平成29年度税制改正大綱から読み取る!不動産・相続に関わる3つの改正ポイント
2016年12月8日、与党より『平成29年度税制改正大綱』が公表されました。
今回の税制改正大綱において、地主さんや不動産所有者に影響する「不動産」に関わる税制についての3つのポイントを上げてみました。
ポイント①タワーマンションの課税見直し 節税に対する課税強化への一歩!?
(1)①高さが60mを超える建築物(建築基準法上の「超高層建築物」)のうち、複数の階に住戸が所在しているものについては、当該居住用超高層建築物全体に係る固定資産税額を各区分所有者にあん分する際に用いる当該各区分所有者の専有部分の床面積を、住戸の所在する階層の差異による床面積当たりの取引単価の変化の傾向を反映するための補正率により補正する。
「平成29年度税制改正大綱」P43(固定資産税・都市計画税)より
簡単に言うと、いわゆるタワーマンション(イメージ、階数20階以上)への固定資産税額(都市計画税額)および不動産取得税の課税に対して補正率が導入されることにより、固定資産税額(都市計画税額)および不動産取得税が高層階ほど高く、低層階ほど低くなります。
どちらも平成30年度から新たに課税されることになります。(平成29年4月1日以前に売買契約が締結された住戸は除く)
税制改正大綱の文章だけで読み取れば、建物の固定資産税評価額に対しての補正ではなく、あくまで固定資産税額そのものに対しての補正という風に読み取れます。
ということは、今回の税制改正大綱の文章を読む限りにおいては、相続税を計算する際のタワーマンションの評価に対しての補正までは、まだ言及されていないとも言えます。
ただ、固定資産税(都市計画税)および不動産取得税が実際の取引価格に応じて課税強化されることになったということは、いずれ近い将来、相続税評価も同様に時価に対応した評価へ見直し、課税強化をしていくことになるでしょう。
わたしたち専門家の立場としては、相続対策でのタワーマンションへの資産組換を提案する際には、今回の課税強化の動きも踏まえて、今後の課税傾向、将来のリスクまでもしっかりとお客様に説明をして納得してもらった上で、実行すべきでしょう。
ポイント②広大地の相続税評価の見直し
今回の改正で地主さんにとって、最も大きな影響を及ぼすものがこの「広大地の相続税評価の見直し」です。
現行の制度では500㎡以上(あくまで面積基準)の土地に対し、広大地が適用になれば相続税評価額が約半分近くにまで減額できることが認められています。
私が過去にお会いした地主さんでも、「広大地」が適用できるか否かで相続税が1億円以上も変わってしまう方もいました。
今回の税制改正大綱では広大地の見直しについて以下の記載がされています。
「平成29年度税制改正大綱」P61(国税)より
細かい計算方法などはまだ定められていませんが、例えば、今までの基準であれば広大地評価で約半分の評価額とすることができたまとまった土地であっても、間口の広い土地などでは、開発のために新たに道路を作る必要がないケースもあるため、今まで通りの大幅な減額効果が見込めないケースも出てくるかもしれません。
現行法どおり広大地が取れることを前提に相続対策の組み立てをしていくと、改正後に大変な思いをすることになるかもしれません。詳細はまだわからない部分も多いですが、専門家としては注意深く進捗を観察し、最新の情報をお客様にお届けしていきましょう。
ポイント③生産緑地法改正の布石?
