~平成30年度税制大綱発表!~ 専門家として知っておきたい不動産相続の税制改正ポイントとは

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~平成30年度税制大綱発表!~ 専門家として知っておきたい不動産相続の税制改正ポイントとは写真

新年も明け2018年がスタートし、早1ヶ月!
 
今後の日本や世界の経済や景気、日常がどう変わっていくのか、様々なことが目まぐるしく変化する中で、昨年新たに発表された税制大綱から不動産や相続に関わる重要なポイントをお伝えいたします。
 
 

■小規模宅地等の特例の見直し


1<別居親族の「特定居住用宅地等」対象者範囲の見直し>
 
特定居住用宅地等に該当する宅地等の特例では、被相続人が生前住んでいた自宅敷地について、相続又は贈与により取得した場合に330㎡を限度に、宅地に対して相続税課税価格の80%が減額される。
 
その中でも、被相続人が居住していた宅地を、持ち家の無い相続人が相続した場合でも同上の特例を受けることができる別居親族(よく言われる「家なき子のための特例」)の適用要件が、一部見直される予定となった。
 
現在、別居親族の適用要件の中に「相続開始前3年以内に日本国内にある、相続人又は相続人の配偶者が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがないこと」と言った要件が組み込まれているが、改正案では、次に挙げる者が除外されることとなる。
 

イ「相続開始前3年以内に、次の者が所有する家屋に相続人が居住していないこと」
・相続人又は相続人の配偶者
・3親等内の親族
・その者(相続人)と特別の関係のある法人
 
ロ「相続開始時において相続人が居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある」
<具体的な事例>
(例)
被相続人:お父さん(自宅を所有していた)
相続人:Xさん(長男、同居している子供あり)
Xさんは、居住用不動産の自宅を所有していたとする。
 
① 相続開始4年前にXさんが、Xさんの姪に自宅を売却したが、引き続きその自宅に居住している場合は?
➡Xさんは、売却はしたが相続開始まで引き続き自宅に住み続けているので改正案のイ・ロに該当するため特例の適用はできない。

② 相続開始前お父さんからXさんの子供(孫)へ自宅を遺贈した場合は?
➡今回、孫(3親等内の親族)はXさんと同居しているため特例の適用はできない。
今回の改正では、昨年11月に与党自民党の税制調査会が総会を開催し税制改正の本格的な議論が行われたが、その中でも本来相続人の持ち家があるにも関わらず相続対策のために一旦は親族へ売却や贈与を行い、特例が適用された後に買い戻すと言ったケースが増加していると指摘があり改正大綱の内容に盛り込まれたものと考えられる。
 
この改正案が国会を通過すると、従前の対策内容では小規模宅地等の特例が適用できない可能性も出てくる。小規模宅地等の特例の効果は非常に大きいため、今後もこのような抜け道にフタを閉められることもあるだろう。
そこで我々専門家としては適正な情報提供と併せて、本改正案や今後の動向に留意して対策の見直しをお客様に提案していく必要があると言える。
 
 
2<不動産事業を行っている方に重要な「貸付事業用宅地等」対象範囲の見直し>
 
現在、相続開始の直前において、被相続人のアパートやマンション等の貸付事業に供されていた宅地等の200㎡を限度に、宅地に対して相続税課税価格の50%が減額できる特例がある。
 
改正案では、

「相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等については、特例の対象から除外(ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合を除く)」

となっている。
 
つまり相続開始時からさかのぼって3年以内に新たに貸付を開始した宅地は対象から除外されてしまうことになり、例えば、相続開始の1年前に事業的規模のアパートやマンションオーナーに初めてなった場合は特例を受けられなくなってしまう。
また、相続開始3年以上前より事業的規模(おおむね5棟以上・又は10室以上を貸し付けている場合  ※国税庁HPタックスアンサー参照 NO.1373)で貸付事業を営んでいた被相続人が、相続開始3年以内に新たに他の貸付事業を行った場合は現行通り適用を受けることができる。
 
近年相続税対策として、現預金を(一時的に)不動産へ組換えたり、アパートを建築したりするなどの駆け込み対策が増えたことなどが今回改正する要因だと考えられる。
 

■相続登記に係る登録免許税の見直し


所有者不明土地問題を受けて、

「相続により土地の所有権を取得した者が相続登記をしないまま死亡した場合、その者の相続人が平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に、その死亡した者を登記名義人とするための移転登記に係る登録免許税が免除される」

予定だ。
 
相続登記は義務ではないため、相続登記がされないまま被相続人が死亡するケースが多く、相続登記をするには相続人全員の署名押印が必要となり、相続登記がされないまま時間が経ち次第に関係者(相続人)の数が増え続けることで更に相続登記ができず、土地の売却等ができないことやそのまま放置される状況が続いている。
「所有者不明土地 問題研究会」では、全国約2億3,000万筆の土地のうち所有者不明率は20.3%・土地面積では約410万haに相当する(参考:九州の土地面積約368万ha)と公式発表している。
 
