アパート建築したら“相続”が“争族”になる!?円満相続を迎えるために必要な相続対策の進め方
「老後の生活を豊かに、安心して暮らしたい」
「子どもたちに少しでも多く財産を遺したい」
「子どもたちに良い暮らしをして欲しい」
このような理由から、『安定収益』を求めてアパートの購入や建築をする方はたくさんいらっしゃると思います。
今回は、「アパート建築の提案を受けているが進めていいのだろうか?」というご相談を受け、結果としてアパート建築を取りやめたお客様の事例をお伝えいたします。
アパート建築だけではなく、不動産を使った相続対策を検討中のお客様がいる専門家の方にぜひ読んでいただきたい内容です。
本記事のポイントはこちら。
・アパート建築の目的に『将来の子どものため』があるなら、親だけで進めないようにする
・不動産を使った相続対策には、公平な目線によるアドバイスが必要
・「アパートを遺せば子どもは喜ぶだろう」の『~だろう』は争続への危険信号
相続対策としてアパート建築を
提案されるものの一抹の不安が…
あるハウスメーカーの相続対策セミナーに参加し、相続した空き家にアパート建築を検討していたYさん。セミナーでは、講師から「アパートを建築すれば相続税が節税できて家賃収入も得られる」という説明を受け、大変興味を持ちました。
セミナー後の個別相談から始まり、ハウスメーカーの営業マンからも「アパートを建築すれば相続税対策になる」と説明を受け、Yさんは実際にアパート建築の見積もりをもらい、手続きを進めていこうと考えました。
しかし、検討していくうちに本当にこのまま進めてよいのかと不安に…。
そこでYさんは、顧問税理士のご紹介で、当社に相談にいらっしゃいました。
ご面談でお話をじっくり聞くにつれ、Yさんの状況や希望や不安などがたくさん出てきました。
・お子さんが3人(長男・次男・長女)いるが、独立して別々に暮らしている。
・不動産は自宅、他に相続で取得した空き家(アパート建築対象地)がある。
・アパート収入を生活資金の足しにしたいが、相続税をできれば抑えたい。
・アパート建築に伴う借入金3,000万円を返済していけるのか不安がある。
・アパートを残したら子どもたちに喜んでもらえるはず。
Yさんは「収益のある不動産なら将来子どもたちが相続した際に喜んでもらえると思う。なので、このままアパート建築をした場合、どれだけ相続税評価が下がるのか。借入金を返せて、生活資金の足しにできるくらい収益を上げられるのか聞きたくて」と仰っていました。
アパート建築による相続対策の
メリットとデメリット
ハウスメーカーの営業マンは「安定収入を得られますし、相続税対策に効果が高いのはアパート建築です。お子さんにも喜ばれると思いますよ」こう言いますが、本当にアパート建築はいいことだらけなのでしょうか。
ここで、アパート建築のメリットデメリットを見てみましょう。
・ローン返済後の手取りとして毎月賃料収入が見込まれ、親は老後の生活費の足しにできる。
・子は相続でアパートを取得することによって賃貸収入を得ることができる。
・空室増加などでアパート経営状態が悪化すると、毎月のローンの返済の他、管理費の支払いができず負の財産を遺すことになる。
・子がアパート経営に不慣れな場合、借入金返済に困り、結果的に手放す可能性がある。
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「空き地にアパート活用」が本当に正しい相続対策か?
相続チェックシートで分かる
親と子、それぞれの想い
Yさんのお話を聞いたあと、このような質問をしました。
「Yさんのお気持ちはわかりました。ところで今回のことについて、お子さんたちは何と言っていますか?」
Yさんは首を傾げて言いました。
「子どもたちになんて聞いてないよ。アパート建てるのは自分たちだし」
そんなYさんに一枚のシートを手渡し、次のようにお伝えしました。
「これは親と子の気持ちを確かめるためのチェックシートです。このチェックシートの項目をYさん、お子さんそれぞれで埋めてみてください。相続に対するそれぞれの想いがわかります。アパートを建てるのはYさんかもしれませんが、将来、相続によってお子さんたちもアパートを引き継ぎ管理運営することになるのです」
「アパート建築の目的に、お子さんを喜ばせるためとありましたが、本当にお子さんたちは喜ぶのか、このシートを使って、相続に対するYさんの想いや考え、アパート建築について一度話をしてみてください」
Yさんにお渡ししたチェックシートがこちら。
Yさんはしばらくシートを見つめ、悩んでいましたが意を決し、「わかった、一度話をしてみる」と約束をし、2週間後に再びお会いすることになりました。
Yさんとの2度目の面談
2週間後にお会いしたYさんは、
「アパート建築するのをやめたよ!」
