネ等住宅の新築等に係る契約の締結日が令和2年4月1日~令和3年3月31日に該当する場合です。その他の住宅は500万円となります。
※②は、「居住用不動産を取得するための金銭」でも可能です。
※特例等の詳細や適用要件は国税庁ホームページ又は専門家にご確認ください。
贈与をする人(親)と受ける人(子)のそれぞれの気持ち
贈与する側(親)が得たいメリットは「節税効果」「特定の子に財産をあげられる」そして「ありがとうと感謝されたい」ということが一般的によく言われますよね。
では、贈与を受ける側(子)はどのように感じ、どのような効果があるのでしょうか。
・資産が増えることによって、生活や心にゆとりが持てる!
・金銭的な理由が原因で諦めていたことに、挑戦できるようになる!
・自分や家族にしてあげたいことができるようになる!
・不動産や株を早めにもらうと、管理や運営ノウハウなどを親から学ぶことができる!
・(貰った時は)親に感謝!
専門家に「贈与で節税できるって本当?」「贈与を勧められているけどした方が良いのかしら?」のような相談すると、大抵の場合「贈与した分だけ財産が減るので、相続税の負担が軽減されますよ」「贈与の種類や制度はこのようになっていまして…(制度の説明)」というような回答があり、結局やっていいのか分からず、何もしないという方が多いのではないでしょうか。
しかし、実際に贈与を受ける側の人にとってみると、相続税の節税効果よりも、今、贈与を受けることによる生活や心の安心に対するメリットの方が大きいのではと思います。
生前贈与の落とし穴
贈与する側にとっては、「自分の資産をあげるのだから、子どもや孫たちに感謝をされて当然」と思いがちですが、そんな気持ちでいると、思わぬところから問題が生じることもあります。
例えば
・子どもに贈与をし過ぎたために、今後の自分の生活が不安になった
・孫の喜んだ顔がみたかったのに、喜んだのは孫ではなく子どもだった
・子どもの配偶者側の両親にプレッシャーを掛ける結果となった
こうしたことを考えると、これから生前贈与を考えている人は、単純に相続税の節税だけに捉われるのではなく、その贈与が誰のために役に立つものなのか?その贈与によって不満を持つ人は周りにいないか?その贈与は誰が喜んでくれるためにするのか?など、善かれと思って行った贈与が不幸の種にならないように、受ける側の立場や気持ちになって考える必要もあると思います。
事例:教育資金の一括贈与なんてしなければよかった!
「孫の喜んだ顔を見たい!」と思い、銀行にも勧められ、教育資金の一括贈与を使って500万円を一括で幼稚園児のお孫さんに贈与をしたAさんのお話です。(相続対策で弊社にご相談に来られる前のお話です)
お孫さんが幼稚園の時に一括贈与をしましたが、お孫さんは当然まだ理解しているはずもなく、実際に感謝をされたのは、贈与した時に子どもからの「ありがとう」という一言だけだったとのことです。
その後、お孫さんの小学校入学の時に、既に教育資金で贈与をしているからお祝いはしなくてもいいかなと思いながらも、やっぱりその時にお祝いを持っていかないことになんだか罪悪感が。
しかも、孫の節目の際には毎回、直接(配偶者側の)おじいちゃん、おばあちゃんからお金を貰ったと孫は大喜び。こちらは既にまとまったお金をあげているのに、その都度、感謝されるのは配偶者側のおじいちゃん、おばあちゃんばかり。
その様子を見て、教育資金贈与とは別に、やっぱり喜ぶ顔が見たい、感謝されたいという気持ちから、結局毎回孫にお祝いをあげることにしたようです。
こうした話を聞くと、節税対策の面からみれば、一括贈与は効果的だったと言えますが、本来の目的(孫の喜んだ顔をみたい)を、果たすことはできたのでしょうか?節税ばかりではなく、何のためにその贈与をするのか?という根本的なところをしっかりと考えて行わないと、節税効果云々ではなく、気持ち的な部分で残念な思いをし、「やらなきゃよかった!」なんてことにもなるかもしれません。
贈与を使って想いを形にするために
相続税の節税のために贈与をする方法はありますが、ちゃんと考えておいてほしいことは「贈与をすることによって、自分が本当に得たいものはなにか?」ということです。
「子どもや孫たちに喜ばれたい、感謝されたい、役に立ちたい」
子どもや孫に資産を贈与するという行動の中には、このようなご自身の「叶えたい想い」があるのではないでしょうか?
単純に、相続税節税対策として贈与をするのではなく、自分が贈与をすることによってどんなことを得たいのか、どんな気持ちになりたいのかをまずはイメージしてみることが大切です。そしてそれは贈与だけではありません。「相続対策」も全てそうだと言えるでしょう。
事例のAさんのようなお気持ちがある場合はとくに、教育資金の一括贈与制度を活用するのではなく、毎年、必要な資金を贈与していくほうが良かったのかもしれません。
ですから、私どもがAさんの相続対策を講じていくうえで大切にしたことは、『お子さん達に感謝される対策、進め方にすること』でした。
「相続対策」を行うことによって、自分はどういう「想い」を実現したいのか、それによってどんな気持ちになりたいのか、まずはそこからイメージをすることが、相続対策成功の第一歩なのかもしれません。
まとめ
・よかれと思って行った贈与が不幸の種にならないように、
受ける側の立場や気持ちになって考える必要がある。
・贈与にももちろん認知症リスクが伴うので、長期的な視点で贈与方法を検討すべき。
・自分の財産状況を把握し、相続時のことも考慮したうえで贈与実行すること。
子どもやお孫さんが教育や生活などで何かとお金が必要な時に、生前贈与を実行すると、感謝もされますし、先々の相続税の節税にもつながるので、贈与をしたい(されたい)と考える方が多いと思います。しかし、今回お伝えしてきたとおり、贈与するにも気を付けなければならないポイントがあります。
また、贈与をするタイミングにも要注意です。高齢になればなるほど、『認知症リスク』が高まります。先ほどは「感謝されたい!」ということから毎年必要な贈与を行うことをお伝えしましたが、もし認知症等により意思判断能力が喪失すると贈与できなくなってしまいます。このようなリスクがありそうな場合は、一括贈与制度の活用を検討したほうが良いと思います。
「贈与」は先々の「相続」に深く関与してきます。
そのため、贈与をする前に、資産の現状と、相続への影響(遺産分割、納税財源など)をしっかり把握したうえで進めていく必要があります。資産の把握(不動産等の評価、問題点等の抽出)や相続、贈与の相談については、トータルで相談できる専門家に相談しながら対策をとっていってくださいね。
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現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。