借地権(土地賃借権)取引の実態! ~トラブルが多いその訳とは?~
皆様は「借地権(土地賃借権)」という権利を聞いたことはありますでしょうか?
専門家の方々でも「言葉ぐらいは聞いたことはあるけれども、どんな権利なのかを明確には知らない」という方も多いかもしれません。一般のお客様ならなおさらでしょう。
「借地権」は、面倒くさい、大変そう・・・と不動産業界の中でも言われておりますが、実際にはどんなことが大変なのでしょう?
借地権とは何か?
本記事で取り上げる借地権は、簡単に言うと「建物を所有する目的で、第三者の土地を借りる権利(借地借家法や旧法借地法)」のことです。月極駐車場や資材置き場などの建物所有を目的としない借地権(民法規定)は、今回取り扱いません。
現在、都心区の不動産価格は依然と高騰(高止まりした感あり)しており、特に立地の良い不動産は高値で取引されているため、個人の方も簡単に手を出せない状況にあります。
不動産市場価格が高くなれば、借地権価格も高くなりますが、それでも借地権は所有権の価格より安く購入できます。それは都心部の土地でも同じです(圧倒的に供給数は少ないですが)。
借地権の取引がスムーズに進まない理由とは?
所有権の土地と比べて、借地権を購入する場合は取引がスムーズに進まないケースがあります。よく聞く理由は大きく分けて次の2つがあります。
理由①:借地権売買に関わる登場人物が最低3名以上いる
所有権の土地は売主・買主の2者間での合意があれば契約できます。しかし、借地権の契約の場合は、売主(借地人)・買主間での契約に加えて、土地所有者(地主)の譲渡承諾が原則必要となります。
そのため、売主と買主との間で売買契約についての合意が取れたとしても、地主との折り合いが付かず、売買契約が思うように進まないことがあります。
【借地権の売買取引がスムーズに進まなくなる一例】
・地主が譲渡承諾をしない
・地主が金融機関に対する融資承諾を出してくれない
・譲渡や、建替、条件変更などの各種承諾料が相場より高額(または決まっていない)
【上記のようなことが起こる要因】
・地主と借地人との関係性が良くない
・地代の値上げや更新料支払いについて過去に地主と揉めた経緯がある、または揉めている
・地主は契約期間が満了すれば、借地人の費用負担で建物を取り壊して、借地権は無償で返してもらえると思っている
理由②:金融機関からの融資が受けにくい
通常、金融機関からの融資を受けて不動産を購入する場合、土地+建物の積算評価を行い、土地・建物の両方に抵当権を設定し、融資を受けます。
しかし、借地権の場合は、建物のみが借地人の所有となるため、建物だけに抵当権が設定されます。さらに、借地権は地主の意向に大きく影響を受ける不動産であることと、将来売却をするときにも、所有権物件よりも圧倒的に供給数が少ないため、明確な相場が存在していないことなどから、銀行も融資し難いのが実態です。ですから、満額で融資が出ることはほとんどありません。
つまり、借地権を購入する際には、一定額以上の自己資金が必要になることが多いのです。
初めての借地権取引実務を通じて感じた取引の難しさ
今回、私のお客様が、アパートを建築することを目的として、ある都内の土地(借地権)の購入を検討したときに感じたことをお伝えします。
●地主の考え
・決まった条件があり、それ以外は受け付けない。
⇒各種承諾料が相場よりも高いが、値下げなどの相談すらできない。
●売主(現借地人)等の考え
・価格をとにかく吊り上げしたい。(アパート建築できる借地権のため希少性がある土地)
⇒購入期限を決めることもなく、競合をちらつかせ価格交渉を幾度も行った。
・売主側の不動産会社が借地を理解せず進めたため、情報が正確ではなかった。
⇒堅固や非堅固の判断、承諾料と条件変更料などの各種承諾料の意味合いなど。
上記のような状況のもと、何日もかけ条件が固まり煮詰まってきたところで問題が勃発したのです。
当初より買主は、軽量鉄骨造アパートで契約期間30年(金融機関の融資条件)として土地を借りたいと希望していました。売主側の返事は当初OKでしたが、なんと契約直前でNGの連絡。
売主にその理由を聞くと、『地主側でのルールで、非堅固建物なら契約期間は20年しか原則対応しない。どうしても契約期間30年とするなら、堅固建物とみなし15%の承諾料を支払ってほしい』と地主から返答があったからだとのことでした。
・非堅固建物 譲渡承諾料は更地価格×10%(契約期間20年)
・ 堅固建物 譲渡承諾料は更地価格×15%(契約期間30年)
※現状が木造(非堅固)のため、建替えするとき同じ非堅固なら10%、堅固にするなら条件変更が必要なので上記のように15%と説明を受けていた。
本来であれば、この承諾料は上記のどちらのケースでも売主が負担する売却条件です。
しかし、地主から『軽量鉄骨造は非堅固建物。だから20年・10%が条件』と売主へ提示があった。売主から、これをもって非堅固建物で30年の期間を求めているのは買主の都合だと主張され、差額の5%(数百万円)を買主が負担すべきだとの連絡が契約直前にきたのです。
この点に関して、地主や売主、仲介会社と幾度も協議をしましたが、非堅固で30年というイレギュラーは買主の都合の一点張り。当初から構造や期間などの『買主の都合』を伝えていたにもかかわらずに、です。
結局、買主は土地が欲しい気持ちに変わりがなく、更に数百万円もの負担増を承諾し(収支プランの再検討を余儀なくされ、建築会社や金融機関と改めて協議)、売買契約することにしました。
もっと最初から条件を精査し適正な判断材料を提供できていれば、売主も買主もみな気持ちよく取引ができなのではないかと思います。
揉めないためにはどうしたらよいか
このように、私が経験した借地権取引の失敗から、借地人に対して、次のこと(一例)を最低限、徹底していくことにしました。
□土地賃貸借契約書や更新書類等をきちんと取り交わしてきたかどうか
□地代や承諾料、更新料等の未払いはないかどうか
□過去に地主と揉めたことがあるかどうか(地代、建替え、契約内容等)
□地主の地代や各種承諾料等のルールがあるかどうか(詳細な事項まで設定あるか)
□地主が、借地権の買取を希望しているかどうか
□借地境等の測量や境界確定測量を行う予定があるか
□譲渡承諾料などの各種費用は誰が負担するか など。
借地契約は、20年、30年と長期にわたる契約です。契約した当事者同士が将来「そんなつもりではなかった」と言った事態を減らすためにも、最初の条件を正確に取り決めることがとても重要です。
【遺産相続コンシェルジュからのアドバイス】
底地・借地の取引には、貸す側・借りる側の想いと生活が伴うため、私達専門家はお客様に対してより慎重に入口~将来の出口までを見据えてアドバイスを行って行く必要があります。
また、不動産は所有権の売買が多いため、底地や借地の売買を取り扱っている不動産会社はそれほど多くはありません。借地権についての相談を不動産会社にする場合、まずは適切に内容を理解できる不動産会社なのかどうか、過去に借地権の取引実績があるのかどうかなどを確認することがとても大切です。
私たちプロサーチでは、借地権にかかわる不動産実務や権利関係の調整業務も数多く行ってきました。また、地主さん側のコンサルティング事業を主体としていることから、借地に対する地主さんの気持ちや考えもよく理解しています。
借地人さん側でも地主さん側でも、どちら側の視点からでも的確なアドバイスができるという自負がありますので、借地や底地の件でお困りのことがありましたら、どんな些細なことでもいつでもお気軽にご相談ください。(記:山内綾子)