このような所有者不明の土地建物が障壁となり、公共事業が停滞したり土地や家屋の荒廃が進んでいくと、なんと経済損失額が2040年までの累計として6兆円に及ぶといった試算も出ている。これは大変な社会問題として、今回の改正案に盛り込まれたと考えられる。
相続登記を知らない人も多いと思うが、我々は専門家として今まで通りお客様に相続登記の必要性をアドバイスしていくことが求められる。
 

■農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の見直し


生産緑地法の改正を受けて、生産緑地について農地等の納税猶予制度の見直しが行われる予定だ。
 
・一定の貸付けがされた生産緑地に対して相続税の納税猶予の適用拡大。
・三大都市圏の特定市以外の生産緑地については、20年の営農継続することで猶予中の相続税が免除されていたが、終身の営農継続が要件へと見直される。
・特例農地等の範囲の拡大として、「納税猶予の対象となる農地に「特定生産緑地」である農地、田園住居地域内(都市計画法の改正により新しく追加される予定の用途地域)の農地」が追加される。


 
皆様ご存知のとおり、この生産緑地については「2022年問題」として最近よくセミナー等で見かけるようになった。改正案にも出ている。
 
簡単にこの問題をお伝えすると、生産緑地指定後30年が経過すれば、生産緑地を解除する手続きができるようになる(市町村に買い取りの申出をし、買い取らない旨の決定が必要)。
1992年に生産緑地に指定するかどうか踏み絵を全国一斉に行ったため、生産緑地に指定した農家が30年後の2022年に一気に解除すると推測されている(農業従事者の高齢化、後継ぎ不在などが要因)。
それにより宅地供給が過剰となり不動産価格が下落するというのが問題として挙げられており、そういった背景の中、改正案では生産緑地指定から30年経過が近づいた農地について、農地として保全することが有効であるものを市町村が「特定生産緑地」として指定し、買い取りの申出をすることができる時期を10年間先送りにするという制度が盛り込まれた。
 
30年経過後の買い取りの申出を減少させ農地保護の強化を行っていく方針や、現行の市街化区域では生産緑地を除き宅地化を規制する定めがないため平成30年4月より新たに「田園住居地域」と言った住居系用途地域が加わる予定となっているが、共に2022年問題の対策として今後の住居と農地としての利用均衡を図り混乱が起こらないように急ピッチで整備しているのだろう。
生産緑地指定している畑を所有している方は今後も関連情報に留意することが必要だ。
 

平成30年度 税制改正大綱を踏まえて

小規模宅地等の特例(特定居住、貸家)の適用要件の厳格化は、平成27年の基礎控除額引き下げに加え、ボディーブローのように効いてくるだろう。課税対象者が更に増え、富裕層だけではなく一般家庭への相続税課税強化という流れを加速させるものだと思われる。
 
そして我々専門家として忘れてはいけないのが、相続税節税効果が非常に高くいまだ熱を帯びている高層マンション購入のこと、生前贈与による節税も昨年から各方面でひっきりなしにセミナーが開催されていることなどを考えると、ここに更に厳しい網がかかるのは時間の問題だということだ(消費税増税を控え、相続税に関係のない一般大衆向けのパフォーマンスとしても)。
今回の改正案で対策の見直しを迫られるお客様も数多くいるはずだ。専門家としてはこれら情報のキャッチアップと、対策リカバリーをしていく必要がある。
 
このような増税改正案が出ると必ず起こることがある。
膨らみ続ける相続ビジネスの大きな波に乗ろうとする、自分目線で目先の利益を追求する方々が増えることだ。いまも単発的で自社商品の提案をしないところが増え、このような改正案のことさえ商品売込みのキーワードに使っている(不安を煽る手法)。
メルマガ読者の専門家の方には、ぜひ自分のお客様を守るためにもこのような他社商品をよく見ておいてほしい(聞こえのイイ商品なだけにお客様は飛びつくので)。
 
我々が今後目指す(求められる)のは、相続というワンシーンだけではなく、『お客様の家族』単位で考え先々まで見据えた家族(事業)承継として取り組みを行っていくというところである。
 

【遺産相続コンシェルジュからのアドバイス】


相続時の富裕層への課税強化の流れは年々強まり、様々な改正が行われています。
お客様も専門家も「以前はこの内容で大丈夫だったのに!」「改正後にも適用できる方法はないのか」という、そんなまさか!という事態が増え続けていくのは間違いありません。単発的な節税対策の提案ではきっと袋小路にぶつかり、このような問題が起こります。
お客様の資産全体の把握、現在・将来のニーズを確認し、節税だけにフォーカスした提案内容にせず、目まぐるしく変わる経済情勢も意識しつつ、『将来にわたり資産価値を上げること』など目的を明確にして提案をしていくことが求められるでしょう。
 
プロサーチでは2018年も引き続き相続・不動産コンサルタントとして皆様、そして皆様のお客様へ役に立つ情報発信を行ってまいります。(記:山内綾子)
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