Vol.1 知らないでは済まされない!売れない負の不動産が抱える問題

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Vol.1 知らないでは済まされない!売れない負の不動産が抱える問題写真

祖父母や親は財産だったが、子たちは使わないので要らない。
 
売りたくも売れず、相続トラブルの原因の一つになっている田舎の土地や建物の処分は、お客さまも専門家も頭をかかえ困っていました。
 
2023年4月にスタートした「相続土地の国庫帰属制度」は、売れず困っている田舎の不動産の処分の画期的な方法として期待されています。
 
しかし、実際の運用面ではいくつかのハードルがあり、条件次第では多額の負担金が必要となるなどの留意点もあります。

売れない不要な不動産はどのように処分していけばいいのか
保有リスクはどのようなものがあるのか?

 
などをこの分野に取り組みしている弊社がその問題点や事例を紹介しながら、全5回のシリーズで解説します。
 
売れなくて困っている、相続させたくない(したくない)と考えている方はぜひ読み進めてください。
 
今回のポイント

・売れない負の不動産の環境
 
・土地神話の崩壊と親と子の世代間ギャップ
 
・負の不動産の5つの問題

 

 売れない不動産がもたらす問題


 
「相続した山林を処分したいです。どうしたらいいですか?」
「不動産会社もお手上げの別荘地があります。手放す方法はありませんか?」
 
このようなご相談を毎月50件以上受けています。
 
すぐに売ることも貸すことも有効活用することもできる不動産なら、不動産会社も両手を挙げて迎い入れてくれますよね。
 
しかし、欲しい人が少ない処分に困る不動産(以下、「負動産」という)のときは、不動産会社も困りますから、その両手を下げ、精力的な活動を期待するのは難しいでしょう。
 

  “負動産”の環境

売れない貸せない不動産を取り巻く環境は厳しく、お客さまは「手放すことができないのか…」と、途方に暮れ諦めています。
 
たとえば、

・過疎化が進んでいる空き家状態の実家
・原野商法(詐欺)で購入した原野
・耕作放棄状態の田畑
・人がほとんど住んでいない雑木林状態の別荘地

 
などの不動産です。
 
価格も低く売れない不動産は、
真剣に手伝ってくれる不動産会社が少ない
という厳しい現実があります。
 
そして、倒壊の危険がある、屋根や壁に穴が開いたまま等の空き家を放置し続けると、固定資産税評価額の優遇を受けられなくなり(固定資産税評価額が6倍へ)、これによる税額への影響は、単純計算で約4倍に増えます。
また、欲しくない不動産でも、相続登記が義務化(2024年4月1日施行)されるため、手続きしなくてはならなくなります。
 
取り巻く環境は厳しくなる一方です。
 

 土地神話の崩壊と 親・子の世代間のギャップ

1990年代までの不動産は、人口が増え続けていたため建てればすぐ借り手が付き、売ろうと思えば購入した価格より高く売れていました。しかも日本全国の不動産が、です。
このことから、土地は富を生む土地神話とも呼ばれていました。
 
しかし、いまは逆です。
バブルの崩壊とともに資産デフレが続き、日本人の人口も減り続けています。
 
中心都市を除き、日本の多くの土地は、借りても買い手も少なく、土地を持っていても高く売れず、税金や管理手間などの負担ばかりのイメージが付着してきました。
 
土地神話は崩壊し、子世代は相続したくない負の不動産となってしまいました。
 
親は土地神話、子は廃棄対象と、親世代と子世代とで不動産に対する考えが大きく異なり始めたため、親はとにかく残したい一心ですが、相続した子は、売れず手放すことができずに悩み、様々な問題に直面しています。
 

※不動産に対する世代間ギャップ(弊社私見)
 

 “負動産” 5つの問題点

次に、負動産を所有するお客様が抱えている代表的な5つの問題点をお伝えします。
 

(1)相続のたび費用がかかる
(2)遺産分割で押し付け合う、共有になる
(3)固定資産税や管理費の負担
(4)詐欺の対象となる
(5)崖崩れや倒壊等による所有者の管理責任

 
ひとつずつ見てきましょう。
 

(1)相続のたび費用がかかる

不要な負動産でも相続の度に費用が掛かります。
 
たとえば相続税がかかる方であれば、不動産の相続税評価額×相続税率の税負担があります。
また、相続登記の義務化により、相続登記費用の負担も必ずかかります。相続登記報酬(10万円~※司法書士報酬)、登録免許税(税率1000分の4※評価額により免税あり)といったものです。
 
これら費用は一代だけをみると大した費用ではないでしょう。しかし、手放せない限り、子世代や孫世代も続いてきます。
 

(2)遺産分割で押し付け合う、共有になる

使い道もない負動産は誰も欲しくないわけです。ですから、いざ遺産分割の場面で相続人間にて押し付け合うなどしばしば問題に発展してしまいます。
 
話し合いがつかないと「とりあえず不動産を共有する」こともあります。
共有する意図が後ろ向きですと、いずれ責任の押し付け合い、いざというとき意見まとまらず動かせない(≒塩漬け)状態になってしまいます。
 
