【令和4年度 税制改正大綱】不動産相続の専門家が押さえるべきポイントとは?
昨年12月10日に、令和4年度の与党税制改正大綱が発表されました。
前回の令和3年度では相続税と贈与税の一体化について述べられていて、相続時精算課税制度や暦年課税制度の改正があるのでは、と話題になりましたね。
さて、今回の税制改正大綱は一体どのような改正だったのでしょうか。
今回は、令和4年度の税制改正大綱の中から、本記事を読んでくださっている専門家の皆様の多くに関係する『不動産・相続』に絞ってご紹介いたします。
(なお、税制上の特例の期限延長のみの改正案については触れません)
特にお客様へお伝えいただいたほうがいいポイントをお伝えいたしますので、ぜひ最後までご覧ください。
本記事のポイントはこちら。
・令和4年度の税制改正大綱で押さえておきたい3つのポイントは、①住宅ローン控除の改正 ②固定資産税の見直し ③住宅取得資金贈与の見直し
・改正案を踏まえて、お客様へ伝えたい3つの対策は、①不動産オーナーの収益改善 ②生前贈与の種類や効果を把握する ③財産管理の手段を提供する
令和4年度 税制改正大綱
そもそも税制改正大綱とは何か、皆様ご存じでしょうか?
税制改正大綱とは、政府の各省庁から上がってきた税制に関する要望をまとめ、翌年度以降の法律改正のたたき台として示したものです。
この時点ではあくまでたたき台ですので、その後、このたたき台をもとに本格的に法案が作られ、3月頃に国会で審議され可決されます。そのため、施行は大綱発表の翌年の4月以降になることが一般的です。
これが、税制改正大綱の発表から施行までの流れです。
税制改正大綱が発表される前から各省庁で審議されてきていますから、国会で覆されることは少ないと言えます。
とはいえ、専門家としては、3月の国会で通過したかどうかのチェックは怠らないようにしたいところです。
不動産相続の専門家が押さえておきたい
3つのポイント
令和4年度の税制改正大綱はどのような内容だったのでしょうか。
今回は、相続を扱う専門家の間では、地味な税制改正大綱だったと言われています。
贈与税と相続税の一体化に向けた改正、暦年贈与の縮減又は廃止、相続時精算課税制度の見直し等が盛り込まれると予測されていましたが、それが無かったからでしょう。
もし改正となれば、暦年贈与の110万円の非課税枠を使った生命保険の相続対策(親を被保険者、子を契約者とする生命保険に加入する、この生命保険金の支払いの足しに現預金110万円以内を親から子に贈与する)などに影響が出ます。
つまり、これまで一般的だった相続対策が難しくなるということです。
この点については、今後も目が離せませんね。
ただ、現時点では暦年贈与等は改正されていませんから、子や孫への現金等の贈与を考えているお客様には、「110万円の控除がある今のうちに贈与税を抑えて贈与しましょう」と伝えてみてはいかがでしょうか。
それでは、不動産と相続に関わる専門家として、今回の税制改正大綱で押さえておきたい3つのポイントはこちらです。
②固定資産税の見直し(評価額の上昇率の上限)
③住宅取得資金贈与の見直し(非課税枠、対象建物等)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①住宅ローン控除の改正
ご存じの方も多いと思いますが、住宅ローン控除とは、マイホームの購入や増改築をする際に住宅ローンを借り入れた場合に年末のローン残高の1%分(最大40万円)が所得税から控除され、且つ控除しきれなかった分は13万6500円まで住民税から控除されるというもので、マイホームをお持ちだと利用されている方が多いでしょう。
正式名称は『特定増改築等住宅借入金等特別控除』ですが、漢字ばかりで覚えにくいため、馴染みやすい言葉で『住宅ローン控除(減税)』などと呼ばれています。
改正内容
今回の改正内容は以下の通り。
・所得税から控除される際の「減税率」を1.0%から0.7%に引き下げ
・2023年末までに入居する新築住宅の減税期間は、原則10年から13年に延長
※中古住宅は10年のまま変わらず
・省エネなど住宅の環境性能に応じて減税枠を拡大
・築20年という制限は無くなり、昭和56年5月31日以降に新築された建物は使えるようになった
※昭和56年5月31日以前築の建物でも耐震基準を満たせば使える
改正のきっかけとなったのは、住宅ローンの長引く低金利です。
現在の住宅ローンの金利は、変動金利で0.3%のところもあり、これまでの控除額(1.0%)との差が逆ザヤになってしまっていたため問題視されていました。
そのため、市場の金利に合わせた是正と言えるでしょう。
住宅市場への影響
この改正による住宅市場への影響は限定的と考えています。
減税率や所得の上限引き下げを見ると住宅ローン控除の縮減のインパクトが大きいですが、新築に関しては減税期間や対象住宅の拡大もあり、改正後の方が物件によってはお得(控除額が多くなる)なケースも存在するからです。
(例えば新築の認定住宅の場合、最大の減税額は現行を10万円近く上回ります)
そのため、ローンの借入額と支払っている所得税、購入する住宅の性能から、お客様が受けられるローン減税額を試算してみることが大切です。
住宅の購入を考えているお客様には、「住宅ローン控除が使えるのは令和7年末まで」であることをお伝えし、ライフプランの策定、資金面のアドバイス(借入金、贈与など)をしましょう。
期限延長の4年後、住宅ローン控除は廃止されるのか?