「平成29年度税制改正大綱」P61(地方税)より
政府与党は市街化区域内の農地で税制優遇を受けられる「生産緑地」について、現行の面積「500平方メートル以上」の指定要件を「300平方メートル以上」に引き下げる方針を決めています。小規模でも生産緑地に認定することで、都市農地の減少を食い止める狙いがあるためです。また、生産緑地内にレストランや販売所を設置できるよう法制度の改正も進めています。
平成26年の市街化区域内の農地に占める生産緑地の面積は17.7%と、平成25年の10.5%に比べ増加しました。少子高齢化で農地を宅地へ転用する動きが鈍化し、税制優遇される生産緑地を利用する例も増えています。
政府は生産緑地の指定条件を緩和すれば、「東京23区内の市街化区域の農地のうち約7~8割が生産緑地の対象になる」(政府関係者)と試算しています。その一方で生産緑地については「2022年問題」と言われる大きな問題が潜んでいます。
生産緑地は指定から30年経過したとき、あるいは所有者が死亡または農業従事できなくなった場合に、所有者は市町村に対し買い取りの申出を行うことができ、市町村は特別な事情がない限り、時価で買い取らなければならないと定められています。しかし、主に財政負担が難しいという事情から、これまでに申出を受けて市町村が買い取るケースはほとんどありません。
1992年に最初の指定を受けて30年が経過する2022年以降、一斉に買い取りの申出が行われた場合、同様の理由で大部分が買い取られず、その結果、生産緑地の指定が解除されて宅地化が進む可能性が非常に高いと考えられています。
そうすると、どういうことが起こるのでしょうか?現行の法律のままですと、生産緑地指定から30年経過後の2022年に、もう農業を続けることが厳しいと判断した土地所有者(2011年時点の生産緑地の農業従事者年齢データによると、65歳以上が45%。つまり2022年には農業従事者全体がより一層高齢化していますから、相続のことも踏まえて土地活用の検討をするでしょう)たちが、一気に土地を手放す可能性があります。
現在、東京都だけでも約3,300ヘクタール(坪数にして何と1,000万坪)もの生産緑地が指定されています。もし仮にそのうちの20%(200万坪)でも、一気に市場に出たらどうなるのでしょう?その時は、土地の地価は大きく下落し、生産緑地だけに限らず周辺の土地も含め、思っているような価格での土地の資金化(売却)や有効活用の検討が難しい状況になりえるかもしれません。
こうした問題もあるため、政府としては後継者不足などで営農継続が厳しくなった所有者を考慮し、農業への従事を希望する人に生産緑地を貸す場合の相続税の納税猶予の適用なども検討をしていくようです。
どちらにしても、生産緑地法が現行の制度のまま進んでいった場合には、農地所有者だけに限らず、土地を所有する多くの人にとって将来、大変な状況になる可能性があり得ます。今回、生産緑地法の改正が税制改正大綱に盛り込まれたことを見ると、やっと政府もこの問題に重い腰を上げたような気もします。
特に生産緑地を所有している方は、農業の継続のこと、後継者のこと、相続のことを今から真剣に考え、家族と方針を決め、2022年問題を見据えた上でしっかりとした準備をしておくことが大切です。
わたしたち専門家としては、もし農地を所有しているお客様が身近にいるのであれば、生産緑地の2022年問題のことをちゃんと伝え、生産緑地法の今後の動向にも注目し、6年後に向けて今から家族全員で準備をしていくことを提案すべきでしょう。
遺産相続コンシェルジュからのアドバイス
今回の税制改正大綱では、一般の人にとって「相続税」に対してすぐに大きな影響を及ぼす改正内容は少なかったように感じます。しかしながら、まとまった土地を所有する地主さんにとっては、広大地の相続税の評価の見直しはとても大きな増税になり得る可能性があります。また農地や生産緑地を所有する農家さんにとっても、将来を見据えて今からしっかりと準備をしておくことを警鐘している税制改正大綱だと思います。不動産や相続を扱う専門家の立場としては、こうした動きの中からも、お客様にとってすぐに直接影響を及ぼすもの、将来的に影響を及ぼす可能性があるものを整理して、正確な情報をお客様に伝えるべきです。そして今までの税制改正の動きを見ていても、不動産所有者に対して、今後は相続税を増税していく傾向であることは間違いないでしょう。そう考えると不動産の相続対策を検討するにあたって、時期が早いに越したことはありません。お客様のためにも早い決断をしてもらえるように、わたしたち専門家も最新の情報にアンテナを張り巡らし、常に正確でわかりやすい情報提供をし続けていく努力が必要だと思います。
(記:髙橋大樹)