共有者が高齢になると認知症による資産凍結問題もあるでしょう。
 
このように誰も欲しくないからと不動産を共有することは、問題を深刻化することにつながりますので、単なる問題の先送りでしかありません。
 

(3)固定資産税や管理費などの負担

不動産は持っているだけで様々な費用負担があります。
・固定資産税、都市計画税
・維持管理の費用(別荘地の管理費や、植栽剪定など)
・火災保険料 など 
 
山林や別荘地、地方の実家などに係る費用は、年間1万円から5万円くらいと金額的にみると大きな負担ではないかもしれません。
 
しかし、売れない貸せないまま放置していたとして、祖父母の代から孫の代まで所有し続けるとなるとそうはいっていられなくなります。後ほど事例でお伝えします。
 

(4)詐欺の対象になりやすい

売れない、子に残したくないと悩んでいる不動産所有者を狙った詐欺があります。
 
不動産ブローカーと名乗る者から「買い手がいるから調査料50万円かかります」、「売るにはまず測量をしないといけません。測量代30万円ください」と連絡がくることがあります。
 
最近では、「売却活動のため看板設置費用として30万円かかります」と、30万とか、50万円とか現実的に支払えそうな金額を提示してきます。
 
このような甘い話は怪しいと思ってください。
お金を支払ったら最後、そのまま連絡が取れなくなってしまいます。
 
『お金の先払いには気を付けろ』です。
 
売れなくて困っている方の【なんとか手放したい!】という希望や弱みに付け込んだ詐欺である可能性が高いため、そのような場面に出くわしたら、弁護士などの法律の専門家や、不動産会社に相談する、一緒に立会いをしてもらうと言い、その姿勢を崩さずに貫いてください。
※独立行政法人国民生活センターでも警笛を鳴らしています。
 

(5)所有者の管理者責任

空き家や山林でも、所有者として管理義務や事故など有事の際の責任があります。
 
例えば、空き家は、放火による延焼や外壁が倒れて通行人が怪我を負うなどすれば、例えその家を利用していなかったとしても責任を取らなければなりません。
 
自宅から空き家までの距離が近くならまだしも、遠方の場合には直ぐに駆けつけられませんから、迅速な対処ができず被害が大きくなることもあるのです。
 
その他、山林でも土砂が流出し、道路、自動車、通行人や家屋などの財産に損害を与えてしまうと所有者責任などを追及されることがあります。
 
空き家や山林などであっても、このように所有しているだけで責任が付いてまわるということを知っておきましょう。
 

事例 子も孫も使う予定もなく売れない山林

【前提条件】

・相続税評価額10万円
・固定資産税0円
・相続税率30%
・祖父が現在70歳、子(40歳)や孫(10歳)がいる

 
1)祖父:80歳で相続発生 
2)子の代:50歳で相続して、子も祖父と同じく80歳で相続発生した場合
  ・相続税3万円
  ・相続登記報酬10万円
  計13万円
3)孫の代:子の代と同じ13万円
 
このご家族は祖父母の代から子の代まで税金を合計で26万円負担することになります。
この他に日常的な管理にかかる費用があると更に負担が増えます。
 
固定資産税なしなので負担を考えれば気に留めるものではないでしょう。
 
しかし長い期間で考えてみると、相続の度に、相続登記費用10万円、相続税3万円(その時の遺産総額による)がかかりますし、遺産分割協議などの手続きが必要です。
 

 まとめ

 
売れない土地建物には、このような問題が山積みされています。
売れるのであれば心配は大きく減りますが、売れないとずっとそのことが頭を離れません。
 
相続放棄や相続税の物納など売れない不動産を手放す手段はありますが、プラスの財産も相続できなくなるなど実際に使う方は極少数です。
 
このお客様の問題の解決につながる、『相続土地の国庫帰属制度』がはじまっています。
相続放棄のように全財産を放棄するのではなく、土地だけを手放せる画期的な、救世主となり得るのでしょうか。
 
次回は、「相続土地国庫帰属制度」についてお伝えします。
 
〈執筆者〉プロサーチ株式会社 代表取締役 松尾 企晴(まつお きはる)
 
 

監修者
公認会計士・税理士 石倉英樹
【相続税専門】石倉公認会計士事務所
ホームページ https://ishikura-cpa.jp/
 
相続税専門の公認会計士/税理士 兼 社会人落語家。
有限責任監査法人トーマツにて上場企業の監査業務に従事したあと、コンサルティング会社においてベンチャー企業の上場支援を担当。
2013年に独立し、現在は相続専門の石倉公認会計士事務所を運営する傍ら、警察署・金融機関・大手不動産会社からの依頼に基づき社会人落語家「参遊亭英遊」として「落語でわかる相続セミナー」などの講演活動を日本全国で行っている。
講演実績は300回を超え、テレビ・新聞・ラジオでも話題に。
近著に『知識ゼロでもわかるように 相続についてざっくり教えてください』(総合法令出版)。『税金のことが全然わかっていないド素人ですが、相続税って結局どうすればいいのか教えてください! 』(すばる舎)がある。
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