それでは、4年間の期限延長後に、住宅ローン控除はどうなるのか?
私は、経済の状況と脱炭素化がポイントではないかと考えています。
住宅ローン控除は、マイホームの購入を後押しし、大きな消費活動が生まれます。
景気刺激策として有効な手段の一つですから、期限を延長するかどうかは、今後の経済状況次第かもしれません。
もう一つ、政府は脱炭素の日本を目指しており、不動産分野においては省エネ・低炭素の住宅(以下、「認定住宅等」という)の普及を進めています。
政府として、認定住宅等を増やす目的で再延長するというのは有り得そうですね。
ただ、もし再延長するのであれば、認定住宅等のみを対象としたり、控除額等に大きな差をつけたりするなど、対象を絞る可能性も考えられます。
これまでも延長され続けてきた住宅ローン控除ですが、期限延長するときには要件が変わってきています。
今後、マイホーム購入を検討する方は、認定住宅等を検討対象に加えることが必要ではないでしょうか。
②固定資産税の見直し
固定資産税とは、毎年1月1日現在の土地や建物(償却資産も)の所有者に対して、市区町村より課される税金です。
この固定資産税は、固定資産税評価額を基に計算される課税標準額から算出され、固定資産税評価額は3年に1度その評価額が見直しされています。
固定資産税評価額は、固定資産税や都市計画税を算出するときの基準価額ですが、その他に建物の相続税評価額を算出するときにも使います。
なお、土地の相続税評価額は、路線価が付されている地域は路線価で算出しますが、路線価が付されていない地域(倍率地域といいます)は、固定資産税評価額に一定割合を乗じて算出することになります。
固定資産税評価額を知りたい場合は、毎年届く“固定資産税納付書”に綴られている課税明細書の“評価額”を確認するほか、市区町村の役所や都税事務所で固定資産税評価証明書(有料)を取得して確認するなどの方法によって知ることができます。
昨年2021年は、その3年に一度の評価替えがおこなわれる年でしたが、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の影響で打撃を受けた者を支援する目的で、評価額が上がった場合でも、2021年に限り固定資産税額を据え置くという措置がされました。
では、2022年の固定資産税等はどうなるのでしょうか。
改正内容
今回の改正内容は以下の通り。
・課税標準額の上昇率の上限
商業地は5%から2.5%に軽減
住宅地や農地等はこれまで通り5%とする
課税標準額が段階的に上がってくるので、その分、固定資産税(都市計画税も)の負担が上がります。
2022年度の固定資産税納付書は要確認、とお客様にお伝えください。
次回の評価見直しは2024年
次回、2024年の評価替えで固定資産税の負担が上がるのは、都心部などの土地でしょう。
都心部ではコロナ禍でも不動産価格の上昇が続いていて、場所によってはバブル期を超えています。このまま地価の上昇が続くと、間違いなく固定資産税評価額は上がります。
これから特に意識していただきたいことは、収益不動産のキャッシュフローの改善です。
不動産オーナーにとって、納める税金の原資は賃料収入です。
コロナ禍が長引くと、その影響を受ける場所の不動産は空室が埋まらず、賃料交渉などで賃料収入が減り続けます。
しかし、固定資産税等の税金は上がる、という悪循環に陥るのではないでしょうか。
その時になって困らないように、収入を増やす、支出を減らす工夫をしていくことが重要です。
特に対策が必要なのは、主要都市で商業エリアに不動産をお持ちのお客様でしょう。
③住宅取得資金贈与の非課税枠の見直し
『住宅取得資金贈与の非課税の特例』とは、住宅を購入する際に、祖父母や両親から購入資金を援助(贈与)してもらう際、一定金額までの贈与税を非課税にできるものです。
改正内容
今回の改正内容は以下の通り。
・贈与の非課税枠の見直し
①耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋:1,000万円
②上記以外の住宅用家屋:500万円
※現行よりそれぞれ500万円ずつ減少
・中古住宅の場合の築年数要件が廃止
昭和56年5月31日以降に新築された建物なら使えるようになった
※昭和56年5月31日以前の建物でも耐震基準を満たせば使える
・受贈者の年齢制限見直し(20歳以上 ⇒ 18歳以上)
改正における影響について
改正前より、それぞれ500万円ずつ非課税枠が下がってしまっているため、マイナスの印象を受ける方も多いかもしれません。
しかし、住宅取得資金贈与の利用状況において、これまで1000万円以上の贈与を受けるケースの方が少なく、贈与利用者数と贈与額で見た平均贈与額は『1000万円未満/件』のため、利用状況に沿った改正と言えるかもしれません。
(参考:一般社団法人 不動産流通経営協会「不動産流通業に関する消費者動向調査」)
(参考:国税庁「統計年表」)
