家族信託を組成しただけで安心して大丈夫!? 子(受託者)に伝えるべき大切なこと

Pocket



家族信託を組成しただけで安心して大丈夫!? 子(受託者)に伝えるべき大切なこと写真

今回は、家族信託を検討するときに必ず考えてもらいたい大切なことをお伝えしたいと思います。
 
当社が家族信託を取り組み始めたときは、まだ情報発信しているところも少なく、こちらから提案をして初めて知る方ばかりでした。しかし、昨年あたりから新聞や雑誌、セミナーなどで家族信託を見かけるようになり、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。今では、毎月のように様々な業界の方から家族信託セミナーの講師依頼や家族信託にかかわるご相談をいただく状況にまで変わってきました。
 
ただ、このような広がりを感じる一方で、専門家は家族信託をしっかり理解して提案できているのか?と感じる場面に遭遇することがあります。
 
例えば、
“とりあえず家族信託を組成しておけば親が意思判断能力を喪失しても大丈夫”
とまずは家族信託契約をすることを最初に提案している専門家も多いように見受けられますが、家族信託の最終目的は、自分の財産を信頼する家族(例えば子供を受託者)に託し、万一の時でも円滑に財産管理・承継ができるように今から準備しておくことです。
 
では、家族信託の契約をしただけで、将来、親の意思判断能力が喪失したときに、受託者である家族は財産管理の承継をスムーズにすることができるのでしょうか。
 

家族信託契約の締結だけで家族の希望は叶うのか?


 
それでは家族信託を活用するにあたり大切なことは何かを、次の事例を基に考えてみたいと思います。 
 
【家族構成等】
・家族構成 父70歳(ご相談者)、母68歳、子38歳(サラリーマン)
・築古アパートを世田谷区に3棟所有している
・アパート管理は父だけで行っている
 
 
 
ご相談者様は、家族信託のことを相続セミナーで知り、自分たちの家族の場合でも使えるのかという内容のご相談でした。
 
 

「アパートの管理を徐々に子供に任せたい」
「自分の死後も妻の生活を守りたい」
「元気な今、相続税(節税)対策を進めたい」
「いつ認知症や病気で意思判断できない状況等になるかわからないから、そのとき財産のことで家族に迷惑をかけたくない」

 
などの希望が出てきました。
 
父「家族信託を使うことで、アパート管理はどのようなことができるのですか?」
 
⇒A)信託で定める内容にもよりますが、基本的には賃貸契約やリフォーム、建て替え、売却など、アパートの運営管理に関わるすべてを、お父さんの意思判断能力が喪失しても受託者が代わりに行うことができます。
 
父「それなら、私に万一があっても子供が継続してアパートの管理ができるんだね。」
 
子「今までアパートの管理をやったことがないから不安もあるけど、将来、何もできなくなるのは避けたいし、自分たちの意思判断で継続して管理ができるのはいいね。」
 
こうした話の中で、将来の万一に備えられるならと家族全員が納得し、家族信託契約に進むことになりました。
 
これでまずは一安心と言いたいところなのですが、家族信託契約の締結だけで、本当にこの家族の希望が全て叶えられることになるのでしょうか。
 

家族信託を締結したから安心ではない

 
ではこの家族の場合、もしも、将来お父さんの判断能力が喪失してしまったとき、受託者である子はアパートの管理運営をしっかりと行えるのでしょうか?
 
アパートの運営管理では、賃貸の募集条件設定、空室対策、管理会社への対応、更新対応、家賃督促、苦情対応、各種発注・支払い、リフォーム、税金支払い、確定申告対応、関係者対応など、挙げだしたらきりがないほど多岐にわたりやるべきことがあります。
 
ところが受託者である子は今まで一度もアパートの運営管理に携わったことがありません。もしも家族信託の契約を締結しただけで、お父さんが今まで行ってきたアパート管理のノウハウを受け継いでいなかった場合、受託者である子は手探りで一から始めなければなりません。そしてサラリーマンであり本業の仕事もある子は、アパート管理に相当な負担を強いられることになると容易に想像できます。
 
これでは「財産管理(特にアパート管理)のことで家族に迷惑をかけたくない」というお父さんの希望は、家族信託契約を締結しただけでは叶えられたとは言えないのではないでしょうか。
 
自分に何かあったときを考え、できる限り具体的に受託者となる人に財産管理のことを伝え、教えないと本来の家族信託の目的の達成のために受託者がとても苦労してしまう結果にもなりかねません。ですから家族信託の契約を結ぶだけでなく、お父さんが元気なうちに子供と一緒に管理を行うことが重要なのです。
 
世の中では家族信託がもたらす効果ばかりが情報として謳われていますが、家族信託契約を締結することがゴールではありません。
 
わたしたち専門家は、家族信託を財産管理などで最大限効果を発揮させるために、ただ単純に財産を託すという行為だけでなく、”財産管理の具体的なノウハウや方法”も、きちんと形にして伝え託していくようにアドバイスする必要があると思います。
 

遺産相続コンシェルジュからのアドバイス


今回は、アパートを信託した場合をピックアップしましたが、底地や借地、空家、畑など不動産ごとに異なる財産管理の仕方を整理し、しっかりと受託者に伝える必要があります。託す側のことばかりに目が行きがちですが、託された側のことも、もっとフォローしていく必要があると思います。
家族信託で信託されることが多い不動産について、今回のメルマガでお伝えした、どのように管理するのか?必要な情報等は何かなど困ることや確認したいことがありましたら、いつでもプロサーチまでお問い合わせください。プロサーチでは、日々様々な不動産(底地や借地、畑、マンションなど)の知識知恵を集積しコンサルティングを展開しています。(記:松尾企晴)
Pocket

無料冊子ダウンロード
無料冊子ダウンロード