「こないだのシートを使って子どもたちと話をしたんだ。そうしたら借金がついているアパートなんていらない、それに管理が大変そうで嫌だって言うんだよ。これじゃ収入が増えても何のためにアパートを建築するのかわからないし、自分たちに合った相続対策はアパート建築じゃないって気が付いたんだ」
そう笑顔で仰いました。
今回、活用したものはプロサーチで主催している不動産相続セミナーの中で使っているシートの一つです。実際にセミナーの中でチェックをしていただき、ご自身で相続対策の問題点に気が付くことを目的としています。
まずはYさん自身には上段を、お子さんたちには下段のチェックシートを埋めてもらい、その結果をもとにお子さんたちと話し合いをしてもらいました。
結果、喜んでもらえる「だろう」と思っていたことが、実際に話を聞いてみるとお子さんたちからは全く逆の答えが返ってきました。さらに、将来は兄弟3人が揉めないような遺産分割方法を今のうちから決めておいてほしいという意見も出たそうです。
チェックシートを経て、親子の想いのズレに初めて気づくことができました。
不動産の相続対策は
「資産と想いの現状把握」から
これを機に、お子さんたちも交えて下記のように相続対策を決めていくことになりました。
なぜこのような段階を踏むかというと、家族全員が同じ情報をもって取り組む必要があるためです。
ステップ① | 資産の現状把握(不動産や他資産の調査、分析、問題点の抽出など) |
---|---|
ステップ② | 家族の想いの把握(ステップ①の内容を見て、気持ちや相続への考えなどを 個別にヒアリング) |
ステップ③ | 相続対策案の作成(資産と想いの把握をもとに作る) ⇒紹介者の税理士と共同で作成。 |
ステップ④ | 説明会の開催(ご家族の前で当社が説明) |
ステップ⑤ | 対策の実行(家族皆で協議し決めた事を進めていく) |
上記のステップを踏んで進めた結果、以下の対策をすることに決まりました。
・将来は、長男には自宅、次男と長女には区分マンションを相続する
「子どもたちにとって迷惑なものを残すことになるのなら、誰の何のための相続対策なのか分からなくなるね。提案してくれた対策プランは誰も言ってくれなかったし、初めて知るものばかりだった。やっぱり公平な視点でアドバイスをしてくれる専門家は必要だね。これからもよろしく頼むよ」とYさんは仰ってくださいました。
もちろんアパート建築をすることが相続対策として有効なご家族もあるでしょう。
しかしながら、お子さんの意見や希望を聞かずに親だけで決めてしまうと、将来的に子どもに“負動産”を遺すことになったり、兄弟間で“争族”に発展したりする可能性も高くなるのです。
遺産相続コンシェルジュより
本記事のポイントはこちら。
・アパート建築の目的に『将来の子どものため』があるなら、親だけで進めないようにする
・不動産を使った相続対策には、公平な目線によるアドバイスが必要
・「アパートを遺せば子どもは喜ぶだろう」の『~だろう』は争続への危険信号
平成27年の相続税法改正以降、東京都内や地方都市に家を持っているだけで相続税がかかるとまで言われるようになり、『不動産等を活用した相続税節税を謳う商品』が巷に溢れています。
相続対策で一番簡単で、誰でも効果が分かりやすいのは節税ですから、遺産分割や相続税納税のことを考えず、安易に飛びついてしまうお客様が後を絶ちません。
専門家の皆様のところにも、「相続税節税のことをいろいろ言われたけど結局何をしていいか分からない」とご相談に来られるお客様が増えてきていませんか?
不動産の具体的な活用方法も大切なのですが、まず専門家として『そもそもその対策は実行していいのか?お客様一家に必要なモノか?』を考えることが重要だと考えます。
「相続対策って、何からすればいいの?」
親はどのような想いで相続させたいのか、子どもはどのような資産を相続したいかなどを知ることにより、その家族が円満に相続を迎えるために本当に必要な相続対策が見えてきます。
お客様に土地活用をしたい!と言われてアパートメーカーを紹介したらアパートを建てる提案があるだけ、不動産を購入したい!と言われて不動産仲介会社を紹介したら売買の話が出るだけ。それだけではお客様とそのご家族の想いや希望を真に叶えられないかもしれません。
不動産の専門家ではなくても、まずは本記事のヒアリングシートなどを活用して『親と子の考えや希望の整理』を行ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。(記:松尾企晴)
会社の事業理念に『家族の物語をつむぐ』を掲げ、不動産等のモノだけではなく、親や子に対する想いや思い出などのコトも含め、家族が織りなしてきた物語(モノやコト)を親から子へと継承していくことこそが【真の相続】と考え、不動産相続のプロとして、お客様の気持ちを聴き、寄り添う姿に多くの顧客から信頼を得ている。
現在は全国から寄せられる相続に関する相談の解決に尽力しながら、家族信託の提案や、相続問題解決のヒントをメルマガ・セミナーなどで情報を発信している。