それ以上に、築年数の要件撤廃(新耐震基準を満たしていること)と受贈者の年齢制限が下がったことにより、より対象物件と贈与対象者が増え、これまで以上に使いやすい贈与制度になったのではないでしょうか。
そのため今後、住宅取得資金贈与を使った資金移動が活発になり、特に中古市場の動きに影響が出る可能性があります。
改正案を踏まえてお客様へ伝えたい
3つの対策
令和4年度の税制改正大綱を受けて、お客様にぜひお伝えいただきたい対策は以下の3つです。
②生前贈与の種類や効果を把握する
③財産管理の手段を提供する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①不動産オーナーの収益改善
新型コロナの影響で賃貸収益が戻っていない中で固定資産税が上がることは、不動産オーナーにとって大きな負担となります。
そのため、不動産の収入増と支出減の対策を講じることが大切です。
しかし、大きな費用をかけたくない、すぐに出来る対策を講じたいというオーナーもいるでしょう。
そういったお客様には、以下のようなご提案をされてみてはいかがでしょうか?
・モノオク株式会社が提供している1畳単位の物置活用をして運用収入を得る。
・使っていない倉庫などの空間を簡易コワーキングスペースに転用して、新しい収益を得る。
工夫次第で収益改善は出来るのです。
また、そもそも現在の賃貸募集活動が、マーケットと合っていない可能性もあります。
皆様のお客様で、もし慢性的に空室が埋まらず悩んでいるオーナーさんがいらっしゃいましたら、これまでの入居者データ(属性等)、入居者や仲介会社に対して選んだ理由、選ばれなかった理由、住んでみた感想のアンケートの実施など、様々な情報を得てから、よりターゲットに選ばれるための空室対策を講じることを勧めてみてください。
空室対策や収益改善の提案についてはプロサーチでもお力になれますので、お気軽にお問い合わせください。
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収益不動産の空室に悩むお客様の5つの共通点と、空室解消のための5つのチェックポイント
②生前贈与の種類や効果を把握する
今回は住宅取得資金贈与の改正がおこなわれましたが、その他にも生前贈与の特例や贈与手段はありますので、確認しておきましょう。
代表的なものはこちら。
・留意点として、登録免許税などの流通税が高いことと、配偶者には相続時の配偶者控除の特例があるので、そもそも贈与する必要性があるのかなどを検討したうえで実行しましょう。
・贈与者の相続時、受贈者が23歳以下、学校等に通っている等の場合は、残余の教育資金贈与分に相続税はかかりません。
他にも、アパートの建物を子に贈与する、不動産を使った相続対策で注目されている小口化不動産を使った贈与などがあります。
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生前贈与は、相続税対策の効果もさることながら、子や孫に喜ばれるので、ついつい無計画にやってしまうご家庭もあります。
生前贈与するときは、ご自身のシニアライフステージでの必要資金が確保されていて、相続のときの遺産分割や納税資金に影響がない範囲で実行することが望ましいですね。
③財産管理の手段を提供する
冒頭でも述べたように、注目されていた暦年課税制度の見直しについては見送られましたが、これから段階的に改正がおこなわれてくる可能性が高いです。
今後は、相続発生前3年以内は相続に持ち戻すなどの、駆け込み対策がNGになる税制改正が増えるのではないでしょうか。
また、生前贈与以外の相続対策では、認知症等のリスクを意識して取り組んでいく必要があります。
特に認知症のリスクに関しては皆様ご認識の通り、相続対策が進められなくなってしまいます。
せっかく描いた相続対策が凍結しないよう、成年後見制度や家族信託も視野に入れた提案・検討をしていただくことが大切ですね。
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遺産相続コンシェルジュより
本記事のポイントはこちら。
・令和4年度の税制改正大綱で押さえておきたい3つのポイントは、①住宅ローン控除の改正 ②固定資産税の見直し ③住宅取得資金贈与の見直し
・改正案を踏まえて、お客様へ伝えたい3つの対策は、①不動産オーナーの収益改善 ②生前贈与の種類や効果を把握する ③財産管理の手段を提供する
税制改正大綱は100ページ近くあり、生活や事業に直結する税制の改正ばかりですから、専門家としてぜひキャッチアップしたいですね。
そして、その改正がお客様にどのような影響を与えるのかを把握して、これまでの対策を修正したり、新たな対策を考えて提案したりすることが大切です。(記:友重孝一朗)
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